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オーバーセンス  作者: 茜雲
一章 雨夜、灼きつく想い
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反撃


 ティオは剣先をストームタイガーへと向け、宣戦布告する。


 その眼には自棄や諦めは見られない。


 根拠のない自信ではない。先ほどの攻防によって、いくつかストームタイガーの技能にあたり(・・・)をつけることができた。


 まず、ストームタイガーが纏う風には若干ながら魔素が含まれている。言うなれば、常に風の魔術を纏っているようなものだ。おそらく、その風を防御に使うも攻撃に使うもストームタイガーの意思1つだろう。


 口にするのは簡単だが、その難易度は神業といって差し支えない。その技量に、ティオは改めて畏敬の念を覚える。


 実際問題、それは脅威である。無詠唱で、魔素を練る間も無く放たれる魔術など、どう対策すればいいのかすら分からない。それでも、ティオはもう、怯まなかった。ティオの瞳が赤く揺らめく。


「ロックブレイク!」


 魔術で硬質化させた直径1メートルほどの大岩を作り出す。あの風がある以上、無闇に近づくのは危険だと判断し、遠距離の魔術主体で攻めるのだ。


 とはいえ、生半可な魔術ではダメージすら与えられないのはもうわかっている。それを踏まえ、質量で圧す魔術を選択する。これであれば直撃すればダメージは与えられるだろう。


「いっ……けぇ!」


 作り上げた岩を真っ直ぐストームタイガーに向けて撃ちだす。速度は十分。その大きさも相まって、避けるのは容易ではない。


 しかし、相手が並でないことはこれまでの攻防で十二分に判っている。体内で魔素を練りながら、2手、3手と次の手を考えていく。


 案の定、ストームタイガーは苦も無く大岩を回避してみせた。魔術だけでなく、身体能力も段違いだ。とはいえ、予想通りでもある。ティオは動揺せず、次の魔術を紡いでいく。


「ストーンバレット、ファイアボール」


 ティオが出会い頭にも使用した、使い勝手のいい魔術セットである。だがその威容は決して同じものではない。


「ごるる……」


ストームタイガーは警戒の唸り声をあげる。その理由はもちろんティオの周囲を埋め尽くす火球と石礫だろう。その数はもはや数え切れないほどであり、確実に100は超えていることはわかる。


 もしここに他の魔術師がいれば、おそらく驚愕に顔を歪めるだろう。ティオはしていることはそれほど異常なことであった。ティオの年齢を鑑みればなおさらである。


 むしろ、ティオ自身も内心では驚愕していた。ここにきて魔術の制御技術が明らかに向上している。いつもより魔素を強く感じ、身の内に宿る魔素さえもはっきりと感じ取れた。


 感じるままに魔素を操れば、文字通り桁違いの魔術がそれを証明する。頼もしさすら覚えるその感覚に、こんな状況にも関わらず笑みがこぼれた。


 ティオが手を振るえば、数多の火球と石礫は豪速をもってストームタイガーへと迫る。


 ストームタイガーは驚愕からか一瞬動作が遅れるが、次の瞬間には前方に烈風を起こし、火球を吹き散らした。しかし石礫は烈風を物ともせず貫いていく。


 ストームタイガーの巨体では、膨大な数で迫るそれを避けきることは不可能だ。しかし、次はティオが驚愕する番であった。


「んなっ!?」


 ストームタイガーは特に変わったことはせず、そのまま直進した(・・・・・・・・)。当然、石礫がいくつか直撃するが、大して効いた様子は無い。


 1発1発がブラックウルフを吹き飛ばす程の威力であるにも拘らず、それを受けて平気な顔をしている。纏った風と、硬質な体毛が鎧の役目を果たしているのだろうが、それにしても堅い(・・)にも程がある。とことん規格外な存在だと内心でため息をつく。


「……グレイブランス!」


 呆れと動揺と噛み殺し、迫ってくるストームタイガーを土の槍で迎撃する。


 ストームタイガーは地面から突如現れたそれを左右へのステップで回避するが、回避した先で更に槍が飛び出す。それも避けると更にその先ではすでに槍が待ち構えている。それをも風弾で打ち砕いて着地するが、左右から逃げ道を塞ぐように槍が飛び出した。


 怒涛の攻撃にたまらずティオから距離を取るように後方へ大きく跳んだ。


「そこだ! ライトニングスピアッ!!」


 それを読んでいたように空中にいる瞬間を狙い、必殺の一撃を見舞う。


 召喚した雷がストームタイガー目掛けて落ちる。しかしストームタイガーは落下の途中で風を解放し、その勢いで体勢を変えて見事に回避する。


 それを見てティオは舌打ちした。ティオとて、これで仕留められるとは思っていなかったが、魔術の威力もタイミングも申し分なく、渾身の一撃であったことは間違いない。それをあっさり避けられたとなると思わず舌打ちのひとつもしたくなるというものだ。


 そこで、ティオは視界に何かを捕らえた。


(ちっ……ん、なんだ――っ!?)


 咄嗟に剣を振り、エアストラッシュを放つ。剣先から飛び出した風の刃は不可視の何かと衝突し、周囲に烈風が吹き荒ぶ。ティオは舞う砂埃から逃げるように後方へ飛びのき、額に滲む汗を拭った。


「あれを避けるだけじゃなく、反撃までしてくるってどんなだよ……。ほんと規格外だな」


 ティオの言う通り、ストームタイガーは回避で身を翻した際に風刃を飛ばしていたのだ。空中で、攻撃を回避しながらのそれは流石に予想外だった。


(けど、見えてきた)


 そう、今度は見えた。あの風刃のことである。


 厳密には見えたのは魔素の光だ。やはりティオの魔素に対する感覚は明らかに鋭くなっている。


 原因はティオもわからないが、今はそれを考えるときでないことはわかる。故にティオは次々と湧き上がる己が疑問の悉くを打ち払い、代わりに新たな魔素を生成する。


「まだまだいくぞ!」

 

 有言実行。新たに練った魔素で次なる魔術を行使する。


「ライトニングスピア!」


 再び雷の魔槍を召喚し、狙いを定める。その数は実に4、迸る紫電がさらにその威容を際立たせる。


 しかし直ぐにそれを解き放つことはしない。そのまま撃っても容易に避けられるであろうことはこれまでの戦闘で重々承知している。故にティオはその足を前に踏み出した。


 ストームタイガーはもう何度目かわからない驚愕に目を見開く。ティオはストームタイガーへと斬りかかったのだ。ライトニングスピアを放つでもなく、制御を手放すでもなく、いつでも放てるように保持したままだ。


 普通ではありえない技術だ。多少、魔術を放つタイミングは調整できても、保持したまま別の行動をとるなど出来ない。制御性の高い生成した魔素ならではの技術だろう。


 ストームタイガーが驚愕している間にティオは距離を詰める。今度はこっちが攻めたてる番だと、目が語っている。そしていざ切りかかろうとした瞬間、ストームタイガーは後方へ飛び、距離を取った。


(やっぱりっ!)


 先ほどは真っ向から受けた攻撃をなぜ避けたのか。それはストームタイガーが纏った風が弱まっているからに他ならない。


 ティオの攻撃と、ストームタイガー自身の攻撃の際にも目減りしているからだ。ティオの眼には確かに攻撃の度に纏う風に含まれる魔素が減っていくのを捉えていた。


 すぐに補強しないのは、おそらくそれに多少の集中が必要だからだろう。だからこそティオはその時間を作らせない為、一気呵成に攻めたてているのだ。


(今ならおそらく斬撃も通る! そうなればいつもの通りに戦うだけだ!)


 ティオが手を翳せば保持していた雷球のうち一つから雷光が迸る。それは着地寸前のストームタイガーにまっすぐ向かっていく。


「ガッ!」


 貫いた。ついに、ようやく、ティオの攻撃がまともに命中したのだ。ティオはその事実に笑みを浮かべる。だが喜べたのは一瞬だけだった。


 ザッっと音を立ててストームタイガーが着地する。ライトニングスピアの直撃を受けてなお、膝を折ることも、隙を見せることもなく、ただこちらを睨みつけていた。


 その視線でティオの背に冷や汗が流れる。理解したのだ。本気になった、と。


 これまでとは全く違う圧迫感。この森の中で何度も受けたその気迫。まさしく殺意、殺気。今ようやく、ティオはストームタイガーの“敵”となったのだ。


 ティオは気合いを入れなおす。今からが本番。一瞬のミスが死に直結する世界だ。


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