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オーバーセンス  作者: 茜雲
一章 雨夜、灼きつく想い
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巨人、再び


 湖を出発しておよそ10分。南に向けてしばらく歩いていた。


 その途中で食糧になりそうなものがないか見ていくが、それらしきものは見当たらない。


(果実どころか、野草も食べられるものはほとんどない……。動物も見ないし、どうなってるんだ?)


 ティオは何度か、ラステナに連れられて、低ランクながら魔物の出る森に行ったことがある。


 実戦訓練を目的として行ったのだが、何かの役に立つかもとサバイバル知識もついでに教え込まれていた。食用の野草などに関する知識はそこから得たものである。


 しかし、この森はティオの知る森とはもはや別物であった。


 背の高い木々が立ち並び、昼だというのに薄暗い。何より異質なのは魔物以外の動物がいない事だった。森に入ってからはリスやウサギなどの小動物はもちろん、鳥すら見ていない。


(なんというか、生気がないというか……)


 全体的に仄暗く、重い雰囲気の森だった。


「そういえば、魔物って何を食べて生きているんだろう……」


 魔物の生態系には謎が多く、ほとんど解明されていない。


 人や動物を襲うという話はよく聞くが、食べるために襲っているわけではないとされている。基本的に、襲われるのは魔物の縄張りに入った場合だけであるし、襲われた後、遺体は放置されているからだ。


 実際、ほとんど死に体のようなこの森の状況を見るに、普通の動物と同じように食べて生きられるとは思えず、それ以外の何かで生き続けているのは確かだろう。


 ともあれ、今それを考える意味はない、とティオは先を急ぐ。


 途中、何度かブラックウルフなどの低ランクの魔物を見たが、隠れてやり過ごすか、他の魔物に見つからないように気を付けつつ斬り伏せていく。


 そうして進んでいくと、遠くに見覚えのある魔物が見えた。


(トロールッ! やっぱりいたか! でも、ずいぶん奥にまで来ているな……)


 昨夜トロールと遭遇した場所はもっと先、街道に近い場所である。あれほど浅い場所にトロールがいることがまず異常なので、ここにいても不思議ではないのだが。


(この近辺が本来の縄張りか? それとも……)


 トロールは先ほどから何かを探すようなそぶりをしている。ザンギを探して回るだろうということは、可能性として考えていたことだ。


 しかし、トロールは街道側でなく森の奥へと進んできている。ザンギがわざわざ森の奥へと逃げることはないだろうから、ザンギを追ってここまで来たとは考えにくい。


 考えられる可能性としては、ザンギのことはさっさと諦めたか、昨夜のとは違う個体か、だろうか。


 しかし、トロールの体のあちこちにある真新しい傷が後者ではないと物語る。同時に、それほどの傷を負って簡単に諦めるとも思えない。つまり……。


 最悪の考えがティオの頭をよぎる。つまり……ザンギに傷を負わされたが逃げられた為、もう2人(・・・・)の方を腹いせに……と。


 背中に冷たいものを感じ、一歩後ずさる。その時、小さい木の枝を踏んでしまい、ポキッと、小さく鳴った。


 次の瞬間、トロールがギュルンッと音が出そうなほどの勢いで振り向き、ティオと目が合った。


「ゴアアァァアアッ!!」


 地震かと錯覚するほどの大声でトロールが叫ぶ。どうやら相当お怒りらしい。ティオは即座に踵を返し、全速力で駆ける。


「あの距離であれが聞こえるとかっ……どんな聴覚だよ、くそっ……!」


 トロールとの距離は50メートル以上離れていた。その距離であの小さな音を聞きつけたのは驚異的な聴覚だ。ランク5は伊達ではないということだろうか。


 ティオは悪態をつきながら木々を避けつつ最短距離で元来た道を駆け抜けていく。


 対してトロールは木々を薙ぎ倒しながらの直線距離でそれを追う。薙ぎ払っている間もほとんど減速していない。あきれた身体能力である。


 ティオも全力で走っているが、二者の距離は目に見えて縮んでいく。このままだと数分と待たず、追いつかれてしまうだろう。


 ならば、とティオは魔術で対抗する。知っている魔術を頭の中でさらい、今有効なものを選び取り、発動させる。


「惑え、ミラージュシフト!」


「ガッ!?」


 ティオの姿が分裂し、3人に分かれる。同時にトロールから困惑の声が漏れる。


 唱えたのは幻惑の魔術、自分の姿を複数映す魔術だ。中級魔術であり、それなりに難易度の高い魔術、ではあるのだが、弱点が多く、あまり使う者はいない。


 理由を挙げるならば、まずそれはただの鏡写しであり、個別の動きをできないこと。分身は実体を持たず、幻惑以外の何も出来ないということ。


 また、分身を構成するものは魔素であり、それなりに魔術に造詣の深い者ならば魔素の気配であっさり分身を看破できてしまうのだ。


 ということで、難易度の割にフェイント程度にしか使えない魔術であると、敬遠されがちな魔術である。が、それは人間が相手の場合であり、相手が魔素を感知できない者であれば効果は十分期待できる。


 魔物が魔素を感知できるかどうかは知られていない。だが、トロールが魔術を使ったという話は聞かないため、感知できない可能性は十分考えられるとティオは判断した。


 ティオと、その分身は正面と左右の三方向に分かれた。本物はどれか1人。トロールが魔素を感知できなければ、3分の1の確立に賭けるしかない。


「ゴアァ……」


 それを見て、トロールは足を止める。3人のティオを見下ろし、値踏みするように左、正面、右と順に睥睨する。


「ゴアァア!」


 直後、正面の、本物のティオを睨みつけ、吼える。そして、それまで以上の殺意と怒りを込めてティオを追う。


 ティオはあっさり看破されたことに驚きを示しつつも、冷静に分析する。


(魔素を感知出来るのか? あるいは偶然か……)


 ふと、走りながら一瞬後ろへ視線をやる。トロールの表情と殺気を見て、確実に本物だとばれていると察し、分身を解除した。


 視界の端で分身が空気中に溶けるように消えていくが、トロールは一瞥もしない。やはり確信を持って目の前のティオを本物と定めたようだ。


 厄介だな、と思いつつ次の手を模索する。実際はもうそれほど多くの手は残されていないが、ティオはあくまで冷静だった。


 ただ生き残ることのみを考える。今は手が無くとも、思いつくまで考え続ける。諦めない、生き抜く、それがソルチェとの誓いだ、と。


「ディープミスト! 爆ぜろ! フロートマイン!」


 生きるための魔術を繰り出す。ティオの周囲に深く濃い霧が立ち込め、トロールの視界を塞ぐ。トロールは構わず霧に突っ込むが、そこで小規模ながら爆発が起きた。


「グオォ!?」


 トロールの左腕で爆発したそれは、ティオの魔術で生み出した機雷である。接触したら爆発するというものだ。それが霧の中で多数浮遊している。


 トロールは一瞬逡巡するも、火力は低いとみて直ぐにティオの追跡を再開する。自身の顔だけは腕で守り、速度を緩めることなく突っ切る。


 大量の機雷が爆発し、トロールを爆炎が包み込むが、気にした様子も無く走り続けた。そして、霧を抜けたとき、そこにティオの姿は無かった。


なんとなくで書き始めた別の短編が筆に乗っている……

形になったらなろうに投稿するかも

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