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オーバーセンス  作者: 茜雲
一章 雨夜、灼きつく想い
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悪意

 ティオは剣を強く握り、状況を考察する。


 ブラックウルフは残り6頭、油断は出来ない数だ。ソルチェがいるので、不用意に前に出ることも出来ない。


 しばらく膠着状態が続く。そうしていると、ブラックウルフのうち2頭ほどが痺れを切らして飛び出してくる。群れのリーダーらしき一回り大きい個体が、止めようと一吼えするが、もう遅い。


「突き通せ、グレイブランス!」


 迫ってくる2頭の足元から、土の槍が飛び出す。1頭は直撃し、1頭は回避したものの体勢を崩した。


 ティオはその隙を逃さず、魔術で追撃する。


「エアストラッシュ!」


 魔術を発動し、剣を振る。刃先から真空の刃が飛び、ブラックウルフを両断する。小規模な風の刃を生む簡単な魔術だが、使い勝手が良く剣士に好まれる魔術である。


 残りのブラックウルフはあっさりと蹴散らされる仲間を見て連携する必要があると察したのか、リーダーの周りに集まりだす。だがそれを容易に許すつもりは無い。


「ストーンバレッド! 斬り穿て、エアブラスター!」


 多数の石礫を飛ばし、連携を乱させる。更に石礫を回避したところを風の弾丸で正確に撃ち抜いて行く。残り3頭だ。


 一斉に攻めなければ勝てないと判断したのか、リーダーらしき個体が一吼えするとティオに向かって駆けていき、残りの2頭もそれに追従する。


 ティオがもう一度グレイブランスを放つが、リーダーが吼えると同時に3頭ともその場を飛びのき、回避する。


 狼種のような素早い相手には向かないとはいえ、中級魔術を回避するあたり、リーダーらしき個体はランク2程度の強さを持っているようだ。


「奔れ、バインドウェイブ! エアストラッシュ!」


 ティオの足元から、ブラックウルフ達に向けて三条の光が奔る。


 リーダーともう1頭は咄嗟に回避したが、1頭はまともに受け、転倒した。


 バインドウェイブは電気の帯を走らせ、触れたものを一時的に麻痺させる魔術である。これで転倒したブラックウルフは少しの間動けないだろう。


 そしてエアスラッシュで、バインドウェイブを避けた方の個体を狙う。体制を崩したところを狙われ、真空の刃の直撃を受けて両断された。


 これで、リーダーとの一騎打ちの様相になった。だがそれでもブラックウルフは躊躇せず、勢いそのままにティオへと迫る。


 ティオが迎撃しようと剣を振るうが、あっさりと避け、すれ違いざまにティオの肩を爪で切り裂いた。


 ティオは自分の攻撃を至近距離であっさりと回避されたことに驚きつつも、自分が得意なのは魔術との連携技であると、直ぐに気を取り戻してブラックウルフに向き直る。


「インパルス!」


 魔術を唱える。ブラックウルフは咄嗟に飛びのくが、特に見た目に変化はない。


 訝しがりながらも再びティオに飛び掛るが、ティオはそれを完璧に回避し、すれ違いざまに斬撃を見舞った。


「ガァッ!?」


 斬撃を食らいつつも、何とか体勢を直して着地する。胴からは血が滴り落ちており、重症であることがわかる。しかし、闘志は揺るがないようだ。代わりに、急に動きが良くなったティオに対して困惑の目を向ける。


 インパルスは術者の動体視力などの反射神経を一時的に引き上げる魔術である。


 治癒魔術にも言えることだが、術者を含む生命体に直接作用する魔術は、総じて難易度が高い。魔術自体の難度もそうだが、制御を誤るとその影響を直接受けることになるため、現実的に運用するには熟練が必要なのだ。そのような魔術をあっさりと使いこなすところも、ティオの才能を際立たせている。


「グルルルル……」


 そんなことを知るはずも無いブラックウルフだが、警戒して攻めあぐねている様だ。


 ティオはそれを好機とみる。あまり時間をかけると先ほど麻痺させた個体も動き出してくるであろうし、インパルスの効果も永遠ではないのだ。決着を着けるべく、ティオは先制攻撃を繰り出す。


「沈め! マッドプール!」


 ティオの詠唱に反応し、またも咄嗟に飛び退こうとしたブラックウルフだったが、今度はそれすら叶わなかった。


 飛び退こうと踏ん張った足が地面に沈む。ブラックウルフの周りだけ泥沼化したのだ。


 動きを封じられたところをティオが逃すはずも無く、一足で距離を詰め、切り伏せる。


 ブラックウルフはやがて、完全に動きを止めた。


 ブラックウルフが息絶えたことを確認し、ティオが緊張を解いてソルチェの方へ振り向いたとき、視界に影が差した。ソルチェが直ぐ目の前にいたのだ。


 ティオに背を向けており、何をしているのか訝しんだが、その答えは直ぐに分かった。それも、最悪の形で。


 ドスッ、という音がした次の瞬間、ティオの顔に血しぶきが飛ぶ。どこからか。決まっている、ソルチェからだ。


 ソルチェの肩と、心臓の位置から矢尻が飛び出していた。突然のことで、ティオの思考が停止する。だが無情にも時は流れ続け、ソルチェの体がゆっくりと倒れていく。


 ソルチェの身体の先に見えたものは、弓矢を構える魔物が2匹と石斧を持つ魔物が1匹。緑色の肌を持ち、醜い笑みを浮かべる悪意の魔物、ゴブリンだった。


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