6.タゲテス
町を散策するのは四人。
私、アイビ、ポーラさん、アリスメリアさんだ。
メモーアさんは、他にも仕入れる物がある。
その為、別行動だ。
三年以上ぶりの町はとても新鮮だった。
額は少ないものの、こつこつと貯めてきたお金がある。
出来れば、かわいい服を買いたいな。
アイビとアリスメリアさんも同じ事を考えていた。
ポーラさんも、満更でもなさそうだ。
私達四人は、まずは服屋さんに行く事に決定した。
いろんなお店の服を見てみる。
途中で見つけた果物屋さんを覗いてみたりした。
そこで私が興味津々に見ていた果物。
グィミーなる楕円形の赤い果物だ。
アリスメリアさんが、人数分買ってくれた。
歩きながら食べてみる。
渋くてとても酸っぱかった。
四人で、微妙な顔になったりした。
お昼に食べた料理も美味しかった。
ワクワクした甲斐があったと思う。
そんなこんなで、約束の時間になるまで、四人で楽しんだ。
町の散策を楽しんだ私達。
帰る為に待ち合わせ場所に向かう。
突然、周囲を囲む革鎧の一団。
彼等は総勢十二名。
「タゲテス様を渡して貰おう」
リーダーらしい男。
アリスメリアさんを見た後そう言った。
その言葉で、彼等の狙いが誰なのか理解した。
「アリスメリア騎士団団長様。渡して貰えれば、手荒な事はしない」
「そう言われて私が渡すと思うのか? 騎士団に喧嘩を売ると解釈するが?」
「出来れば穏便に済ませたかったのだが。あなたの武勇は知っている。しかし、この人数差で守りきれると思っているのか?」
私には回りの会話が余り耳に入っていなかった。
今更私を狙う理由がわからない。
タゲテス家は三年以上前に滅びてる。
それなのに、私を欲する理由がわからない。
「ポーラさん、アイビ、マリーを頼みました」
私の視界に入ってきたアリスメリアさん。
剣を抜いて掲げているらしい。
その後、革鎧の一団が驚いたようだ。
「私が一人でいると思ったのが間違いだな。しかし、まさかこんなに堂々と出てくるとは思わなかったが」
何が起きているのかわからない。
しばらくして私はアイビとポーラさんに連れられる。
二人に先導されて、その場を後にした。
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ミニャオンでの出来事。
あれから、二週間が経過している。
私達はあの後は、何も問題が起きる事なく戻る事が出来た。
ただ、アリスメリアさんは事後処理があった。
その為一緒には帰っていない。
第二騎士団の一隊がミニャオンに丁度到着していた。
別行動を取っており、帰還したそうだ。
彼等に護衛され、私達は戻った形だ。
私は、突然数日の間、仕事が休みになった。
今はとある一室で座っている。
質素なテーブルと椅子。
テーブルの上にはティーカップが一つ。
ここは、今はアリスメリアさんの私室となっているそうだ。
「マリーちゃん、待たせてしまってすまない」
騎士鎧に身を包んだアリスメリアさん。
何があったのかはわからない。
けど、ところどころ汚れている。
たぶん、簡単に拭いてきただけなのだろう。
「こんな格好ですまない。あの事件の後からいろいろと立て込んでてね」
「いえ、でもそんな忙しい中、何故私を?」
「うん。本当はもっとはやく教えておきたかったんだけどね」
椅子に座ったアリスメリアさん。
微かに軋む椅子。
しばらくして、女性の騎士様が紅茶を持ってきた。
「ありがとう」
アリスメリアさんの言葉。
彼女は一礼するとその場を後にした。
紅茶を一口飲んだアリスメリアさん。
「紅茶は口に合わなかったかな?」
予想外の質問に、私は一瞬答えに窮した。
「え? えっと、いいえ。そうじゃないんですけど、呼ばれた理由がわからなくて」
そこで何かを決意するかのような眼差し。
覚悟を決めたような表情のアリスメリアさん。
「過去の傷口を抉る事になるのかもしれないけど。マリーゴールド・タゲテス、この名前に聞き覚えはあるよね」
予想してなかった人物の名前が出てきた。
それは、私の名前だ。
「私の名前です」
「うん、それじゃタゲテス家の言い伝えについて何か聞いた事は?」
「え? 言い伝え? いいえ。ありません」
アリスメリアさんは何の話をしようとしている?
正直、私にはさっぱりわからなかった。
「そうか。花人の神様の御伽は知ってるよね?」
「はい。もちろんです」
「タゲテス家は、花人の神様の血を引き継いでいる一族の一つだと言われている。これは、調べてわかった事なんだけどね」
「え!?」
始めて知った。
「ともかく、元タゲテス国のどの程度までかはわからないけど、マリーちゃんを花人の神様の転生だと信じていたらしいんだ」
「私が転生!?」
「あぁ、違うな。花人の神様の血を最初に受け継いだ人かな? 何をどうしてそう信じるようになったのかはわからない。でも、マリーちゃんがいればタゲテス家は再興出来ると考えている人達がいるみたい」
突然の話しに驚く私。
喉が渇いている事にしばらく気付かなかった。
紅茶を一口飲むと、渇いた喉を潤す。
「私にはどうしてそんな思考に陥ったのかはわからないけどね。でも、タゲテス家には花人の神様に選ばれし血族は、絶望を塗り替える力を持っていると伝承が残っていた。たぶん、これを本気で信じているんだろうね」
アリスメリアさんの話し。
私は何をどう言えばいいのかわからなかった。
ただ、あそこで何故タゲテスの名前が出てきたのか。
それだけは何となく納得出来た。
「わ・私、そんな力何て持って無いですよ」
「これはね。実際に持ってるかどうかは彼等には関係ないんだよ。マリーちゃんが持ってると勝手に信じているのさ」
「そう・・ですか」
私はこの話しを聞いて、どうすればいいんだろうか?
「さすがにここに現れる事はないと思うけどね」
結局それでその話しは終わった。
先程の騎士様が血相を変えて現れたのだ。
その為、私はその場を辞するしかなかった。
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私はどうすればいいんだろう?
どうしたらいいんだろう?
昨日、退出する間際に、気にする事はないと言われた。
ただ、真実を伝えたかっただけなんだ、と。
でも、こんな話しされたら、どうしても考えてしまう。
悶々としたまま、私は今日の仕事を始める。
今日もポーラさん、マイーラさん。
後はいつぞやの新人さん、確かルテアさんと一緒だ。
でも、時間になってもルテアさんは現れなかった。
しかたなく、割り当てられた最初の死ビト。
その布を剥ぐポーラさん。
現れた死ビトの姿に、私達は一瞬思考が停止した。
年齢はわからない。
けど、体格から私と同じくらいだと思う。
ほぼ全裸だった。
控えめな胸も股間部も隠されていない。
体中は痣だらけで、片目は潰れている。
顔もぼこぼこだ。
原型を留めているとはいいがたい。
胸にあるべき物が、片方が存在すらしてない。
股間部には夥しい赤黒い血の塊がこびり付いていた。
何をどうすればこうなるのか想像すら出来ない。
そもそも、この死ビトから何を剥ぎ取れと言うのだ。
何がどうなっているのかわからない。
ポーラさんもマイーラさんも同じような事を考えていると思う。
最初に正常さを取り戻したのはポーラさん。
「酷いなんてものじゃないな。マイーラ、マリーを頼む。私は上の奴等に確認してくる。いや、文句だな」
ポーラさんの足音が遠ざかる。
その中、私はマイーラさんに抱き締められた。
台の上の少女を見ないようにされている。
周囲の他の台で、剥ぎ取りを始めようとした仲間達。
突然何か騒いでいる。
「どうなってんだこれ? 女だと思うが、全裸で首から上がないぞ?」
「おいおい、これから何を剥ぎ取れって言うだよ?」
私の頭の中に、様々な文句が入っては消えていく。
「仕事になんないじゃねぇか。外回りは何してきたんだよ?」
そうだ、これを運んできたのは外回りの傭兵団だ。
「そう言えば新人達が誰一人いねぇな? どうゆう事だ?」
「あいつ等、散々ここの仕事はおかしい言ってたな。そりゃ、死ビトから装備品剥ぎ取るなんて、真っ当な仕事とは言えないけどよ」
「俺達は生きる為に他に道がなかったしな」
「人質を取られて働いている奴もいるって聞いた事あるぜ」
その時、突然響き渡った轟音。
私とマイーラさんは、思わず視線を音の発生源に向けた。
土煙の中に見えた存在。
手の先が鎌になっている蟲人が二体。
ただ、その大きさが尋常じゃない。
私が以前見たのとは比べものにならなかった。
「皆逃げろ!?」
怒号と叫び声、悲鳴。
様々な音が溢れていた。
その中、私はマイーラさんに手を引かれる。
その場から急いで逃げた。
「くそ、何がどうなってんだ? 騎士団はどうした?」
混乱する私はマイーラさんに手を引かれている。
正面玄関から外に出た。
そこにも蟲人がいる。
騎士団と戦闘中だ。
乱戦状態のようだった。
「マイーラに、マリーか? こっちは無理だ。裏口から逃げろ」
アリスメリアさんやカストールさん。
他の騎士団様も戦っている。
「マリー、行くよ」
再び走り出した私達。
目指すは裏口だ。
裏口を通った直後、吹き飛んだマイーラさん。
彼女に引っ張られる形で私も転がった。