5.ミニャオン
昨日、怖い夢を見たせいなのか?
それともアイビと一緒に眠ったからなのか?
いつもよりも遅い目覚めだった。
「マリー、おはよ」
寝ぼけ眼で声のした方を見る私。
アイビが自分のベッドに座って微笑んでいた。
「おはよ。アイビ」
空よりも青い髪を梳かしていた。
「私もさっき起きたところなんだよね。朝ご飯の時間過ぎちゃってたね」
苦笑いのアイビ。
体も頭も覚醒し始めた私。
徐々にお腹が空いている事に気付いた。
「マリー、ちょっとまだ御飯残ってるか見てくるね」
「え? それなら私も行くよ」
「あるかどうかわからないし。それにマリー起きたばっかでしょ。女の子なんだからさ。まずは身嗜み整えなよ」
そうだ。
私は寝起きなんだった。
髪の毛とかちゃんとしなきゃ。
「じゃ、そゆことで行ってくるね」
私とアイビは、何とか朝食を食べる事が出来た。
黒パンと豌豆のスープだ。
厨房の料理長は、しょうがないな。
そんな感じで笑って許してくれた。
そんな感じで、朝ご飯を食べた私達。
花壇で花の手入れをしている。
花の手入れは楽しいと思う。
毎日ずっとやってるわけじゃない。
だから、そう思うのかもしれないけど。
「休みの日に花壇の手入れか。がんばるねぇ」
声がした方を振り向く私とアイビ。
ポーラさんが普段着で微笑んで私達を見ていた。
「休みの日じゃないと、中々時間ありませんからね」
私が思った事を、アイビが先に口にした。
「団長が明日仕入れとかに、町にいくんだけどさ。第二騎士団団長様の口添えで、マリーとアイビも許可下りたんだけど来るかい?」
「えっ? いいんですか?」
「いいってさ。いくのは団長、私、マリーとアイビ、第二騎士団団長様と部下二名かな? マリーにアイビ、騎士団団長様にちゃんとお礼いってね」
「はい」
「うん」
「明日の朝ご飯終わった後に出発すると思うから。あぁ、で向かうのはミニャオンって町ね」
ミニャオン?
何か聞き覚えあるな。
あぁ、そうか。
ここから一番近い町だ。
「馬でゆっくりで北に二時間って所でしたっけ?」
「さすが外回りだ。そうそう二時間ぐらい。もっとも私やマリーは、乗馬なんざした事ないからね。人数の関係もあるけど、マリーは騎士団の馬車に乗せてくれるってさ」
「凄いじゃない。私も乗ってみたいなぁ」
騎士団の馬車?
「もしかしてあの凄い馬車ですか?」
「マリーの凄いの意味がわかんないけど、たぶんそうじゃないかな?」
町に行く事、騎士団の馬車に乗れる事。
どちらも私の心をワクワクにさせてくれた。
「マリー凄い嬉しそうな顔してる」
「ほんとだね。アイビもだけど。まぁ、それこそ騎士団団長様様様だね」
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その日は興奮のあまり、眠気がこない。
中々眠りに付く事が出来なかった。
ここに来て、いい意味でこんなに興奮した。
そんなのは始めてかもしれない。
アイビに興奮し過ぎと苦笑いされるのも当然だ。
でも、興奮しちゃうものはどうしようもないよ。
次の日、私はアイビに朝起こされた。
起こされなかったら、そのまま寝てたもしれない。
朝ご飯を食べた後、私とアイビは町へ行く準備をした。
私は水色のエプロンドレス。
髪の毛はポニーテールにした。
アイビはピンク色のエプロンドレス。
集合場所に向かう私達。
スキンヘッドの屈強な男性が、馬を撫でていた。
メモーア・イキン、傭兵団団長だ。
馬車は二台ある。
一台は傭兵団の荷物運搬用。
木製の質素で大きな馬車。
メモーアさんとアイビ、ポーラが乗る。
傭兵団団長自ら御者をするようだ。
私が案内された馬車。
騎士団の紋章が刻まれいた。
とても優雅な感じがする。
中も広々として清楚だ。
四人乗っても狭く感じる事はなさそうだった。
でも、それよりも一番驚いた事がある。
第二騎士団団長がアリスメリアさんだった事だ。
一昨日の状況から、騎士団の中では偉い人だろう。
そうは思っていた。
だけど、まさか団長だったとは思ってなかった。
でも、思い出してみれば、納得出来る。
お礼を言う私とアイビ。
アリスメリアさんは何故か謙遜していた。
何でだろう?
照れていたのかな?
メモーアさん達の乗る馬車が先頭を走る。
その次が私とアリスメリアさんの馬車。
アリスメリアさんの部下二名は、馬に乗って最後。
臨機応変に、周囲を警戒するそうだ。
「マリーちゃん、具合悪くなったりしたら教えてね」
私と対面して座っているアリスメリアさん。
とても柔らかい微笑みだ。
「乗り心地悪いかもしれないけど」
そんな事ないと思う。
数えるぐらいしか馬車に乗った事はない。
けど、座席はフワリとしてる。
振動もほとんどない。
「そんな事ありません。座り心地も悪くないですし、振動もほとんど感じません。数えるぐらいしか馬車には乗った事ないですけど、たぶん一番です」
「そう言ってもらえるとありがたいかな」
アリスメリアさん、何だか嬉しそうだ。
「あの。アリスメリアさん、変な事聞いていいですか?」
第二騎士団団長様の口添え。
ポーラさんから聞いて疑問に思った事だ。
それが、アリスメリアさんだと知る。
疑問への知りたいという欲求が高まった。
「私とアイビの同行の許可に口添えしてくれたみたいですけど、どうしてでしょうか? ありがたい事で、とても嬉しいんです。でもなんでかなって気になって」
「んー? 何だろう? 一昨日怖い思いしたから、気晴らしをさせたいって思ったからかな? いや、違うな。もちろんそれもあるんだけど」
気晴らしをさせたいか。
確かに一昨日は凄い怖かった。
たぶん、アイビが一緒に寝てくれた。
そうじゃなかったら、一人震えてたんじゃないかな。
あの後一人で眠る事は出来なかったと思う。
「私には下に妹が二人いるんだ。戦時だし、騎士団の団長なんてしてるからね。もう三年以上顔を合わせていないかな?」
「はい」
「手紙での遣り取りはしてるんだけどね。どうしても、届くのには時間がかかる」
「はい。そうですよね」
「たぶん、アイビとマリーは雰囲気が妹達に似てるんだな。改めて考えてみると、二人には迷惑かもしれないけど、妹達とだぶらせてしまっているのかもしれないな。だからかな?」
「迷惑だなんて、そんな事ありません。正直、嬉しいです。私には兄と姉、妹がいました。でも二人とも私には冷たかった。むしろ妹に優しかった。だから、アリスメリアさんみたいな姉だったら大歓迎です」
「そっか。マリーちゃんもいろいろあったんだね。剣を振るしか能がない姉だけどな」
私とアリスメリアさん。
どちらからともなく、微笑みあった。
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ミニャオンは、壁に囲まれている町だった。
壁の上には、騎士様らしき人達がいる。
私達は、ほぼ素通りだった。
けど、町の出入口には並んでいる人達がたくさん。
帝国の中での騎士団の力はやっぱ凄いんだろうな。
私達は、そのまま馬車で町の中に進んでいく。
馬車の窓から見えている景色。
木造の家が立ち並んでいた。
大きなお城のようなところに入る。
私達の馬車は、そこで停止した。
降りると、騎士様が並んでいる。
騎士様達は、皆アリスメリアさんを知っているようだ。
一人一人順番に、挨拶していく。
最後の一人の挨拶が終わる。
そこで、アリスメリアさんが挨拶以外の言葉を口にした。
「団長は今日はいるか?」
「いえ、現在視察の為、不在にしております」
「そうか。ありがとう」
「何か伝言をお残ししますか?」
「いや、久々に顔を合わせようと思っただけだから気にしないでくれ。呼び止めて悪かったな。自身の仕事に戻ってくれ」
「はっ。失礼します」
騎士様のうち、何人かが走る。
馬の手綱を引いて連れて行った。
他の騎士様は、傭兵団の馬車に荷物を積載していく。
「搬入まで手伝ってもらって申し訳ないな」
メモーアさんがスキンヘッドの頭を撫でている。
「いえ、お気になさらないで下さい。持ちつ持たれつですよ」




