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第67話 海百合千草⑬

「これであとはお皿によそってと。」


お姉さまがカレーをお皿についでいく。


ぼくは何か手伝えることはないか探してみる。


でも、今までお手伝いをしたことがないこともあって、

何をしたら喜んでくれるのか分からない。


ぼくはただお姉さまのことをじっと見ていた。

美味しそうなカレーの匂いが鼻腔を擽った。



「かんせ~い。って千草ちゃん、そんな風に見つめられたら照れちゃうよ・・・。」


見られていることに今気づいてくれたのか、お姉さまは照れ笑いを浮かべている。


ドキン

そんな表情を見た途端、今まで感じたことのないほどにドキドキした。


(え、ま、まただ・・・。なんなんだろう。この気持ち)


なぜかお姉さまの顔から目が離せなくなってしまう。


そんなぼくの考えていることを知ってか知らずか、

お姉さまは微笑みを強くする。



「そ、それじゃあ千草ちゃん、食べよっか」


「は、はい」


カレーを机の上に置くお姉さま。

それにつられて、ぼくもピタッとその隣に座る。


「ふふ、千草ちゃんったら、近いよ~」


お姉さまはそう言いながら、頭を撫でてくれた。


ただ嬉しかった。

家族からひどい扱いを受けていた今までが嘘のような優しさがあった。







それがぼくとお姉さまの優しい時間の始まりだった。

その日からぼくはお姉さまに色々なことを教えてもらった。


言葉遣いやご飯の食べ方、優季様のことなどから、

料理の作り方や洗濯の仕方、ベットメイキングや服のコーディネイトなど色々と。


ずっと一緒にいてくれた。

お風呂に入る時も寝る時も、メイドのお仕事をする時だって、側にいさせてくれた。


そんなお姉さまに恩返しがしたくて、

ぼくはもっともっと頑張ろうと一生懸命仕事を覚えた


メイドとして働くようになってからは徐々にお姉さまの側を離れることも増えていったが

お姉さまはそんなぼくの成長を嬉しく思ってくれたのか

たくさん褒めてくれて、笑いかけてくれて、幸せだった。


幸い、あの日以来、母親もその恋人もぼくのことを連れ戻しに来ることはなかった。


だから、ぼくはこれからもずっとこの屋敷でお姉さまと幸せが続くのだと思っていた。






「千草ちゃん、ごめんね。」


その文字だけが残された紙がぼくの机に置かれていて、

ぼくはその時、何が起きたのか分からなかった。



その日を境にお姉さまはぼくの前から姿を消した


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