第61話 海百合千草⑦
「へ?」
千草は悩んだ。
女の子の服を着ることにももちろんあったが、お化粧をすることには抵抗があった。
家の中に閉じ込められることの多かった千草にとって母親の化粧をよく目にしていた。
だからよく知っている。
女性が家の外に出て行くときにするごく普通の行いであることも、
そして意中の男性をモノにするためにいつもと違うお化粧をすることも。
しかし、母親とその連れてくる男性たちに虐げられていた千草にとって、
お化粧という言葉とその行為は呪いのように嫌悪感を抱いてしまう。
ただだからといって、ここまで優しく接してくれている
お姉さまの好意を無下にするのも気が引けた。
千草はおそるおそる瑞葉の指し示す椅子の上に腰を下ろした。
(そうだ。ずっと目を瞑っておこう)
自分もまた母親のようにケバくされるのは見たくなかった。
千草はぎゅっと目を瞑った。
「千草ちゃんのこと、可愛くしてあげるからね///」
しかし、そんな千草の思惑など露知らず、瑞葉はテンションを高くしていた。
「それじゃあね~。まずは美容液を塗ってあげるね~」
「で、できたぁ///」
瑞葉は人に化粧を施したことなどは今までなかったため、
自分の思い描いたとおりにできるのか心配していた
けれども、目を閉じたまま全く動かないでいてくれた千草のおかげで
その完成した姿は思い描いていた理想像通り、いやそれ以上のもので、
にやけ顔が抑えられそうもない。
どうせだったらカラコンも入れてみたかったところだったが、
頑なに目を開かない千草ちゃんにそんなお願いはできなかった。
「キャァァァァァ///あ~もう。ほんとに可愛い///」
瑞葉の中の理性は千草の顔を直視していくたびに壊れていき、
ついに発狂した。
「ど、どうしたんですか!?」
しかし、そんな瑞葉の奇声にも取れる声は千草を驚かせ、
彼の重く閉ざされていた瞳を開けさせた。
「お、お姉さま・・・。ってえ?」
ぼくは目の前にいる少女の姿に困惑した。
さっきまでこの部屋の中には自分とお姉さましかいなかったはずなのに
今ぼくの目の前には大人しげでいて可愛い少女が
目の前に困惑した表情を浮かべながら座っている
(え、すごくかわいい)
ついつい夢中になって彼女のことを見てしまっていると、
彼女もまた自分を見ていた。
それだけではない。
直視していると、自分の着ている服と同じ服を着ていたことに気付く。
さらには自分の服に目線を落とすと彼女も視線を服へ落としていく。
「え、え、どういうこと!?」
まるで鏡写しのような彼女の動きに困惑してしまう。




