第60話 海百合千草⑦
「それじゃあね~。まずはこれとこれ着てくれるかなぁ??」
瑞葉は意気揚々と手に持った衣服を差し出した。
千草はその服を見た途端、ついつい硬直してしまう。
お姉さまが渡してきた服は、真っ白いスカートにピンク色のブラウスだった。
ただそのブラウスにはこれでもかと言わんばかりの
白いレースと胸元には大きめのリボンが施されていたのだ。
(え、ああは言ったけれど、こ、こんなかわいい服を僕が着るの??)
千草は戸惑ってしまう。
いくらあんなことを言っても、こんな少女趣味を前面に出した服を
持ってくるとは想像していなかったのだろう。
しかし、瑞葉の顔をちらりと見ると彼女はウキウキワクワクという
擬音語が目で見えるような表情を浮かべていて、
千草は自分の発した言葉を少しだけ恨んだ。
「よいしょ・・・。」
千草は少しの間はあったものの、瑞葉の服へと着替え始める。
その間、瑞葉は部屋から出る素振りを見せることはなく、
千草は今まで感じたことのないほどの羞恥心に誘われてしまう。
(ふ、ふわぁ~。お、お姉さまが僕の着替えをじっくり、見、見てる///
恥ずかしいな。。
いつもの服とも違うし、なんだろうこの変な感じ・・・。)
千草は自分がまさか女性の服に身を包まれる日が来るとは思っていなかった。
自分の手を瑞葉の服に通すと、その服からは瑞葉と同じ甘い匂いが漂う。
その匂いをなぜか心地のいいものだと感じる千草。
ブラウスを着終えた千草はスカートを手に取る。
(女の子って、こういうのを下に着ているけど寒くないのかなぁ)
スカートを手に持ちながら思ったのは、そんな事だった。
窓からいつも見ていた少女たちもスカートを履いて走り回っていた。
けれどもズボンなどと違い、足が外気に触れる部分が多いその服を見る度に
いつも千草は寒くはないのかと疑問を持っていた。
足をスカートの中へと通していく千草。
ズボンでは味わうことのできないつるつるの生地の感触を
その体で感じながら、腰元まで上げる。
そして腰付近にあったファスナーを上げていく。
(な、なんか、や、やっぱり変な感じする///足が寒いし///)
千草が思っていた通り、やはりスカートは足が寒かった。
それになんだか変な感覚もした。
ふわぁとするようなそんな感覚。
試しにほんの少しだけ歩いてみる。
スカートが自分の足と共にたなびく感覚。
それに自分の生足がチラチラと見えて、
どこか落ち着かない。
(こんな感覚、はじめて・・・。)
しかしなぜかは分からなかったが、
歩き続けるたびにその感覚を嫌だと思っていない自分がいることに気付いてしまう。
(わ、わぁ・・・。やっぱり千草ちゃん、可愛い///
私が着ていた時よりも断然かわいいだなんて・・・///」
千草がスカートに夢中になってしまっている間、
瑞葉はその愛らしさに胸をときめかせていた。
あまりの可愛さに抱きつきたくなる衝動を抑えるのに必死だった。
(こ、ここは我慢の時よ。瑞葉・・・。
まだやらないといけないことがあるんだから!!)
瑞葉はそう意気込みを固めると、まだ夢中になっている千草の元へと駆け寄り、
ほんの少しだけ驚いている彼の瞳を覗き込みながら、言葉を発した。
「ち、千草ちゃん。お化粧してあげるからこっち来て///」
(もうここまで来たら、
千草ちゃんをアイドル級に可愛くしてあげるんだから///)