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第50話 ニート、匂いを感じる

「お姉さまぁ」

梓と楓の怪訝な視線を全く気にしないのか、少女は俺の腕に

頭を擦り付けながら猫なで声で声をかけてくる。


今は女の体だからそんなにも大した問題にはならないだろうが

男の俺にこの状況は拷問以外の何物でもない。

というか、なんだろうかこの娘。少しおかしい気がする。


この瑠美という少女と体が入れ替わってしまって以降。

明らかに変化したことがあった。それは嗅覚だ。


匂いに少し敏感になっている気がする。

おそらく、今自分の部屋になどはいることが出来ようものならば、

その異臭に鼻を抑え、倒れてしまうに違いない。

そもそも自分の部屋に誰か別の人が立ち入ることを想定していなかった

俺の部屋はたくさんのマンガの山により、ほこりや本独特の匂いに加え、

ゲームも山のように積み上げ、所々にお菓子の袋が散乱し、

ジュースでできた染みが所々に配置されたまさに汚部屋という

称号にふさわしい空間だった。

そんな部屋に長時間いて、呼吸をしていれば

そんな異臭にも慣れるというもの。


だからなのか、バイトの面接を受けに久しぶりに外の空気に

当たった時には清々しい風が鼻腔を突き抜けていった感覚を覚えた。



そして、この体になってしまってからは、

女子高の生徒ということもあってなのだが、

ここまで女子高生特有のあの何とも言えない甘い匂いに晒されてきた。

体育が終わった後の教室の匂いも男子とは全く違う

すごくさわやかな匂いで甘さを含んでいた

あかねと遊んでいた時や大和君と触れ合っていた時は

男もいる場所だったということもあって、

甘い匂い以外の汗のにおいやたばこのにおい、

そしてあの青年と会ってからこの屋敷に来るまでの間の車の中の匂いなど、

女子特有の匂い以外にもさらされた。


その結果、この体になってからまだ時間も経っていないにもかかわらず、

女の人の匂いと男の人の匂いをかぎ分けることができるようになってしまった。


いや、むしろ男の匂いを少しでも感じてしまうと妙に緊張してしまう。


とここまで考えていて、俺は頭を傾げる。


(これって精神も女子に侵食されつつあるのではないか?)


それはそれでやばい気がするが今はそんなことはいい。


先ほどから俺の腕に頭を擦り付けているこの少女。

頭が揺れるたび、お姉さまという言葉を発するたびに、

彼女の匂いを鼻腔が受け取る。


最初はそんなにも彼女が発する匂いを気にも留めず、

女性特有の甘さがあると認識していた。

だけどこうも積極的に近づいてこられて、

匂いを嗅ぐ機会が増えるとどうも、違和感に気付いてしまう。


彼女の発する匂いはもちろん甘い。

だけどその甘さは女性が放つ自然な甘さではなく、

香水で色づけられたまやかしの甘さのような気がした。


(あれ?もしかしてこの娘って・・・。)


「・・・男?」


頭の中である仮説を叩き出してしまった俺は

知らず知らずのうちに声に出していたようだ。

そのことに気が付き、視線を下に向けると、

さっきまで満面の笑みを浮かべながら顔を摺り寄せていた少女の動きが止まり、

代わりにその表情は色を失ったかのようになり、汗が止めどなく溢れていた。

そして、そんな俺たちを見ている梓さんと楓さんは純粋に驚いている。


「ど、どうして・・・?」

やっと口を開いた少女の声は震えていて、所々に悲しみを滲ませている

今にも泣きそうだ。


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