第4話 ニート 女子高生に助けられる
それから数分後、私と宮部さんは教室へと向かっていた。
宮部さんはまだ寝足りないと言わんばかりの大きなあくびをしながらも、
近藤先生に「次の授業にはきちんと出るのよ。絶対にね」
と強く言われていたためか、こうして一緒に廊下を歩いているのだ。
しかし、宮部さんは起きたばかりでフラフラしているので、
俺の腕にきつくしがみついている。
普通であれば、こんな男にとっては最高の状況ではあるのだが、
俺のように女性が苦手な男性は、あまり嬉しくなかった。
それに加えて今まさに自分が苦手としている女性になっているという
この状況も相まって、俺の心は少し憂鬱な気分となっていた。
と、まあそんなことを考えている間にも、
これから授業を受けることになる教室についていたのか、
宮部さんは俺もとい速見さんの腕を、引き留めるかのように引っ張っていた。
「速見さん、ここだよ~。もしかして教室の場所まで忘れちゃった??」
そんな彼女の心配するような声が聞こえてきたので、
俺は正直に首を縦にゆすった。
「う、うん。ごめんね。忘れちゃってたみたい」
俺は自分よりも年下の少女に心配されているということに、
内心ふがいなさを感じながらもそう答えた。
すると、宮部さんは「そっか。じゃあ、入ろっか」と
あまりそのことに触れない方がいいと思ったのか、
そんな短い言葉を言いながら、教室の扉を開くのだった。
教室に入った瞬間、当然のことながら30人程度の女生徒が
俺たち二人を見ていた。
俺は何とも言えない恥ずかしさを感じてしまった
(こ、これまでの人生でこんなにもたくさんの女の子に見られたことなんて・・・)
そうして顔を赤く火照らせていると、宮部さんは俺の顔を覗き込んできて「大丈夫?」
と声をかけてきてくれた。
(またしても心配されてしまった。俺の馬鹿野郎)
内心で自分のことを責めていると、髪の毛をポニーテールでまとめている
見るからに体育会系だと思われる少女がこちらに駆け寄ってきた。
「るみぃ、学校来るの遅かったね!なんかあった??」
少女は俺のことを心配していたのか、
ポニーテールをゆさゆさと揺らしながら、尋ねてきた。
「う、う~ん、そうだと思うんだけど・・・」
俺自身、自分に何が起こったのかきっちりと把握していなかったので、
そんな曖昧な返答しかできなかった。
すると目の前にいた少女の顔が青ざめていった。
「そ、それって瑠美、もしかして事故にでもあったんじゃ・・・。
いつもなら遅刻しそうになったら私にはすぐに連絡してくれるから、
何か大事に巻き込まれたんじゃないかって思ってて、うっうっ」
目の前にいた少女はそんな考えすぎのようなことを言った直後、
泣き出してしまった。
俺はあまりの展開についていくことができず、
思わずあたふたしてしまう始末で、
これがもしコミュニケーション能力の高い人間であれば、
「違うよ。少し体調が悪くなって保健室で寝ていたの」とか言ってすかさず、
少女の考えすぎを否定できたのだったが、
人と話をすること自体久しぶりな俺にとっては、どうしようもなかったのだ。
すると、この状況を見かねてなのか、宮部さんが助け舟を出してくれた。
「上山さん。考えすぎだよ。
速見さんは登校途中に少し体調が悪くなったみたいで、
さっきまで私と一緒に保健室で休んでいたんだよ。
だからそんな事故とかにはあってないよ。ね?速見さん」
俺はすかさず相槌を打つかのように、首を縦に振った。
少女はそんな俺を見ると、途端に安心したのか笑顔になってくれた。
「そっか。それなら良かったよ。るみぃに何もなくてよかったよ。
もう、今度からはそういうことがあったら私に連絡してね」
「う、うん!!心配してくれてありがとうね」
俺は少女の心配してくれた気持ちはこの上なくうれしかったので、感謝した。
(この子、本当に優しい子なんだろうなぁ。
友達のことをあそこまで心配してるだなんて、まあ、考えすぎっていうか
過保護って感じもするけど。俺もこんな友達がいたらなぁ・・・。それにしても)
俺はさっきのやり取りの時から、気になっていたことがあった。
それは宮部さんのことだった。
(なんかさっきの宮部さん、保健室で甘えてきたときのキャラと大きく違ってたな。
あんなにも冷静にかつ的確に物事を伝えてくれるなんて。というか、
よくよく考えてみれば、教室に入る前から助けられてばっかりな気がするんだけど)
俺はもっと宮部さんは天然系だと思っていった。
しかしさっきの感じは、そうではなく、宮部さんの性格をつかむことができなかった。
そんなことを考えていると、授業が開始される時間になっていたのだろう。
教室のドアが開き、見たことのない先生らしき人が入ってきた。
「授業、始めるよ~。みんな席についてね」
その言葉を聞いて、先生だと確信した。そして先生に言われた通り、
他の生徒たちはすぐに自分の席だと思われる場所へと座っていった。
しかし当然のことながら、俺はこの場所に初めてきたことから
自分の席がどこなのかもわからず、ただただ放心状態で立っていた。
すると、またしても宮部さんは俺の腕を引っ張って、
席まで連れて行ってくれたのだ。
俺は彼女の優しさに心底感謝しながら、席に着いた。