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第47話 ニート、模索する

「それにしても、あなた律に会ってしまったのね。」

少しだけ、俺の悲しみが落ち着きを見せた頃、楓さんが驚いたように言った。


「そういえば、あの方ほかの人と一緒になりたくないとかいう理由で、

この時間に入っているんでしたわね。」

それに合わして、梓さんも口を開いた。


そんなにも律は珍しいのか。

「あ、あの、その、あの人ってどういう人か知っているんですか?」

俺は何でもいいから、律のことを知りたいと思った。

もうあんな関係を築くことはできないのかもしれない。

けれども一時とはいえ、楽しい時間だった。

それは俺だけではなく、律もそうだと思う。

そうでなければ、あんな楽しげな声は出ないだろう。


俺が女だと分かった瞬間に、あんな冷たい態度に変わってしまった。

だとしたら、何か女の人がらみであったのではないだろうか。

それが何なのかさえ、知ることが出来たならば、

またさっきみたいに笑い合えるかもしれない。

俺はせっかくできた友達との関係を修復するための糸口を探ることにした。


「そうね・・・。知っていると言えば知っているわ。だけど・・・。」

俺は真剣な眼差しで楓さんと梓さんを見つめていた。

だけど、彼女たちは言いにくい事なのか口ごもり、

困ったと言わんばかりの表情だ。


さっきまで俺のことを慰めてくれていた彼

女たちのことをこれ以上困らせたくない。

そう思った俺は、知りたいという気持ちを強引に胸の中に収めた。

「あ、ごめんなさい。もう大丈夫ですよ。

お風呂すごく気持ち良かったです。ありがとうございました。」


俺は必死で笑顔を取り繕い、話を切り替えた。

彼女たちもそれを察してくれたようだ。

「そうよね。ここのお風呂は本当に広いし、

湯加減もちょうどいいしで、最高よね~」

「ですわね。ここ以外のお風呂なんて、もう私考えられませんもの。」

「そうそう!!今度はお姉ちゃんも一緒に入ろうね♪」

口々にこのお風呂の感想を言ってくれた。


本当に感謝だ。


「さてと、お風呂にも入ったことですし、お部屋に案内しますわね」


俺の涙も乾ききり、安心したのか、梓さんは歩き始めた。

これはついていった方がいいかもしれない。


俺はそんな梓さんの後ろを追いかけるように歩き始め、

楓さんと美咲ちゃんもそんな俺たちと一緒に歩き始めた。


なぜだか美咲ちゃんは俺の手を握っていて、その柔らかさを直に感じた

男のものとは全く違う小さくて柔らかいその手に包まれた。



その頃・・・。


律は自分の部屋に一目散に駆け込むと、ベッドに突っ伏した。

その顔はひどく青ざめていて、呼吸は走ってきたからなのか、

それとも別の理由なのか、

酷く浅くなっていて、すごくしんどそうだった。


「はぁはぁ。あ、あの女・・・。本当に何なんだよ!!

あの最後に見せたあの悲しそうな顔。まるでこっちが悪いことしたみたいじゃんか。」


律は枕に向かって自分の怒りを吐き出した。


「せ、せっかく同じことで笑える友達に巡り合えたと思ったのに・・・。」


しかし、その怒りは吐き出すうちに悲しさに変わり、

彼の枕は涙で濡れていった。

女でなければ良かったのに。

律の頭の中にはそれだけが残された。


だけど自分が見たものは忌み嫌う女だけで、

そんな女が見せたあの表情が頭から離れることはなさそうだった。


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