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第46話 ニート、姉を感じる

「り、律、なんで・・・。」

あまりにも突然の変貌に晴れやかだった気持ちは絶望へと姿を変えていた。

口から零れたのは悲しみの滲んだ声で、その声もすぐに静寂にかき消された。


女ではないと偽っていたから。騙していたからなのかはわからない。

だけど律の瞳からは憎しみの念が滲んでいて、

その目を思い出すだけで涙が出てきた。


けれどもこんなところで黄昏に浸っている場合でないというのも事実。

男がいつ入ってくるかも分からないこの状況。

俺は涙で視界がはっきりしないまま、自分の棚へととぼとぼと歩いた。

その間も涙はとめどなく溢れ、道にはぽつぽつと涙が落ちる。

こんなにも涙腺が緩かっただろうか。

そんなことを思ってしまうほどに悲しかった。


かごを下におろし、ブラジャーを取った。

外す時にはあれほどに苦戦していたブラも

今の心境では粛々と着けることが出来た。

けれどもそれは自分が女であることを

痛感させる要素であることに変わりはなく、

そのブラを付けた瞬間に、「女のくせに・・・。」という

冷たかったあの言葉がまた頭を駆け巡り、胸がずきりと痛み、

どうしようもない悲しみがまたもや襲ってきた。


「女になりたかったわけないのに・・・。」


このままブラだけの自分を見ているのは辛かった。

シャツをぐちゃりと掴み、ブラとそれが覆う胸を隠すために着た。

だけど、そんなことで胸のふくらみが消えてくれるわけもなく、

棚を思い切り叩いた。


痛みが手を伝う。

けれども心の痛みよりはましな痛みだ。

少しマヒした頭で俺はパンツとスカートを履いた。

お風呂に入ることにはなったが着替えを当然用意していない。

綺麗になったはずの体に汗や涙で汚れてしまった制服や下着を再着用する。

常識的に考えれば、不潔なことではあるが仕方がない。


制服を着直した俺は、まだ止まらない涙を拭おうとした。

けれども拭ったそばから新しい涙が出てきて、無駄な行為だと気づく。


目はまだ霞む。

脱衣場の出口までしょんぼりとしながら歩く。

心の中は悲しみで一杯でもう何も考えられない。


脱衣場のドアを開き、廊下に出る。

もう既に出ていたのだろう。

俺をここまで連れてきてくれた3人はにこにこと仲良さげに話をしている。


しかし、3人は俺が出てきたことに気付き、その顔を見た瞬間、

酷く深刻な表情を浮かべながら、こちらへ駆け寄ってきた。


「「ちょ、え、どうしたの!?」」

「お姉ちゃん、どうして泣いてるの???」

楓さんと梓さんは見事に同じこと言ったのかはもる。

そして、美咲ちゃんはすごく心配そうな表情を浮かべ見つめている。


「うっうっ。な、なんでもないです・・・。」

心配させてはいけない。

そんなことが頭を過り、必死に笑みを浮かべようと口角を上げる。

けれども、それは逆に彼女たちをさらに心配させることになってしまった。


「無理しないでいいのよ。泣きたい時には泣いてもいいの。」

「そ、そうですわ。楓さんに先に言われたのは癪ですけど、

これから私たち家族になるんですのよ。

悲しいことがあったなら、私たちに吐き出しなさい。」

「そうだよお姉ちゃん。お姉ちゃんが悲しんでたら私も悲しくなっちゃうの」


口々に俺のことを慰めてくれた。

楓さんに至っては、本当の姉のように背中を摩ってくれている


本当の自分であれば、年下だろう彼女たち。

だけど、今この時は彼女たちの方が年上に感じられた。


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