第45話 ニート拒絶される。
律の着替えはあっさりと見つかった。
少し歩けば、すぐに見つかる場所で着替えていたらしい。
当然と言えば当然の事ではあったが、よかった。
そして俺は律に言われるがままに着替えの中をごそごそと漁った。
あんまり男友達のものであっても、他人の着替えの中に
手を入れることのなかった俺にとってはひどく新鮮な行為だった。
眼鏡を難なく見つけた俺は、それを彼に何の躊躇いもなく渡した。
「本当にありがとう。湊。これで貴方のことをしっかりと見ることが出来るよ」
律は自分を助けてくれた人、そして自分と同じ趣味で
語り合うことのできる友達の姿をやっと見ることが出来るということが
嬉しくて仕方がなかった。
こんな風に思ったのも、はじめての事だった。
律は眼鏡をかけ、視線を目の前にいる男友達の湊に合わせた。
湊も彼と同じように考えていた。
そしてこの後、律の部屋でさっきの話の続きをしながら、
ゲームをする約束をしていた。
そのことが今から楽しみで仕方がなかった。
湊の瞳もまた律の姿を映した。
「え?ど、どういうこと!?」
最初に言葉を発したのは、律の方だった。
さっきまで楽しかったのが嘘のように心が
冷たくなっていくのが自分でもわかった。
顔が青ざめていく。
そんな律の様子を見た湊は心配そうに彼の手に触れた。
しかし・・・。
「さ、触らないでください!!」
律の手が湊の手を振り払った。
そして急に後ずさりながら、距離を取る律。
振り払われた方の湊は唖然としながらも、悲しそうにしている。
何が起こったのか俺には分からなかった。
さっきまで仲良く話をしていたのが嘘のように
律は俺に警戒心を駄々洩れにしていた。
距離を取られたことも正直胸をえぐった。
「り、律、ど、どうしたんだよ」
あまりにも突然の態度の変化に憔悴した俺は声を震わせてしまう。
律の瞳には憎しみにも似た冷たさが宿る。
「あなた、俺を騙して何がしたいんですか。」
返ってきたのは冷たい声だった。
無機質でそこには何の感情も滲んでいない。
思わず、その声にビクンと体を震わせてしまった。
さっきまでそこに確かにあったはずの暖かい空気は
いつの間にか、酷く冷たい空気に変わっていた。
律はそのまま立ち上がるや否や、こちらに一切目線を向けないまま着替えを始める。
「だ、だましてって・・・。な、何を」
何を言っているのか分からない俺は問いかける。
だけど、その問いかけは無視されてしまう。
聞こえているはずなのに、聞こえていないようなそんな反応。
ただただ悲しさだけが込み上げてくる。
気が付けば、また涙が零れていた。
そんな俺を一瞥するも、着替えの手は止めてはくれない。
泣いている俺を傍目に着替えを終わらした津は冷え切った表情のまま、
脱衣場を後にしようとする
追いかけようとした。だけどその瞬間、律はこちらに目線を寄せた。
「女のくせに・・・。」
その言葉を聞いた瞬間、俺は今の自分の姿を思い出し後悔した。
そして、その言葉だけを残して、律は脱衣場から消えてしまった。




