第44話 ニート。忘れる
俺はまたしてもやってしまった。
ついつい自分のしていたゲームの話になると
雄弁になってしまう自分自身のサガを酷く恨む。
これのせいで俺は昔から人と溝が出来ていたのに、またやってしまった。
ニートになって人と話す機会も乏しくなっていたからなのか、
止まることが出来なかった。
おそらく、この青年も今ので完全に引いてしまったことだろう。
ただ、俺自身がそういう引かれるという印象を
持たれてしまうことにはもう慣れていた。
だけど、今のこの体は女子高生の少女のものだ。
そんな少女が見知らぬ青年に引かれる要因を作ってしまうのは
どう考えても良くはない。
罪悪感がまたしても胸に広がる中、俺は彼の表情を見ようと思った。
おそらく大いに引いているだろう。
そんな確信にも似た思いを胸に顔を上げる。
「えっ・・・・。」
顔を上げた先にあったのは、今まで馴れしたしんだ
あの冷たい表情ではなかった。
青年の瞳はまるで仲間を見つけた少年のようにキラキラとし、
表情からは楽し気な感じが見て取れる。
こんな反応をされるとは思ってもいなかった。
「あ、あの・・・。なんでそんな顔をしているんですか?」
恐る恐るその表情の真意を聞いてみた。
「なんでって・・・。だって嬉しいからじゃないですか!!
Twinkle-maginaのことをこんなにもよく知っている人が
ボクの目の前にいる。こんなにも嬉しいことが他にありますか!!
ボク、この屋敷に来てから俊にぃとしか話さなくて、
そんな俊にぃもゲームのことは全然知らなくて、
ボクはTwinkle-maginaのことを
ずっとほかの人と話し合いたかった。
そんな人をボクはずっと探していました!!
そんな時に貴方は僕の前に現れてくれました!!
これを運命の出会いと言わずして、なんというんですか!!」
青年は本当に嬉しそうにその真意を語ってくれた。
それは俺が今まで味わってきたような侮蔑などではなく、
純粋な喜びを表すもので、俺の目からはなぜだか涙が零れていた。
「あ、でも勘違いしないでくださいね。
運命の相手とはいってもボク達は男同士なので、
恋愛的な意味ではないですから!!」
そしてそのまま、青年は言葉を続けた。
そんな訂正普通は必要がないはずことだが、
Twinkle-maginaのことを知っている俺は、
それもあのゲームのセリフの一つだということにすぐに気づいた。
だから俺は、目を擦り涙を拭い去りながら、満面の笑みを浮かべながら口を開く。
「もちろんだよ。俺と君は運命の出会い方をしたのかもしれない、
けれどもそれは恋ではない。友情の運命だ。俺と友達になってくれるか?」
青年はその言葉を聞いた瞬間、やはり思った通りという表情を取り、笑った。
「はい!こちらこそよろしくお願いします。ボクの名前は紫峰 律です。」
青年、もとい律は握手を求めるように、握っていない方の手を差し出す。
俺はそんな彼の手をぎゅっと握りしめた。
「よろしく。俺の名前は鈴村湊。
後敬語じゃなくてタメ語で大丈夫だよ。友達になったわけだしさ。」
「あ、はい、わかりました。いや、わかったよ。湊」
青年は真面目なのか途中で言い直したが、
それがまた俺にとっては良かった。
高校以来初めての友達。
それもゲームの話ができる友達なんて今までいなかった。
そんな俺に今、久しぶりに友達ができた。
こんなにも嬉しいことは他にはないだろう。
俺と律はそのまま楽し気にTwinkle-maginaのことを
話ながら、脱衣所の扉までたどり着いた。
あまりにも嬉しすぎて俺はすっかり忘れていたことがあった。
今の自分の体が女性だったということを。