第41話 ニート、察する
一気に危機感を覚えた俺は焦りながらお風呂を出ようとする。
しかし・・・。
「あ、あの・・・。」
突然、俺の耳元に男の声が聞こえてきた
(や、やばい・・・。)
その声の主が自分に気付いてしまった。
これは一刻も早くこの場から逃げなくてはいけない。
俺は先ほどよりも強く感じる焦りと共にお風呂から出ていこうとする。
「すみません。助けてください」
次いで聞こえてきたその声に思わず、足を止めた。
(助けて・・・。いったいどういうことなんだろう)
この台詞は罠なのかもしれない。
けれども本当に困っているとしたらどうしよう。
仮にお風呂に浸かりすぎて、のぼせて倒れてしまっているのだとしたら、
一刻も早く助け出さないと危ない。
そんな状況であることを彷彿させてしまうかのようなか細い声だった。
俺は悩んだ挙句、その声のした方へと視線を向けた。
「え、え~っと。どうかされたんですか?」
俺はその助けを呼ぶ声に応じることにしながら、
その声が聞こえてきた方向へ歩を進める。
普通のお風呂であれば、そんなことはないのだが、
この屋敷のお風呂の大きさは規格外であるため、お互いの姿はまだ見えない。
「あ・・・。」
お風呂の中を進んでいくと、明らかに落ち込んで俯いている男性の姿があった。
男性は湯舟を眺めながら、はぁとため息をついている。
「ど、どうかしましたか?」
俺は彼に近付くと、話しかけた。
なぜだか彼は無害というか、女性を罠にかけて性的なことをするようには見えず、
ごくごく自然な感じで話しかけた。
しかし、なぜか男性は俺の声を聴いた瞬間、びくっと体を痙攣させた。
「え、い、今、お、女の人の声が聞こえた・・・。ど、どうして、こ、ここ男湯なのに」
男性は明らかに狼狽え始めた。
それも当然の反応と言えば、当然の反応だろう。
ここは男湯。
にも拘らず、今は女性の俺がそこにいて、こうして話しかけてきたのだ。
俺がもし同じ状況なら、これまた困惑するだろう。
というか、こんな反応を返されたら、罪悪感を感じてしまう。
そもそも悪いのは男湯に入ることにした自分の責任なのだ。
それなのに、犯されるかもしれないだの、
そんな不謹慎なことを考えてしまったのだ。
申し訳ない。そんな気持ちでいっぱいだった。
ただ、だからと言ってこのまま彼のことを放置して帰るのもいかがなものか。
俺は少しだけ悩んだが、意を決して口を開いた。
「な、何を言っているんですか?お、俺男ですよ?
ま、まあ少しだけ普通よりも声は高いですけど・・・。」
逡巡の末、俺は嘘をつくことにした。
声の高い男であるという。
すると、男性はひどく申し訳なさそうな表情になると、頭を下げてきた。
「ご、ごめんなさい!!ぼ、ぼく目が悪くて
あ、あなたの輪郭しか見えなくって、失礼なことを・・・。」
目が見えていないことはさっきからの反応で、なんとなく察していた。
だけど今の発言でそれは確信へ変わった。