第39話 ニート、絶望する
孤独感から抜け出すために開けた扉の先には誰もいなかった。
しかし、聞こえてくるのは確かに水を流す音。
俺はまさかと思いながらも、その浴場を見渡す。
「あ、う、嘘だろ?」
俺はてっきり男性と女性で脱衣場を分けているだけで、
浴場は混浴というか分かれていないものなのだと思っていた。
だけど、そんな考えは間違っていたのだと思い知った。
浴場の中に大きな壁のようなものがそびえ立っていて、それは境界線のように見えた。
そう、この家の浴場は普通の温泉と同様に男性と女性とで浴場が分かれていたのだ。
普通に考えてみれば、当然の事だろう。
脱衣所が男女別で別れているのにもかかわらず、浴場が同じなわけがない。
ましてや、この家にはさっきの青年を含め、男性もいるわけで・・・。
「はぁ。」
口からは無意識のうちにため息が出てしまっていた。
つい1時間ほど前の自分ならこの状況に歓喜していたことだろう。
だけど、こんなにも孤独感に苛まれている今の俺にしてみれば、
この状況は絶望感を助長させる以外の何物でもない。
「うっうっ。寂しいなぁ」
ついには涙が頬を伝っていってしまう始末。
だけど、この選択をしてしまったのは俺なのだ。
今からでも、彼女たちのいる方へ行くことはできた。
だけど、ああいう風に言ってこちら側に入ってしまった手前、
どうにもそうすることはできなそうで。
仕方なく、俺はこの一人しかいない浴場で体を洗うことにした。
内装はまさに温泉と同じだった。
椅子があって、その前に鏡があり、
手の届く範囲にシャンプーやリンスが置かれている。
椅子に座り、鏡を見るとそこには案の定少女の姿があった。
とてつもなく罪悪感のようなものに襲われた。
(こんな女子高生のまだ綺麗な裸を見てもいいのだろうか。)
少女の体を上から見ることにすら抵抗があったが、体育の着替え、
そしてさっきの脱衣のためにどうにか言い訳を作っては見ることができた。
それに体育の時は体操服を着ていたし、
さっきだってタオルで大事な部分は隠れていた。
だけど、今はどうだろうか。
タオルが濡れてはいけないと直感で感じ取った俺は隠すために
用意していたはずなのに、全てを脱ぎ去り、椅子に腰かけている。
だから、生まれたままの姿。すなわち全裸の状態で鏡に向かっていた。
それに加えて、鏡に映っている自分を見ているということは
上から見るのではなく、向かい合って見ているということに他ならない。
椅子に座る際に無意識のうちに内股で座っているため、
女の子の大事な部分は辛うじて見えていないものの、
それ以外は全てが自分の瞳に映っている。
少し恥ずかしそうにそれでいて罪悪感のような感情が垣間見える少女の顔。
女の子らしいふっくらした胸。
そしてその下にあるくっきりとしたくびれのあるウエスト。
スラっと伸びた綺麗な両足。
まさに綺麗という表現がよく似合うような体。
それを見ず知らずのニートの俺が彼女の許可もなく見てしまっているのだ。
許されるようなことをしていない自覚はある。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。・・・・。」
誰もいないということをいい事に俺は謝罪の言葉を口にだしながら、体を洗う。
いつもはもっとごしごしと洗うのだが、今の体は少女のもの。
いつもより優しく体を洗うことにした。