第38話 ニート 孤独感に苛まれる
俺の理性は崩壊寸前だった
そこにこの刺激的な衝撃。
俺の必死に踏みとどめていた足もついにその衝撃に耐えきれなくなったのだろう。
視界がどんどん天井を向いていき、そして・・・。
ガッシャ~ン
音を立てて、俺の体は後ろ向きにこけてしまった。
「いったぁ」
口から零れるのは情けない声。
当然の事ではあるが、こんな声が自分の口から出たことなどない。
だけど今は女性の体になってしまっているわけで、
これが当然の痛みに対する反応なのかもしれない。
「はぁ、なんで俺こんなことになってしまっているんだろう・・・。
今まで親に迷惑をかけ続けてきたことに対する天罰なのか・・・」
お風呂場でコケてしまった。ただそれだけのことで痛みも腰に少しあるくらいなのに。
なぜかどんどんと不安な気持ちと悲しい気持ちが自分の心を覆っていった。
そういえば、保健室の時も学校の時も、この屋敷に向かう時もさっきだって、
隣に誰かいた。
だけど、今この脱衣所には自分以外に誰もいない。
こけたのに、誰も助けには来てくれないし、声も掛けられない。
言いしれようのない孤独感が俺の心を襲った。
(こ、こんなことならあの3人と一緒の脱衣所に入っておけばよかった・・・)
そんな先ほどとは相反する想いが生まれてしまうほどに、心は衰弱していた。
ロッカーの縁に手をかけながら、なんとか立ち上がった。
先ほどまでは恥ずかしいからだとか罪悪感があったが、
もう今はそれどころではない。
早く、この孤独感を何かで埋めたかった。
俺はこけた拍子に落ちてしまったタオルを手に掴み直すと、
そのまま自分の胸を隠すために体に巻いた。
今までそんな巻き方をしたことがなかったため、
少し羞恥心を感じることになってしまったが、
そんなことをもう気にする余裕はなくなっていた。
後、残すは・・・。
下だけだった。
幸いなことに長いタオルを使ったことで、足の太ももの真ん中程度までは隠れている。
ただだからと言って、このスカートを脱ぎ、その下にあるパンツまでも
脱ぎ捨てるというのは普通に考えても、かなり困難な試練に違いない。
ただずり降ろすだけ。それもそうだ。
だが、これが異性のものならどうだろう。
そんな容易にずり降ろすことができるだろうか。
そして脱ぐということはつまり、それを自分の視線上に一旦置き、
かごに入れるということもしなければならない。
普通の、いつもの俺の心境であれば、そんなこと考えるまでもなく無理だ。
だが、今の俺はいつもとは違った。
この不安や悲しみから抜け出すためなら、なんだってできる。
俺は手をタオルの中へ下から突っ込むと、スカートをまず掴み、それを降ろした。
そしてパンツに手をかけると、何の躊躇いもなく降ろした。
そんな違いなどないはずなのに、手触りがいつも履いている男物とは
少し違って柔らかい感じはしたが、ただそれだけ。
そして俺の足元にあるパンツとスカートを目を瞑りながら、持ち上げかごへと入れた。
(これで準備完了だ・・・。)
ブラジャーの取り外しに長時間かけていたのが嘘のように、
スカートとパンツを脱ぐのは一瞬のうちに終わった。
俺はタオルを身に纏いながら、多分浴場へ繋がるであろう扉の前まで進んだ。
(うん。大丈夫だ。これで後はこのドアを開いて、
あの人たちと合流すればいいんだ・・・。もしも彼女たちが全裸で入浴していたら、
明後日の方向を見ておこう)
この孤独感からやっと抜け出すことができる。
そんな想いで俺はドアを開いた。
「あ、あれ?」




