第30話 ニート、困惑する
3人。特にお嬢様風な彼女とお姉さん風の彼女は
お互いの発言を聞いた瞬間にお互いの顔を見合わせる。
どことなく、火花のようなものが散った気もした。
「あはは、本当に楓さんは面白いことを言うんですのね。」
最初に仕掛けたのはお嬢様風の少女だった。
敵意をむき出しにしたような嘲るような笑みを浮かべながら、
お姉さん風の彼女を睨みつける
「ふふ、梓さんの方こそ、面白い発言ね。
久しぶりの来客にご機嫌で冗談を言うだなんて・・・。」
それに応じるかのようにカウンター攻撃を放つお姉さん風の彼女
はっきりと火花が彼女たちの間に見えた。
「いえいえ、楓さんの方こそ!そんな面白くないご冗談をお言いになさって。」
「またまた~。梓さん、しつこいわよ、冗談だったんでしょぉ」
二人の言い争いはますます過熱する。
そんな2人の間に挟まれていたくなかったのか、
先ほど俺に疑惑を向けていた一番幼そうな少女はなぜか今は俺の後ろに隠れだす。
(まあ、この二人の雰囲気はなんか怖いよな・・・。)
俺はその少女の頭を撫でてやった。
すると少女は安心しきったような表情を浮かべながら、
自分の体を俺に摺り寄せてきた。
どうやら俺のことを危険な存在ではないと認めてくれたようだ。
俺は優しく少女の頭を撫で続ける。
「う~。なんだかお母さんみたい~」
少女は心底安心した表情を浮かべながら、呟く。
(こうしているとなんだか俺も癒されるな。この子可愛いし。)
お母さんみたいと言われたことに対しても、なぜだか違和感がなかった。
「だ~か~ら~。私の旦那さんって言っているでしょ!!」
そして、俺が少女の頭を撫で続けている間に、
二人の間の口撃はどんどんエスカレートしていっていたようで、
落ち着きを払っていると思っていた少女が語気を荒げる。
これにはすっかり安堵の表情を浮かべていた少女も驚いたようで、目を見開く。
そしてそんな発言をされたお嬢様風の少女からは怒りが
可視化されたのかと思ってしまうほどに禍々しい空気が流れる。
これはやばいのではないか。
直感でそう悟ってしまった俺は摺り寄せていた少女を抱えると、
彼女たちに気付かれないように後方に下がる。
そして・・・。
「あ?ふざけんじゃねぇよ!!」
その声を聴いた瞬間、俺は耳を疑った。
というよりも誰が発した声なのかすら分からなかった。
先ほどまで俺が聞いていた甲高い女性特有の声などではなく、
地を這うように低い声が聞こえてきたからだ。
それに加えて、口調もかなり荒い。
「てめぇがユウのお嫁様になれると思ってんのかよ!ふざけんな!
ユウはね。うちのモンなんだよ!!
それでもアンタが優に手を出すっていうんならウチは容赦しない」
完全に不良の口調に言葉が立て続けに放たれる。
俺の腕の中にいる少女は泣きそうな顔になっている。
ただ、俺としては困惑して、
少女のことを案じることができない状況に陥っていた。
なぜならその言葉を放ち続けていたのは、
あの清楚な雰囲気を漂わせていたお嬢様風の少女だったのだから。
全くの別人の声かと思うほどの声の変わり方もそうだったが、
清楚な服装がまたその違和感を誇張させていた。
(ほ、本当にあの子があんな言葉を放ったのか・・・?)
俺はあまりのギャップに硬直してしまう。
とここで後ろから誰かが俺の肩に手を置いてきた。
そして・・・。
「ストップだ。梓、楓。美咲とお客さんが怖がっているぞ。」
青年は手にお盆を持ちながら、二人を諫めた。