第29話 ニート、悩む
「ねぇねぇ、それで貴方とユウ様の関係はどういうご関係なんですの?」
俺が唖然としている中、まずはじめに清楚系のお嬢様の雰囲気を
醸し出している少女が声をかけてきた。
かなり可愛い笑顔を向けてくる。
しかし、その瞳はどう見ても笑っていないため、地味に怖い。
変な受け答えを返そうものなら殺されかねない。
そう感じてしまうほどに彼女の瞳の奥は怖かった。
俺は悩む。
ここで変な返しを返すのは命が危ない。そう判断してのことだ。
だからと言って、俺と彼の間に関係性など特にない。
しいて言うならば、こんな屋敷に誘拐された
被害者と加害者の関係としか思い浮かばない。
ただ、この誘拐については彼は完全なる善意で行ってくれた気がしている。
にも関わらず、「誘拐されたんです。私」と発言しようものなら
双方に傷つくだろうし、もしかしたらさっき自分が考えていたように
豹変して手籠めにされることだってありうる。
そもそも、さっきの発言を聞く限り、
この少女たちは少なからず彼のことを信頼している感が伝わってきた。
そんな彼女たちに対して彼が誘拐をしてきたなんて言ったら、
本当にこの屋敷から生きて出られるかすら怪しい。
特にこの質問を投げかけてきた彼女に対しては、
そんな発言は許してもらえそうにない。
「ま、迷っていたところをた、助けていただいただけなんです。」
そして出した結論がこれだった。
単に道に迷っていた自分のことを助けてくれた。そういうニュアンスを込めた。
「そ、そうだったんですのね。ふ~ん」
どうやら納得はしてくれたようだ。
少し疑いの眼差しを向けられたものの、気にしない。
「へ~。優君はまあ、優しいからね~。名前の通りに」
そして次に相槌を打つかのように話に入ってきたのはお姉さんのような女性で、
綺麗という言葉がよく似合う。
おそらくこの中で最年長なのかもしれない。
ただこんな落ち着き払った女性からもなぜか疑惑の眼差しを向けられる。
ここまで来ると、正直心が痛い。
誘拐された上にこんな態度を女性から受けたら、本当に心が傷つく。
「ユウ。ここなんだけど・・・。」
そしてもう一人いた少女は先ほどからあの青年の隣にぴったりと張り付きながら、
宿題と思われる冊子を彼に見せている。
これだけは幸いだった。
俺に対して興味が全くないのか、この目の前の二人と違って俺に近づこうとしない。
「ちょ、ちょっと、今はダメだ。美咲!後でゆっくり教えてあげるから、
今はあっちで女の子同士で話していてくれないか?」
しかし、俺の考えとは裏腹に青年はそんな提案を少女に投げかける。
少女はむすぅと頬を膨らませながら、彼の下を離れると俺たちの下へ近寄ってきた。
最悪だ。
俺の目の前にタイプの違う女性が3人揃ってしまった。
それも後から来た少女もなぜか俺に疑心の目を向けてきて、俺は針の筵だった。
「そういえば、3人はあの人とはどういう関係なんですか?」
俺はこの窮地から逃れるために、最初から気になっていたこの質問を切りだした。
彼女たちは顔を見合わせると、微笑みあう。
しかし、その微笑みを浮かべているはずの瞳は依然として笑っていない。
「そうですわね。貴方と優さまのご関係だけを聞いたのでは、
対等ではありませんものね。仕方がないですわね。
私たちとあの方とのご関係は・・・。」
「ダーリンですわ」「未来の旦那様よ」「お兄ちゃん!!」
せーの。という声が聞こえてきそうなぴったりのタイミングで
放たれた言葉は3人ともバラバラだったが、
自信満々な様子がそれぞれから伝わってくる。
「「「え?」」」