第28話 ニート、恐怖する
「さぁ、着いたよ。ここが俺の家。いやこれからは君の家でもあるのか。」
(はぁ、これからどうしよう・・・。)
焦りと不安のためか、先ほどから冷や汗が止まらない。
目の前にあったのは明らかな豪邸で、俺の家がちっぽけなものだったのだと
認識させられてしまう。
「な、なんなんだ。この家・・・。」
「ハハハ。驚かせてしまったかい。すまないね」
俺が唖然としている中、ここへ連れた来た
張本人たる青年は自然な笑みを浮かべる。
そして、タクシーの時からずっと握られていた手を引っ張られながら、
屋敷へと進んでいく。
「い、いや。ちょっと、本当にいいですから。大丈夫ですって。」
俺は必死に抵抗しようと足を棒のようにし、彼の進む方向とは
別方向へ向かって自分の手を引っ張る。
しかし、やはり男の人の力にはどうも勝てそうになく、
俺の必死の抵抗も空しく、一歩ずつ一歩ずつ屋敷の中へ連れ込まれていく。
さながら、ペットに引きずられる飼い主であるかのようだ。
もっと大声を上げて、道行く誰かに助けを求めればいいのではないか。
そう考えもした。
しかし、それだけはどうしてもしたくはない。
というかしても意味がない気がする。
というのも、なぜかこの屋敷の周辺に人の姿が一切なかったのだから。
(どういうことなのだろうか。)
そして、ついに玄関のような扉が見えてきた。
本当の意味で俺は危険を確信した。
(こんな人が人っ子一人いない場所に連れてこられてしまった時点で
ゲームオーバーだったんだ。この後俺はどうせこの人に監禁されて、
性奴隷にされて、死ぬまでこの屋敷から出られないんだ。
本当にごめん。瑠美さん・・・。俺が入れ替わってしまったばっかりに
君の体がこれからひどい目に遭ってしまうだなんて。本当にごめんなさい。)
つい最近までしていた病みゲームの展開と同じ
今の状況とついつい照らし合わせてしまう
俺の瞳からいつの間にか涙がこぼれ始めた。
これから訪れることへの恐怖も強かったが、
やはりこの体の本来の持ち主である瑠美さんへの懺悔の気持ちが強いのだろう。
一度流れ始めた涙はダムの決壊の瞬間のように
後からとめどない勢いをもって流れていく。
おそらく、今の俺の顔は完全に崩れてしまっていることだろう。
そしてさすがの青年もこれには驚愕の表情を浮かべている。
(なんでそんな驚いた表情をしているんだ。
これから俺に酷いことをしまくって、たくさん犯す癖に・・・。)
あまりにも不自然な彼の表情に思わず憤りを覚えてしまう。
だが、運命の時は刻一刻と俺の目の前に迫っていて、
この扉が開いた瞬間に彼の性格が鬼畜変態野郎に変わるに違いないと思う。
彼がドアノブを掴み、その扉を開いた。
「あ、優君!!おかえりなさ~い」
「ふえっ!?ユ、ユウさまが帰っていらしたんですの!?」
「ユ、ユウ~。待っていたんだよ~。宿題教えて~」
「え?・・・。どいうこと?」
あまりの急展開に今度は俺が驚愕の表情を上げる番だった。
扉を開けた先にあったのは、俺が思い描いていたような
監禁具や織などが立ち並ぶおぞましい雰囲気などでは一切なく、
よく恋愛系のアニメで金持ちの貴族がすんでいるような
すごく明るい屋敷で物語の中に迷い込んでしまったような気分になってしまう。
それだけではない。
屋敷の中で待っていたのは人を殺していそうな顔の執事でも暗殺者でもない
ましてや人買いのブローカーなどでもない。
俺と年がそこまで大きく変わらない女子達だったのだ。
どう考えてもこの雰囲気とこの内装は
お金持ちの坊ちゃんの家に居候することになっている女子達と
お金持ちの青年のラブコメが始まる予感しかしない
ハーレムアニメの様相を呈していた




