第25話:ニート、誘われる
声をかけてきてくれたのは、見るからに好青年の様相を呈していた。
清潔感の溢れる服装に髪型も大学生特有のチャラさはなく、
どちらかと言えば社会人だと言ってもおかしくはなさそうな感じだ。
ただまあ、この時間に私服でいるということは、
おそらく社会人ではないのだと思う。
とはいえ、私服で業務に当たっている社会人や
たまたま今日はお休みだったという可能性も捨てきれないわけだが・・・。
「あ、いきなり声をかけてしまってすまないね。
いやぁ、君がさっきから同じところをぐるぐるしていたものだから、
何か落とし物をしてしまったのかと・・・。」
この青年はどうやら俺が落とし物を探しているように見えてしまったようだ。
まあ、それもそうかもしれない。
あまりの不安に下を向いて同じところを巡回していたなら、
そう思われても仕方がない。
いや、そう思われない方がおかしい。
ただ、困った。
俺が探しているものは“もの”ではなく、“家への帰り方”なのだ。
心配をして声をかけてくれた人の事を無視するわけにはいかない。
だからと言って、わざわざ見ず知らぬそれも男性に
真実を伝えるわけにもいかない。
どうしたものか。
「う~ん。なんか俺が声をかけてしまって迷惑だったかな。」
「い、いや、そんなことは・・・。」
どうやら、俺は人の落ち込んだ顔に弱い様だ。
さっきの大和君の時もそうだったが、
こういう表情をされてしまっては引き止めたいという衝動に駆られてしまう。
どうしてなのかは分からないけど・・・。
「え~と、物を落としたというわけではなくて・・・。」
「あ、そうなんだ!それじゃあ、何をしていたんだい?もうすぐ陽も沈む。
君のようなきれいな子なら親御さんも心配に思っているはずだよ。」
青年はそう言うと、俺のことを家へ帰るように促そうとしてきた。
しかし、肝心の俺はその家の場所がわからないわけで・・・。
本当にどうしたものか。と悩んでしまう。
刻々と時間だけが進む。
だけど、俺は家の場所もそこへの帰り道も分からない。
「う~ん、それが家に帰りたくても帰れなくって・・・」
だからこそ、俺の口から出てきた返答はこんな風になってしまった。
俺としては、自分の今の状況を表す言葉として最適な言葉だと思った。
しかし、その言葉を告げてからみるみる青年の表情が
深刻そうなものへと変わっていった。
その表情の変化の意味が全く分からなかったが、
青年はその深刻そうな顔のまま俺の手を掴んだ。そして・・・。
「すまない。君の家庭がどんな状況なのかも知らないというのに、
あんな無責任で迷惑なことを言ってしまった。本当にすまない。」
突然、青年は頭を下げてきた。何か大きな勘違いをしているようだ。
「え、え、え・・・。ちょ、ちょっと頭上げてください。」
「本当にすまない。そうだよな。こんなところに女子高生が一人で
同じところをあんな不安そうな表情で歩き回っていたというのに。
なんて俺は馬鹿な男なんだ・・・。」
ついには自分のことを青年は卑下してきた。
本当にどうしたというのだろうか。
俺には全くもって見当が付かなかった。
しかし、青年は何か思いついたのか、ばっと顔を上げてきた。
その行動にまたもや驚いてしまう俺。
だが、驚きが終わることはこれだけではなかった。
青年は完全なる作り笑顔を浮かべると、言った。
「わかった。君が家に帰れないというのなら家に来るといい。
手狭ではあるが、使っていない部屋があったはずだ。
それで君の気が済むまでいるといい。君の家族には俺から話を付けよう。」
「え?」
俺は固まった。




