第24話 ニート、焦る。
「あ、そうだ!ここでこうしてあったのも何かの縁だし、連絡先交換しない??」
そして、茜は俺の気分を変えてくれようとしてなのか、彼にそんな提案をしていた。
「え、いいんですか?ぼ、僕お二人に迷惑をかけたと思うんですけど・・・。」
しかし、当の本人の彼は俺のことを連れ回してしまったことに
罪悪感を感じているのか、乗り気ではなかった。
茜は少しだけ考えるような素振りを取ったが、すぐに彼の手を掴んだ。
「いいんだよぉ。それに迷惑だなんて全然思っていないから!!ね?瑠美ちゃん」
「う、うん!!私からもお願い!連絡先交換しよ?」
茜の振りは俺自身とても嬉しかった。
さっきの発言のせいで彼の罪悪感を助長させてしまったのは間違いなかった。
だからこそ、その償いを俺自身したかった。
俺たちの言葉を聞いた彼はよほど嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべる。
「わ、わかりました!本当にありがとうございます。」
「新崎大和君かぁ・・・。えへへ」
帰り道、俺は自分の携帯、いや正確には瑠美さんの携帯に入った
新しいアドレスを見て、にやにやしていた。
というのも、よくよく考えてみると、俺がニートとなって以降、
自分の携帯に他人のアドレスが入ることはほとんど皆無に近く、
そもそも学生時代から友達が最小限しかいなかった
俺の携帯の中に入っている連絡先と言えば…。
両親、柚葉、光喜の4人だけだ。
そんな俺が今日、新しい連絡先を追加できたのだ。
これほどに嬉しいことはない。
二人と別れてから、顔のゆるみを抑える必要が無くなってしまった。
だから、こんなにもニヤニヤしてしまっているわけだが・・・。
とここまでは何の不安もなく、
満足のいく放課後を送ることができたと幸せを感じていた。
だけど、ふと俺は今まで忘れていたあることが
その幸せを塗りつぶす勢いで頭を侵食してきた。
「あ~!!!家が分からない~!!」
気が付けば、瞬時に事の重大さに気付いてしまった俺は焦りと不安と共に
今まで上げたことのない音量、そして女性特有の甲高い声で
そんな叫びを公衆の面前で上げてしまっていた。
「やばいやばいやばいやばい。どうしよう・・・。」
多分、周りから見れば変人に思われるだろう。
道の途中で何度も行ったり来たりを繰り返しながら、
やばいを連呼する女子高生。
俺がもしも、他人の立場でこの光景を見ていたとしたら、
絶対に好奇の目を向けてしまうし、「いったん落ち着いた方がいいんじゃ」
と考えてしまうことだろう。
しかし、今その状況に陥っているのは俺自身であって、
冷静を維持することなど到底不可能なことだ。
俺の心の中は焦りと不安、絶望感で一杯になった。
もし、このまま瑠美さんの家に帰ることが出来なければ・・・。
家の人が心配して警察に通報されるかもしれない。
そんなことになったら警察沙汰になって大事になり、
瑠美さんに多大なる迷惑をかけてしまうではないか。
それに、瑠美さんはすごく綺麗な女子高生なのだ。
こんな綺麗な子が夜中に外をうろついていたら、
変な人に声をかけられるかもしれない。
最悪、誘拐されて・・・。あんなことやこんなことだって・・・。
被害妄想が過ぎるかもしれない。
だけど、思考が負の感情によってうまくまとまらなくなっている
今の状況では仕方のない事だろう。
しかし、こういった負の思考がスパイラルのようになっていき、
加速度的に俺の心を蝕んでいくことも確かな事実なのだ。
だけど、嫌な方向に考えることを止めることができない。
あ~!!本当にどうしよう・・・。
「ちょっと君大丈夫かい?」
そして俺が何度目かの同じ場所を逡巡しようとしたちょうど、その時だった。
大学生かなと思しき青年がこちらに心配気に駆け寄ってきてくれたのは。