第22話 ニート、やってしまう
「あ、い、いやぼ、僕は怪しいものではなくて・・・。
る、瑠美さんが寝ちゃったんで・・・。」
私が声をかけてびっくりさせてしまったのか、彼はかなりしどろもどろになっていた。
ただ、現状はなんとなくだけど把握できた。
それにしても、怪しいものじゃないって・・・。
「ふふふ」
思わず、笑い声が口から漏れ出してしまった。
それに対して、彼はきょとんとしながらも次第に笑顔になっていった。
う~ん、なんか俺の頭の上で男女の声が聞こえるな。
なんだろう?
というか、ここは自分の家ではないんだよな。
俺は自分の記憶を思い起こそうとする。
あ!!
俺は今の状況を理解した瞬間に飛び上がるように目を覚まし、起きあがった。
そうだ。俺は茜と一緒にラウンドセカンドに遊びに来て、
途中で別れていたら、見知らぬ少年に声をかけられて、遊んでいたんだった。
それで多分、寝てしまっていた。
そして、そこまで思い至った瞬間に気付く。
茜と彼が俺をじ~っと見ていることに・・・。
「あ、瑠美ちゃん!起きたんだね~!!」
「瑠美さん、お体大丈夫ですか?無理させてしまったみたいですみません。」
二人はそれぞれで声をかけてきた。
しかし、俺としては今のこの状況を理解することの方が最優先事項だ。
彼がそばにいるのは理解できる。
一緒に遊んでいたのだから、まあわかる。
だけど、茜の方はどうだろう。
確か、別れて遊ぶことにして、別れたんだよな。
それなのになんで彼女がここにいるんだ?
その答えはすぐに察することはできた。
俺がいつまでたっても合流してこないものだから、探しに来てくれたのだろう
その優しさには感謝しかない。
だけど、今のこの状況を見られたのは計算外というか危険なことだった。
友達を一人に放置したまま、男の子を侍らせて遊んでいたのだ。
そこに至る経緯がどうであろうと、悪い評価が付くことは間違いなかった。
それに加えて、その男の子の側で寝てしまっていたのだ。
変な勘違いをされていてもおかしくないようなこの状況。
俺は恐る恐る茜の顔を見るべく顔をあげた。
(多分、怒っているだろうな)
しかし、俺が思っていたような表情を茜が浮かべていることはなかった。
起きてきたこと自体が嬉しいと言わんばかりの満面の笑みだったのだから。
それに加えて、よく見てみると茜と彼の距離は微妙に近かった。
足と足が少しでも動かせば当たる。そんな距離感覚に彼らはいた。
そして俺はそんな彼らの向かい側のベンチに寝ていた。
何分間寝ていたのかは定かではないが、ほんの短い間にいつのまにか
彼らは仲良くなっていったようだ。
と、まあそんな風に観察していると、茜が時計を見ていた。
「あ、もうそろそろ2時間経つようだよ~
いやぁ、瑠美ちゃん、グッドタイミングで起きてくれて良かったぁ♪」
そう言いながら立ち上がる茜。
しかし、その言葉を聞いて俺はさっきの考えが間違いであることに気付いた。
俺は5分から10分程度寝ていたと思っていた。
だけど、今の言葉とこれまでの時間配分を計算していくと、
おそらく俺が寝ていた時間は30分から40分強になってしまう。
やってしまった。
俺は深く後悔した。
遊びに来たのにその内の半分以上を一緒に遊ぶことができなかった。
これは友達として決してやってはいけないことだと思う。




