第18話 ニート、手始めに卓球をする
「瑠美ちゃん、こっちこっち!!」
まず茜が俺を呼びつけた場所は卓球テーブルだった。
卓球か・・・。
まあ、女子が好きそうなスポーツだもんなぁ。
よし、ここは経験者の力を見せようかな。
俺、鈴村湊は中学の頃、1年間だけだったが卓球部に在籍し、そこそこの実力はあった。
まあ、とはいえ地区大会の予選が始まる少し前に退部するという選択肢を選んだから、
外から見た実力は分からなかったけど・・・。
俺は昔、していた頃と同じようにハンドタイプのラケットを掴むと、
茜の対面上に立って、構えた。
そして、俺の方からサーブをしてもいいと言われたので、
ピンポン玉を経験者がするようにテーブルで軽く弾ませる。
コンコン、コーン・・・。
うん、いい音だ。
俺はピンポン玉の奏でる音に耳を澄ませた。
そして・・・。
フッと玉を俺の遥か頭上まで上げ、その玉が落ちてくる瞬間にラケットを振った。
俺の予想では、その玉はきっちりと茜のコートに入り、
更には回転もかかって左に曲がるはずだった。
しかし、現実はブランクを抱えているものに対してはひどく厳しかった。
俺が放った球が予想以上に高くまで上げてしまったこともあるが、
なんとその玉が落ちたのは俺の頭上であり、
それだけでも恥ずかしいというのになんとそのことに驚いて、
「ひゃう」というすごく恥ずかしい声を出してしまったのだ。
その瞬間にさっきまでの俺の中にあった経験者という心の余裕は音を立てて崩壊し、
自分でもわかるくらいに顔を赤くさせてしまっていた。
うわぁ・・・。本当に恥ずかしい・・・///。
コーンコーン、コーン
さっきまではいい音だとか心の中で言っていたこの音も今では、
この恥ずかしさをさらに助長させるものとなってしまった。
できることなら、このまま家に帰りたかった。
一気にやる気を喪失させられたが、せっかく誘ってくれたのだ。
茜の気が済むまでは続けなければいけない。
俺はまだ赤面していたが、気を取り直して、茜の対面に立ち直した。
そして・・・。
今度はさっきのような醜態を晒すわけにはいかないので、
コートの上で珠を弾ませてから、ラケットを振ってみることにした。
コ~ン、カッ
俺の思惑通りにボールはラケットの中央に当たり、そのまま茜のコートへ入っていった
よ、よし!!
ただボールがコートに入ったというだけなのに、この嬉しさは何だろう。
まるで卓球初心者のような心境の変化に自分のことながら驚いた。
だけど、それでも嬉しいものは嬉しい。
俺の放った球はゆっくりだったが、茜のコートに到達し、バウンドする。
しかし、その玉はバウンドした瞬間に俺の視界から消え、
コーンコーンコーンという音が背面から鳴り響いた。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
だけどそれは茜の手元と後ろに落ちてある玉を見て、理解した。
俺が放った玉が茜のコートに到達した瞬間に、
茜は瞬時にそれをジャストミートで打ち返し、その玉が一瞬のうちに
俺のコートに突き刺さり、勢いそのままで玉が壁に直撃していたのだ。
俺は衝撃を受けた。