第16話 ニート、必死で逃れようとする
さてと、俺はこの窮地をどう脱するべきなのだろう。
茜と下駄箱まで来てしまった俺は逃れる理由を必死に探していた
ついつい即決で行くと言ってしまった俺は猛省していた。
長時間、何も知らない女子のことを自分のことのように話すことは
どんなに話術が巧であったとしても、コミュニケーション能力が高めでも、
はたまた天才であったとしても不可能なことだろう。
人は自分が経験した想いや記憶からしか話すことはできないのだから。
ましてや、性別も年齢も違う人間のことを話すことなんて絶対無理だ。
俺がこの状況から逃れるために考え出した方法は3つ。
1つ
「あ、やっぱり用事があったんだ!!」と嘘をついて、足早に帰ること。
だけどこの選択肢は家の場所を知らない俺にとっては
さらなるピンチを引き起こしかねない。
当てもなく、走り出すことほどに恐ろしいことはないのだから。
2つ
「あ、ごめん!授業で分からないことがあったからそれを聞きに行ってからでいい?」
と言って、職員室に寄り道をすることでおしゃべりをする時間を
減らしてしまおうという作戦。
しかし、この方法に問題がある。
というのも今日の授業を全て受けた俺は世にも恐ろしい
「分からないことが何なのか分からない」という完全なる馬鹿な子が
言いそうな最悪な状況に直面していたのだ。
話を聞く限り、この瑠美という少女は真面目ということで通っているようだ。
そんな少女がいきなりそんな「分からないことが何なのか分からないんです」
なんて言おうものなら完全に怪しまれてしまう。
そして3つ目、これはできれば絶対に使いたくはなかったがしょうがない。
こうなっては背に腹は代えられない。
俺は3つ目の選択肢を行動に起こす決意を固めると、恥ずかしさを胸の奥へしまった。
そして勢いよくお腹を押さえながらしゃがみ込んだ。そして・・・。
「い、痛い!!お腹が急に痛くなってきちゃた!!
こ、この感じは多分、あれが来ちゃったみたい!!」
そう俺が考え出した切り札的選択肢、それは・・・。
突然の生理痛
だった。
男がこんなことをすれば引かれることは間違いない。
だけど今の俺は紛れもなく女子高生であり、
女子であれば当然に生理が毎月一定のタイミングで来るはずだ。
それを逆手に取った究極の選択肢。
できればこの方法は使いたくはなかった。
男である俺が生涯発することのない言葉を放つという羞恥心もそうだが、
この方法は一月に一度しか使えない。
というかそう頻繁に生理になるような女子はほとんどいないだろう。
それに加えて、この方法を今使ってしまったということは、
今後一月以内に必ず来るであろう本当の生理が訪れた時には、
生理ではないと嘯かなければいけないのだ。
話で聞いたことしかないが、生理痛は本当に強烈な痛みらしい。
そんな痛みが来ているのに、それを来ていないように
演じなければいけなくなるのは拷問以外の何物でもないのだが、
そんな先のことを考えている余裕はなかった。
今この窮地から脱することさえできれば、それで良かった。
これでトイレに駆け込んで、このまま解散となるだろう。
そんな予感を感じながら、俺は茜の方を見た。
すると茜は苦しんでいる演技を見せている俺を見てなぜか笑っていた。
そして・・・。
「あはは!瑠美ちゃんはやっぱり演技が上手いよね~!昨日、瑠美ちゃんが
やっと生理終わったぁって言ってなかったら、嘘だと気づかなかったよぉ」
「え?お、終わった?」
俺は衝撃的な事実に思わず、茜の言葉を復唱してしまった。
そう、速見瑠美の生理は惜しくも湊と入れ替わった前日に終わっていたのだ。