第15話 ニート、遊びに誘われる
俺はこの瑠美の家を知っているわけではない。
かといって、自分の家に帰るわけにもいかない。
こんな見知らぬ少女が突然、家に来たら両親も驚くに違いない。
というか、ただでさえリストラされてこれ以上ない精神的ダメージを
受けている親父に対して、これ以上の精神的ダメージを与えるわけにはいかない。
俺はなくなく自分の家に帰るという選択肢を放棄した。
そしてしょうがないので、瑠美さんの家に帰ることにした。
ただ、問題はその家の場所なのだ。
俺はこの少女に今まで出会ったことはないし、話したこともなかったのだ。
そんな子の家を知っているわけもなく、どうしたものかと悩んだ。
ただ、皆が鞄を持って教室を出ていく中、俺だけがその場で動かずに考えを
巡らせるのはあまりにも不自然なことだろう。
ちなみに、上山さんは部活があるからと言って猛ダッシュで
教室を飛び出していき、唯は先生に聞きたいことがあるからと言って、
教室を出ていった。
そして残る茜は何やらにこにこしながら、こちらを見ていた。
「るみちゃん、るみちゃん」
茜は時機が来たと言わんばかりに俺に話しかけてきた。
「え、どうかした?」
「きょうさぁ、ひまなのぉ??いっつもだったらぁ、学校が終わったら、
すぐに帰っちゃうからさ~。今日はいいのぉ?」
それは何気ない一言だった。
おそらくこの言葉を発した張本人の茜は気づいていないことだろう。
ただ、俺としてはこの言葉に少々ギクッとした。
この瑠美という少女の“いつも”はすぐに家に帰るということなのに対して、
今の俺がしている行動は明らかに異例の行動だった。
そのことに気付かされたのだ。
というか、先ほどのお弁当の時と言い、
この茜という少女は瑠美さんのことをよく見ていたからなのかもしれないのだが
結構些細な違いに気付かれる。
気を付けなくてはボロが出てバレてしまうかもしれない。
そんな疑念がついつい頭をよぎった。
ただこのまま返事を返さないというのも怪しさが助長される。
「あ、そ、そうなの!!今日はね、珍しく暇なんだぁ。あはは」
「そうなんだぁ。へぇ~、それじゃあさぁ、遊びにいこぉ♪」
「へ?」
思わず、すっとんきょんな言葉が出てしまった
まさか遊びに誘われるとは思っていなかった。
というか女の子に遊びに誘われること自体初体験の事で、返答に困る。
「う、うん。いこっか」
そして出された答えはただの肯定の言葉だけだった。
別に断るような理由もないだろうし、それにここで茜の親密度をあげておいた方が
今後、いい方向に進む予感を感じての事だった。
それにしても女の子たちの遊びってどういうことをするものなんだろうか。
俺のイメージでは近くのカフェに入って、夕日が落ちるまで恋バナや友達、先生、
学校の事なんかをおしゃべりすることだった。
と、そこまで考えて俺は急に焦りを覚えた。
というのも、もし俺のイメージ通りの遊びをこれからするのだとしたら、
大体3時間くらいの間、茜とそういう話をするということで、
それは間違いなく俺がボロを出して一気にバレてしまう可能性が高い事なのだ。
俺はこの時ほど、即決で肯定という選択肢を
選んでしまった自分自身を恨むことはなかった。
だからと言って、ここまで来て茜の誘いを無下に断るのも逆に怪しまれる。
俺はできるだけボロを出さないようにと心に深い誓いを立てて、
満面の笑みを浮かべながら教室を出る茜と共に教室を出ていった。
「な~ほぉ、ねぇねぇ、あそこの二人、すっごっく可愛いと思わない??」
わたしは璃子がまたしてもお腹をつんつんしながら、そんなことを言ってくるので、
「も、もうやめてよ!お腹をつんつんするの!」と言いながら、璃子の視線上を見た。
そこにいたのは一年生だと思われる二人の少女だった。
1人は天真爛漫な笑みを浮かべているが、
もう一人は何やらこの窮地を脱するにはみたいなことを
考えてそうな神妙な表情を浮かべていて、
なぜだか突然女になってしまった3年前の自分とダブって見えた。
(まさか、そんなことあるわけ・・・・。ないよね)
そんなことを思っている間にもう、二人の姿は下駄箱の奥へと消えていた。