第13話 ニート、禁断の花園に遭遇する
6時間目の授業は地理だった。
授業担当の先生は5時間目が体育であるということを知っており、
その配慮のためなのかいつも授業開始後5分を目途に教室に来てくれるらしい。
なぜ、そのようにしているのかは明白なことで、地理の担当の先生が男性だから。
だから俺が谷川先生に話をしに行って、こうして教室に戻ってきたとしても、
この教室の周囲に先生はいないのだ。
俺は教室の中へ申し訳なさそうに入っていった。
しかし、この時の俺はすっかり忘れていた。
3人に感謝を述べることだけを考えていたのだから、
ある意味しょうがないのかもしれない。
「あら、瑠美!もう平気なの?」
教室に入った俺に真っ先に声をかけてきてくれたのはやはり唯だった。
着替えの時から薄々感じていたことだが、彼女は周りをよく見ている。
だからこそ、部屋に入った人をいち早く気づくことができるのだ。
「るみぃ、ほんとのホントに大丈夫!?無理してない!?」
「そうだよぉ。無理は禁物なんだよぉ」
唯に続けて、上山さんと茜が近づいてくる
俺は感謝を述べようと考えて、この教室へ戻ってきた。
だからこういう風に3人の方から近付いてきてくれるのは好都合であり、
「ありがとう」の
一言をこの口から発することが最優先事項だった。
はずだった・・・。
俺は今、目の前に広がっているこの状況に絶句していた。
さっきの着替えの時は唯と茜、上山さんの3人だけで、
それでさえ俺の心は死にそうだった。
なのにも関わらず、今のこの眼前に広がるこの光景はどうだ。
クラスメイトの数はざっと見積もっても30人。
その過半数が着替えの最中だったのだ。
ある者は上の方から着ているためか、下半身を包んでいるのはパンツだけ。
またある者は逆にスカートは来ているのに、上を着ていない
そして一番困惑したのは、上も下も制服をまだ着用せずに
下着のみで椅子の上に座っている彼女の存在だ。
よほど、体育で汗を掻いて暑かったのか、
クリアファイルをうちわ代わりにして体を仰いで、熱を冷ましていた。
どう見ても、着替える様子がない。
見てはいけないとは思っていながらも、男のサガには抗えないもので、
チラチラと彼女の姿を確認してしまう。
完全に今の俺は変態だ。
というか健全な男性であれば、この光景はまさしく天国そのものと言って
過言ではなく、そのうちの一人である俺もまた眼福と言わんばかりに見てしまう。
それに加えて、男の体育終わりの教室では
到底感じられないような臭いが俺の鼻腔を刺激してくる。
ただ汗臭いだけの男の匂いとは異なる柑橘系の酸っぱい匂いの中に
女性特有の甘い匂いが適度に混じりあい、凄まじく男の性欲を
掻き立てるような臭いがこの教室の空気を支配していたのだ。
はっきり言って、今の教室の中に中身は男の俺がいるような場所はない。
というか、今の俺には存在しないはずの男の象徴が膨れ上がっていくような感覚がして、
罪悪感と背徳感、そして性欲が強烈なものへと変貌していた。
今すぐ、この場から立ち去って死にたい!!
そう考えてしまうほどに、この場から一刻も早く逃れたかった。
だからと言って、また逃げるわけにもいかない。
ましてや、倒れでもしようものなら、それこそ3人に本気で心配されてしまう。
そんなことはこの瑠美のためにも避けなければいけない事案だった。
俺は一気に息を吐き、思いっきり息を吸った。
心を落ち着けるために無我の境地へたどり着こうとした。
そして、俺の心を無に落ち着けることに成功した。
「ありがとう。」
俺は無に落としたその瞬間に、3人にそう告げると、
そのまま自席へと一目散に座りに行くと目を閉じた。
あの刺激の強すぎる光景を遮断するために・・・。
瑠美が席に座って、目を閉じたちょうどその瞬間
「瑠美、本当に大丈夫かしら?なんだか今日のあの子、おかしくない?」
「そ、そうだよね!!なんか今日のるみぃの行動、
挙動不審というか不自然というか、どうしたんだろう・・・。」
「わかんないけどぉ、心配だよね~」
その言葉を言って、彼女たちは着替えを再開した
一方その頃、とある病院の一室では患者とみられる
成人男性の横に二人の女性が座っていた。
1人はその男性の母親なのか年配の女性だったが、
もう一人の女性は男性と同い年なのか、そうでないのかは分からないが、若かった。
彼女たちは心配そうにしながら、呟いた。
「湊ったら、柚葉ちゃんが遊びに来てくれたのに、
こんなことになってしまうなんて・・・。」
「そうだよ。湊・・・。またいつものようにお話ししようよ・・・。」




