第12話 ニート、友達のありがたみに気付く
「あれ?ここはどこだ・・・。」
俺はさっきまで着替えをしていたはずだった。
それなのに、どうして俺は今寝ているんだ!?
だんだんと視界が明瞭になっていく。
視界の先に映ったのは白い天井だけで、俺は首を傾げる。
そして時間が立つにつれて、視界以外の五感も戻っていった。
何か薬品のような臭いが鼻にまとわりつき、俺の意識は一気に覚醒した。
(そうか。ここは保健室だ・・・。)
そして、そのことに気付いたと共に全てを思い出してしまう。
俺が瑠美の下着を見たことによって、気絶してしまったという事実を・・・。
一気に恥ずかしさが襲い、たまらず掛けられていた布団で顔を隠した。
「あら、目が覚めたようね」
恥ずかしさに混乱していると、カーテンが無造作に開けられた。
近藤先生だった。
近藤先生は心配を前面に出した表情で声をかけてきたかと思うと、
彼女の手が俺のでこに伸びてきた。
「うん!熱はないわね。多分、疲労から来た眩暈だと思うわ。
谷川先生にはもう連絡しておいたから、この時間は休んでおきなさいね。
あと、友達3人にはあとで感謝しておくのよ。
あの子たち、自分たちが体育の授業に遅れているのにも構わずに、
あなたを3人で力を合わせて運んでくれたんだから~。」
それだけを言うと、近藤先生はカーテンをまた閉めると、保健室から出ていった。
俺はその言葉を聞いた瞬間、感謝と共に何とも居たたまれない気分に陥ってしまう。
はっきり言って情けなかった。
女の子の下着を見てしまったこともそうだけど、それで気絶をしてしまい、
その上女子3人にこんな場所まで運ばせてしまったのだ。
今は男の姿ではないとしても、純粋に男として恥ずかしい痴態をさらしてしまった。
穴があったら入りたい。とはまさにこういう時に使う言葉なのだろう。
はぁ・・・。
誰もいない保健室の中で、大きなため息を吐いた。
そして、近藤先生の言いつけを守って、この5時間目はゆっくりと休むことにした。
とはいっても、あと20分で5時間目も終わる時間なのだが・・・。
あれから俺は15分程度、静かに眠った。
その甲斐もあってなのか、先ほどまで感じていた感情は少し薄らいでいた。
体もおそらく元気になったのだろう。
俺はゆっくりと体を起こすと、ベッドから降りて、カーテンを開けた。
近藤先生はまだどこかに行っているのか、部屋の中にはいなかったので、
近くにあった紙に「教室に戻ります。休ませていただきありがとうございました」
と書き残して、部屋を出た。
廊下を歩いていると、5時間目が終了するチャイムが鳴り響き、
俺はそのまま職員室まで歩いていった。
職員室の前で待っていると、見るからに体育教師だろうジャージ姿の
快活そうな表情の女性がこちらへ向かって歩いてきた。
俺は多分、あの人が・・・。と確信を密かに抱きながら、彼女に近づいて行った。
「あ、あの谷川先生・・・」
少し緊張してしまった俺の声は少しかすれてしまったが、どうやら聞こえたようだ。
彼女は俺に視線を向けると、心配そうな表情になった。
どうやら彼女が谷川先生で間違いなかったようだ。
「あら、速見さん、もう体は大丈夫なの?」
「は、はい!!おかげさまでもう大丈夫になりました!!
あ、あと、体育の授業に参加できなくて、本当にすみませんでした。」
俺はその言葉とともに頭を下げた。
この瑠美という少女が後々、教師に目を付けられないようにするために
勇気を出して、謝りに行くという選択肢に乗り切ったのだ。
谷川先生は少し面を食らってはいたが、
すぐに穏やかなそれでいて優しい笑みを浮かべると、俺の頭を優しく撫でた。
「ふふ、そんなことで謝りに来るなんて、本当に速見さんは真面目ね。大丈夫よ。
それよりも速見さん、無理は禁物よ。
大事な体なんだから、しんどい時にはきっちり休まなきゃダメよ。」
「は、はい!!」
谷川先生は聞いていた鬼川先生というあだ名が全く合わないほどに優しかった。
多分、この瑠美という少女の人徳もあってこそだとは思うが、
そういう心配の言葉は純粋に嬉しかった。
そして、俺はもうひとつ気になっていることを伝えることにした。
「あ、あの、後なんですけど・・・。
佐那ちゃんと茜と唯は私のせいで遅れてしまったんです。
だ、だからあの子たちに何か罰を与えているなら、私にも与えてください!」
俺が気になっていたこと、それは3人の遅刻に対する罰だった。
あれほど3人が恐れていた遅刻は俺が原因でさせてしまったのだ。
あの優しい3人がそのことで谷川先生に怒られたり、
何らかの罰を与えられたのであれば、その原因を作った俺が償うのは筋というものだ。
どんな罰でも受け入れよう。そんな意気込みで谷川先生の次の言葉を待った。
「そうね。それじゃあ、3人に感謝しなさい。それで十分よ」
谷川先生の発した罰は衝撃的なものだった。
「あの子たちも真面目だからね。
それにあの子たち、あなたと同じことを言っていたわよ。
速見さんを怒るなら、その分私たちを怒ってくださいって。
本当にいい友達を持ったわね。大事になさいね。
それじゃあ、私はもう行くわね。速見さんも次の授業に間に合うようにね。」
谷川先生はそう言うと、職員室の中へ消えていった。
そして俺はこんな感情を今抱くべきではないと分かってはいながらも、
たまらなく嬉しくなっていた。
谷川先生の言った言葉はその通りだった。
本当に彼女たち3人は、いい友達だったのだ。
(俺もこんないい友達に囲まれていたら、
ニートにはならなかったかもしれないなぁ)




