第9話 ニートと奇跡の出会い
俺は意を決してまず、ブラウスのボタンを外そうとした。
しかし、俺の手はつい今朝までニートだったということもあり、
思うようにボタンを掴めない。
いや厳密には違う。
男である俺が女子高生の制服を脱がしていくという行為に対する
背徳感もとい罪悪感が胸中の中に渦巻き、
その心意的作用が自身の指へと伝わっているのだ。
視線を自分の指へ持っていくと、明らかに小刻みに震えている。
正直言って、やばかった。
しかしながら、俺がそんな風にあからさまに不自然な行動を
とってしまっていたことが却って、
俺の背徳感や罪悪感を助長させてしまった。
「瑠美、ちょっとあなた本当に大丈夫なの??」
唯は心配を全面的に表情に滲ませながら近づいてきた。
まあ、こうなるのも当然の反応だろう。
友達が着替えの最中に手を小刻みに震わせていたら、
誰だって何かおかしいと思って、近寄っていく。
俺だって同じ状況であれば、近寄っていく。
これが普通の人の反応であり、
この行動に対して疑問を浮かべるものはいないだろう。
しかし、今の精神状態の俺にとって、
この唯の取った行動は死亡宣言のようなものだった。
俺の心を罪悪感という死神が刈り取ろうとしていた
近づいてきた唯もまた着替えの最中だったのだ。
それも一番俺の罪悪感を掻き立てるような格好。
つまり体操服の上を着ていない状態で近づいてきたのだ。
先ほど自分の心の中で呟いた
「こんなうら若き女子高生の肌や下着を
見てもいい権利は俺にはないのだ。」という
言葉の適用対象にはもちろんこの唯も含まれていた。
上山さんもそうだし、茜さんのだってそう。
俺なんかが見ていいはずがない。
だからこそ、俺は着替えを決意してから自分のボタンにだけ集中し、
周りには一切目を向けることをしなかったのだ。
それにも関わらず、今この瞬間唯は心配してこちらへ近寄ってきた。
それも体操着の上を着ていないという状態のまま。
俺の心の中は罪悪感に押しつぶされそうになっていた。
(唯さん・・・。本当にごめんなさい。
俺みたいなニートの男が君の肌を見てしまって。本当にごめんなさい!!)
ただひたすらに心の中で見てしまったことへの謝罪を述べる。
しかし、唯の俺の心への追撃はそれだけでは終わってくれなかった。
なんと唯は何も言わずに俺が着ているブラウスのボタンに手をかけると
、一瞬で外していったのだ。
その間、俺の眼前には下着姿の彼女で、
割と女子高生にしては大きな胸を持っていることもあって、
胸の谷間についつい目が行ってしまった。
そしてそれと同時に鼻腔をくすぐる女の子特有の甘い匂いが俺を襲った。
心の中を読まれていたら、すごく気持ち悪がられることだろうが、
すごくいい香りだった。
「はい。ボタン取れたわよ。体調本調子じゃないんでしょ
。言ってくれれば良かったのに。」
唯の早業によって、悪戦苦闘を強いられていたボタンは外され、
唯は気遣いの言葉までくれた。
なんていい子なんだ・・・。
そう思ったのも束の間のことだった。
ボタンがすべて外されたブラウスの前は事も無げに開かれていき、
眼前に現れたのはシャツに覆われた自分自身の胸だった。
いや、正確には瑠美という少女の胸がブラジャーに覆われている。
(うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)
俺は心の中で叫び声をあげた。
先ほど目の前に唯の胸があったときも、
上げそうになったがどうにか平常心を貫けた。
だが、今度は自分の体となった少女の胸が目の前に広がっているのだ。
先ほどの衝撃とはまるで違う破壊力に襲われた。
幸い、唯の時とは違いシャツを着ていてくれたことは良かった。
だけど、俺の心はもう限界に到達しかけていた。
なぜ俺の心がここまでのダメージを受けてしまったのか。
それは俺の趣味嗜好のせいだろう。
俺はニートでいる間、よくアニメや映画を鑑賞し、
漫画を読み、ゲームをしていた。
それこそ少しいかがわしい作品も楽しんでいた。
そんな時に俺が必ずと言ってもいいくらい
好きになるキャラにはいくつか共通点があった。
そのうちの一つが胸の大きさだった。
俺はあまり巨乳というものが好きではない。
どちらかと言えば大きすぎる作品は嫌いだった。
大きすぎず、小さすぎず。まあどちらかと言えば小さい方が好きだった。
しかし俺の中の理想の胸の大きさを体現してくれるキャラは現れなかった。
それなのに、今俺が見ているこの瑠美という少女の胸ときたら・・・。
間違いなく、俺の理想とする胸の大きさそのものだった。
正直、こんな形で巡り合えるとは思っていなかった。
「ねぇ、本当に大丈夫なの??」
奇跡の出会いに理性の檻を吹き飛ばされそうになった俺を
こちら側に連れ戻してくれたのはまたしても唯だった。
今回はさっきまで以上に心配が顔に滲んでいる。
(やばい・・・)