風紀委員、来襲(下)
木村は上野の言葉をあえて無視し、相川を鋭く睨む。
「だから! もっと単純に言わせてもらうとこの教室を風紀委員に明け渡しなさい!」
「嫌です」
「ムリムリ」
「すみません」
「きょ、恐喝かよ……ですか」
美化委員総出の拒絶。
「なんですって?! 私達より内容のあるような活動をしてないくせに良い部屋割り当てられて……!」
「マサチューセッツ先輩」
「違うけどなによ!」
「そんな遠まわしに言わなくても分かってますよ」
「……嫌な予感しかしないのだけど」
「まさかマサチューセッツ先輩がダジャレを言うような人だとは思いませんでしたが」
「………………え?」
「え? って、つまり先輩は『美化委員は内容の無いような委員会』と言いたいんですよね」
「……」
「(こ、これは! ダジャレと見せかけて本質をついている質問か?! それとも先輩にダジャレじゃないと言わせて美化委員の活動内容があるように言わせる罠か?! どっちなのかよく分かんねーけど上野すげえ!)」
「どうしたんですか? 私なにか間違えてました?」
「全然間違ってないから、自信を持っていいわよ上野」
「そうだな、完璧なる2択だ。YesかNoで済む」
「そ、そう……かもな」
自然とみんなの視線が木村へと集まる。
木村は俯き、きっちりと切りそろえられた前髪に隠れて表情が窺えない。
「い、委員長?」
見かねた風紀委員の小倉が恐る恐る声をかける。
「何だ?」
「あなたではありません!」
木村に声をかけたはずが相川が返事をしてしまい間髪いれずに小倉は切り返した。
すると木村は弾かれたように顔をあげて声を発した。
「放課後だわ」
時計を見るとちょうど分針が10を示し、放課後の音楽が流れ始めた。
「(すげえ体内時計持ってんな……)」
「今日のところは見逃してあげるけど、明日は覚えてなさい!」
挑発するようにびしっと人差し指を相川に向けた。
「先輩こそ今日の質問ちゃんと覚えておいてください」
「明日回答ってことね」
「うるさい! アンタ達さっさと帰りなさいよ!!」
それだけ言うと風紀委員長は勢いよく部屋から出ていった。
「い、委員長!」
「なんだ」
「だからあなたではないです!」
捨て台詞を吐いて風紀委員たちは走り去った木村を追いかける。
「廊下を走るのか、学校の風紀が乱れるな」