風紀委員、来襲(中)
「そうね、あたしたちが悪かったわ」
「すみませんマサチューセッツ先輩」
「さっき私のこと木村さんって呼んでたわよね?! あとその変な気遣い止めてちょうだい!!」
「じゃあ何の話をしに来たのですか?」
「本当に分からないの?!」
「分からん」
相川がきっぱりと答えると木村は深いため息をついて脱力する。
「なんであなたたち美化委員がこの教室を使用しているのかってことよ!」
木村はびしっと真っ白なホワイトボードを指差す。
今日の議題はまだ書かれていない。
どうせ書けないが。
「それが何か」
「風紀委員は理科準備室を使用してるのよ」
「だから、それがどーしたって言うの?」
「こっちを見てる人体模型とかホルマリン漬けの何かとか儀式で使いそうな動物の頭蓋骨なんかがあるのよ?!」
「何かって、頭よさそうに見えて分かんねぇのかよ」
「敬語を使いなさい一年坊主」
「は、はぃ……(だからなんで俺だけ)」
「なんで1年集団の、それも活動の少ない美化委員の方が教室が大きいってどういうことよ!」
「美化委員は週5で活動してますから」
「はあ? 週5も活動することないでしょ! 見栄張るんじゃないわよ!」
「なにを言ってるんですか。やることがたくさんありすぎて週7にしたいくらいです」
「絶対嫌」
「え、マジかよ、週5? 俺今初めて知ったんだけど」
「普段は水曜日しかない委員会に月曜日から出席してるのに? 気付かなかったの?」
「(そうだ……石田が怖くて覚えてなかったが昨日は月曜日だった……)」
「教えてなかったのか、石田の下僕だろ?」
「いらない、興味ない」
「(そして何も考えず今日も委員会に参加してたし……)」
「あはは、榎木くん捨てられた子犬みたいだね」
「ちょっと、相川くん?」
「なんですか先輩」
「週7にしたいところを週5にしたってことは削ろうと思えば削れるってことよね」
「一週間を削れるんですか、犯罪臭いですね」
「そっちじゃなくて美化委員の活動のこと! 普通は週1回なのよ」
「ふ、風紀委員だって、よく活動して……」
「風紀員はあなた方と違って早朝の身だしなみチェック、持ち物検査、校内の見回り、そしてそれらを逐一先生方へ報告する義務があるのよ――特にあなたのような問題児とかのために」
木村は眼鏡越しに石田を睨む。
石田はきらりと主張する眼鏡の奥の瞳からの熱い視線に心底嫌そうな顔をする。
「ああ、あの舐めるような目で私の身体を見たり、目を光らせながら私物を漁ったり、うろうろと幽霊の如く校内を徘徊していたのは風紀委員だったんだ」
「それはあなたの髪の色のせいと折り畳みの武器とか入れてそうだからよ! っというより校内を歩いてるのを見たってことはあなた放課後も校内に残ってたの?! 校則違反よ!」
「髪は親が染めたの、校長先生に許可ももらってるよ。それにーあたしはー高校入ってから大人しいしー」
「(嘘だ。俺の部屋のドア壊したくせに)」
「(アイスのように腕ぽっきり事件は?)」
「(『まだ』大人しいな)」
中学時代の石田を知っている相川は石田の発言に重く頷いていた。
「じゃあ放課後に残っていたのは? 用事がないならば速やかに帰らなければならないのが規則よ」
「それってこの学校の七不思議のひとつでしょ?」
「あ、私も知ってる。校内を徘徊する人影だよね」
「自殺した生徒が犯人を探して夜な夜な徘徊しているというやつか、くだらないな」
「……あ、ああ、アレな(やべえ知らねー、上野はともかく相川と石田まで知ってんのかよ)」
「それは風紀委員の仕事なの! アンタ達と違って朝早くから学校に来て夜遅くまで残ってるの!!」
「お疲れ様です。忙しいのなら仕事に戻られては?」
「お帰りはあちらですよ」
上野が出入り口の戸をすっと示した。