風紀委員、来襲(上)
「それではこれより第6回美化委員会を始める」
相川が室内を見ると委員全員そろっている。
「今日の議題は」
「失礼!」
いきなり戸が開けられ、眼鏡をかけた女性を筆頭に眼鏡集団がぞろぞろと室内に入って来た。
「なんだ? 今から委員会を始めるんだが」
「だから失礼といったはずよ」
「つかあんたら誰だよ」
「私は風紀委員長の3年木村正美」
「副委員長2年、倉間博士」
「書記2年、桁野慧」
「1年の小塚優子です」
全員の自己紹介が終わり、決まったとでも言うように皆それぞれ眼鏡をくいっとあげる。
「……なるほどな」
「相川くんも?」
「え、上野も気付いた? あたしも」
「俺も俺も、名前聞いて一発で分かった」
風紀委員はやっと気付いたかというように微笑む。
ここに来た理由、それは普通の神経をしている者ならばすぐに気付く。
「博士はあだ名ハカセだろ」
「だよね、眼鏡もかけてるし」
「図鑑とか辞典とか、ぜってー読んでそう」
「頭よさそうなあだ名でいいなー」
美化委員から一斉攻撃された倉間は予想外の出来事に思わず一歩退く。
「そっちじゃないでしょ!」
思わず大きな声を発すると、美化委員の視線が木村に向く。
「あだ名自慢しに来たんじゃないの? キムマサ先輩」
「違う! 変なあだ名つけないでちょうだい!」
「マサチューセッツ先輩なんてどうですか?」
「言われたことないわよ」
「じゃ、ジャスティスビューティーせんぱ」
「黙りなさい」
「……(な、なんで俺だけ)」
「それで、あだ名意外に何か私達風紀委員に言いたいことは?」
気を取り直して木村は美化委員に言う。
「じゃあ質問してもいいですか?」
「あなたは……上野さんね、いいわよ(礼儀正しそうだけどマサチューセッツは忘れないわ)」
「校庭の花壇にたまに来る黄色い蝶はなんて言うんですか? ハカセ先輩」
上野は木村の横の倉谷微笑みかけながら尋ねた。
木村は思いがけない問いに言葉を失う。
「え……たぶん、モンキチョウですよ」
木村をちらちらと確認しながらも律義に答える。
「モンキチョウ? へーそんな名前だったんだ」
「なるほど、モンシロチョウのシロを黄色のキにしたのか」
「ぉ、おおー(無駄知識が増えて頭良くなった気がする)」
「わあ、やっぱりハカセ先輩は物知りですね。ずっと気になってたんです。教えてくれてありがとうございました」
「え、いえ、そんな……」
深々と頭を下げてお礼をする上野にどうしていいか分からず倉田も頭を下げる。
「じゃあさじゃあさ、家の庭にミミズみたいな」
「あだ名と! 倉田への質問以外で! 風紀委員に! 言いたいことは?!」
「なんでキレ気味なの?」
「石田さん、聞いちゃダメだよ。きっと本人も気にしてると思うから……」
「あっ……若い人でもなるって言われる」
「うん、だから木村さんのストレスをぶつけられても、私達が我慢して受けとめなきゃ」
「分かった」
「上野は良いやつだな」
「(言葉には出してないがつまり更年期障害って言いたいんだろ……あれは天然か? 故意に言ってるようにも聞こえるが上野は美化委員で唯一良心的な奴だし……)」
風紀委員の人たちが宥めているが木村は俯いて握りこぶしに力を込めている。
そこへすっと相川が手をあげる。
一応1年生なので謙虚な体制を取っている。
「……何かしら」
「委員会の邪魔なんですが、遊びなら後でしてくれませんか」
「あなたたちが最初に言ってきたのでしょう?!」