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臨時で行くよ(下)


「よう、根暗不登校児」







その者学校の衣を纏いて榎木の地に降り立つべし。


……般若のような顔をして。

その時榎木は思考回路の渦に飲み込まれた。


小さい頃にオネショをしたこと。


小学校で好きな子をいじめて返り討ちにされたこと。


そのことで人間不信になって友達が作れなくなったこと。


そしてついには家族以外にはまともに話せなくなってしまったこと。


そのせいで中学でいじめられていたこと。


高校ではそんなことは起こらないようにと、なるべく中学の頃の自分を知らない、遠い学校を選んで気合を入れて出かけた入学式のこと。


クラスで仲良くなれそうな奴らとつるんで、噛んでばかりだが楽しく会話できたこと。笑ったこと。




――そして、入学式の後、ありえないピンク髪に変な名前をした女子から体育館裏で今までに体験したことのない地獄を見せられたこと。




そして名前を教えてくれた奴らが手のひらを返したように――にやにやと不気味に笑いながらこれからの学校生活が楽しみだというような目で見てくること。これが一番耐えられなかった。


その元凶であるピンク髪をした鬼がまた目の前にいるということ……


「べ、弁償だからな!」


「後でホムセンからベニヤ板買ってくるよ。次はもっと壊しやすくなるなー」


「ややっぱいいですホントおおお手数掛けさせまして」


「遠慮しないで」


語尾にハートが付きそうなほどにこやかに笑う。

物語のヒロイン並みに可愛いがその笑みはとても破壊力を持っていた。物理的に。


「ひっおおおお前ら! お前らは何しに来たんだよ! この化け物止めろ!!」


「俺は美化委員長としてきただけだ。気にするな」


「じゃあ私は美化委員書記として来ただけだから」


「意味分かんねー」





「榎木は美化委員だろ」





「「はぁ?」」


突然の発言に石田と榎木はそろって相川を見る。


「息ぴったりだね」


「さすがは同じクラスだな」


「全く関係ないよね」


「お、俺が美化委員?」


「なんだ、知らなかったのか?」


「あーそういえば、入学式の次の日から来なくなっちゃったから大塚先生が適当にどっか入れてたっけ」


「は、はあ? つかなんでよりによってコイツのいるとこなんだよ……ああ、ただのボッチか(誰もこんな鬼と一緒に居たくねーよな)」


「あ?」


「ひっ!」


「まあ待て石田」


相川がやっと石田を止めるために手で制した。


「(か、神だ……)」


「なんで止めんの」


「お前が榎木をいたぶったらこいつはもう学校に来なくなるだろ」


「それでいいじゃん。完膚なきまでにやっちゃえば」


「それはつまり美化委員が減るってことだ。ただでさえ少ない上に先輩がいない、これからも3人だけで活動をするには(哲学を論じるのに)限界がある」


「確かに。花壇の水やりって朝早く来てやるものだしね」


「それがどうしたの?」


「石田、取引だ。もしこいつを学校に連れていくことができたらお前が花壇の水やり当番をしなくていい」


「ああ、あたしのかわりにそいつがやってくれるってことね。でもこいつどうせ学校来ないでしょ」


「大丈夫だ、こいつは石田を相当恐れている」


「そっか、石田さんが脅せば来てくれるよね。相川くん頭いい」


「なるほど」


「(や、疫病神だ……つかそれならさっきの時点で止めろよ)」


「それに榎木、お前にも悪い話じゃない」


「な、なんだよ(誰が騙されるか)」


「高校は中学と違って出席日数が危ないと退学もあり得る」


「いいい言わせてもらうけどな! お、俺はこんな(鬼のような)ヤツと同じ教室なんてぜってー行かねーからな!」


「教室に来たくないのなら保健室に行けばいい。俺の役目は榎木を学校に連れていくことだからな」


「…………(そっか、保健室行っとけば母ちゃんに怒られることなくなるな)」


「これなら教室で石田にも会わない、出席日数にも響かない、どうだ?」


「た、確かに……(コイツ頭良いな、)」


「なんか脅す必要もなさそうだけど」


「良いことじゃない」


そうして榎木は明日から保健室に行くと言う旨を一筆書き、月曜日に石田が大塚に出すということを決めて3人は帰った。

嵐が去り、これからのことが決まり、良かったような悪かったような後味の悪さを覚えつつ榎木は深いため息をついた。


「…………なんか大変そうだな」


「兄貴…………ってテメー今日ずっと家にいたよな! なんで弟のピンチに助けにこねーんだよ!」


「いやいや、無理だろ。蹴られたら死ぬだろ、アレ」


「俺マジで死ぬかと思った……」


「あー、うん。ドアの修理代半分持ってやるから」


「兄貴…………が出てきてくれてたらここまでひでーことにはならなかった」


「しょうがないな、出世払いだぞ」


「(結局俺も払うのかよ……)」


その後買い物から母親が帰ってきて惨状を見られてしまい、こっぴどく叱られた。

続いて仕事から帰ってきた父親に説教をされ、晩飯を抜かされた。

去ったと思ったらただの台風の目にいただけだった。


それらのことも合わせ、疲労困憊した榎木は相川達の会話で騙されていたとは露ほども気付けなかった……


高校の保健室登校って出席日数に入るのかよく分かりません。

まあ、そういう設定と言うことで。

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