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序章
ずっと昔から見続けている夢がある。
もう何年も変わらずに、それは眠りの中で繰り返される。
風に吹かれ、膝丈より高い草が歌うように波打つ夏の大地。
深い森には彩り鮮やかな花々が咲き誇り、知るものとは明らかに異なる生物が草葉の向こうに見え隠れしていた。
空は青く、高く。
陽は穏やかに。
不思議な色をした河川、湖に、絶えず広がる波紋は小さな鈴の音を伴った。
その響きは春の日差しのように温かで、優しく。
湖の畔に佇むたった一人の女性を包み込むようだった。
自分が生まれ育った世界とは絶対的に異なるその光景を、“彼”はずっと夢に見て来た。
その地で泣き続ける女性の姿を、ただ見続けることしか出来なかった―――。
かなりの長編になる予定で、構想は完了しているのですが全何話になるかは判りません。
新連載「祈求の故郷」。
根気強くお付き合い頂ければ幸いです。
よろしくお願い致します。