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時空吸引のりこさん 2  作者: 青薔薇の精霊


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1/1

のりこさん vs 黒い侵略者

主婦の朝は、いつだって真剣勝負です。

特に、お天道様がゴキゲンな火曜日の朝。

のりこさんは燃えていました。


「さあーて、今日もいいお天気! 洗濯日和だわ〜」


フリル付きのエプロンを揺らしながら、ルンルンの軽やかさでベランダへ。

カゴの中には、真っ白な洗濯物たちが誇らしげに出番を待っています。


「ひろしさんのバスタオルも、これでお日様の匂いね。うふふ、あはは!」


ところが。

その平和を切り裂く、不穏な影がひとつ。


「カァ。」


電線の上に、一羽のカラスがどっしりと腰を下ろしていました。

そいつはのりこさんと目が合うと、ニヤリと不敵に口角を上げた(ように見えました)。


「あら、カラスさん。こんにちは。でも、そこでおトイレはしちゃダメよ?」


のりこさんが優しく諭した、その瞬間。

カラスは尾羽をピッと跳ね上げ、狙い澄ましたかのように「それ」を放出したのです。


ピチャッ!


「あ、あら……? あららららら!?」


なんと、先週買ったばかりの真っ白なシャツの襟元に、見事な直撃。


「まあ! なんてことするのかしら! このシャツ、先週買ったばかりなのよ!」


のりこさんは般若のような笑顔(※目は笑っていない)で、足元のホースを掴みました。

蛇口を全開! ノズルを「ストレート」に固定!


「それっ! 飛んでけーっ!」


シュワー! と大きな音を立てて水しぶきを発射


家庭用とは思えない水圧を食らい、カラスは「ギャッ!?」と情けない悲鳴を上げて逃げ去りました。


「ふん、正義は勝つのよ。わたしは負けないわ!」



それから十分後のことです。

のりこさんが鼻歌混じりに、汚れたシャツを洗い直そうとした時。

急に空の一部が暗くなり、不穏な風が吹き荒れました。


「あら? 雨かしら?」


見上げた先。

そこには雲ではなく、漆黒の翼の編隊が空を埋め尽くしていました。


先ほどのカラスを筆頭に、二十羽は下らない仲間たち。

しかも驚いたことに、彼らは全員、どこからか盗んできたであろう「真っ黒なサングラス」を装着していたのです。


リーダー格のカラスは、翼の先っちょを器用に使って、ずり落ちたサングラスのフレームを「クイッ」と押し上げました。


「カカカカッ!(野郎ども、あのエプロン女に地獄を見せてやれ!)」


リーダーの号令とともに、グラサン軍団が急降下!


「ちょっと! やめてちょうだい! 洗濯機2回も回したのに台無しよ!」


のりこさんの周囲をマッハで旋回し、わざとらしく羽毛を撒き散らすカラスたち。


「困ったわ……このままじゃ、せっかくの洗濯物が全滅しちゃう!」


のりこさんはベランダの隅で頭を抱えました。

ホウキじゃ届かない。ホースの水じゃ数が多すぎる。

何か、何か一気にやっつける方法はないかしら……。


「うーん、うーん……」


眉間にシワを寄せ、うなり続けるのりこさん。

その時です。

彼女の頭の上で、ポーン! と電球が灯りました。


「……そうだわ! あの『とんでもない代物』があったじゃないの!」


のりこさんはリビングへ駆け込みました。

テレビの「間違い探し」に夢中になっている夫・ひろしさんに詰め寄ります。


「ねえ、ひろしさん! 私が先月、うっかりタイムスリップしちゃった、あの掃除機どうしたの!?」


ひろしさんは、ポテトチップスをボリボリ食べながら答えました。

「ああ、あの欠陥品だろ? 買い換えたから、押し入れに入れたよ」


「押し入れね! ありがとう!」


のりこさんは押し入れの奥底から、禍々しいオーラを放つ掃除機を引きずり出しました。

本体には、赤マジックで大きくこう書かれています。


『危険 さわるな』


「いいわ、カラス軍団、待ってなさい! この掃除機の吸引力を思い知らせてあげるんだから!」


のりこさんは掃除機を抱え、再びベランダへ。

外では、カラスたちがのりこさんの靴下を振り回して、勝利のダンスを踊っていました。


「……後悔しても遅いわよ。いくわよ、ハイパー・バキューム・スタート!」


電源を入れた瞬間。

鋭い閃光と「ドゴォォォ!」という轟音が響き渡りました!


「吸い込めえええええええ!」


シュゴオオオオオオオオオオオ!!


「カッ!? カガガガッ!?」


ベランダ全体の空気が、凄まじい勢いで掃除機に吸い込まれていきます。

逃げ惑うグラサンカラスたちは、吸い込み口から放たれる時空の歪みに抗えず、次々とその奥底へ消えていきました。


シュン……。

掃除機が止まると、そこには元の静かなベランダが。


「ふう、お騒がせなカラスたちね。さあ、お洗濯の続きをしなくっちゃ。ルンルンルン♪」


のりこさんは何事もなかったかのように、鼻歌を歌いながら干し始めました。



一方、時空の彼方へ放り出されたカラス軍団。


そこは、酸素濃度が異常に高く、呼吸をするだけで胸が苦しくなるような熱帯の密林でした。

ビルかと思うほど巨大なシダ植物。

真っ赤な溶岩を吐き出す火山。白亜紀に迷い込んだようです。


「カッ、カカ……?(……ここは、どこだ?)」


足元の地面を、軽自動車ほどもある巨大なサソリが横切ります。

そして。

「ズシン……ズシン……」

地響きとともに、森の奥から家よりもデカい牙を持った恐竜が現れました。


「カカッ!(なんだ、ここは地獄か!?)」


カラスたちがパニックに陥ったその時。


「ギョエエエエエエエエエエエエ!!」


空を裂く叫びとともに、翼を広げれば十メートルはあろうかという翼竜、プテラノドンが襲来!


その鋭いクチバシにとって、カラスたちは「ちょうど一口サイズのデザート」でした。


「カ、カァ……(……あ、これ、終わったわ)」


カラスたちは泣きながら、必死に羽を動かして逃げ始めました。

その後ろを、プテラノドンが「待て待て〜」と楽しそうに追いかけていきます。


結末

「ねえ、のりこさん。あの掃除機、どうしたの?」


ひろしさんの問いかけに、のりこさんはきれいに乾き始めた洗濯物を眺めながら、満足そうに答えました。


「ああ、あれならまた『危険 さわるな』って貼って、押し入れの奥にしまっておいたわよ。もう必要ないものね」


「そうか。……ところで、掃除機のダストカップの中、空っぽだったか?」


「ええ、吸い込まれた瞬間、どこかへ飛んでいっちゃったみたい。空っぽよ。うふふ!」


のりこさんは、ふと考えました。

もし、またベランダを汚す不届き者が現れたら。

次はどこへ吸い込ませてあげようかしら……。


「うふふ、あはは!」


のりこさんの平和で恐ろしい高笑いが、今日も青空に響き渡るのでした。


(おわり)

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