そのショートカット、運営は想定してません!!!
「はい、というわけで本日の配信はこちら!」
俺は流華。
VWITCHでゲーム配信を行う配信者だ。
俺視界の右端に浮かぶコメント欄を見ながら手を振った。
配信タイトルは【世界最難関VRMMOを三時間でクリアするRTA】。
当然、コメント欄は荒れている。
まぁ、荒れない訳がないか。
『無理に決まってて草』
『まだ正式サービス三日目だぞ』
『ラスボス到達者すらいねぇ!』
『いつものホラ配信か?』
失礼な。俺は嘘だけはつかない。……多分だが。
「それじゃ、タイマースタート」
視界中央にカウントが表示される。
《00:00:00》
俺は初期スポーン地点から駆け出した。
東の塔を目印に、方角を確認する。
普通のプレイヤーなら町で装備を整え、チュートリアルクエストを受け、レベル上げを始める。
だが、RTA走者にそんなものは不要。
最初に向かうのは北西の崖。
そして、そのまま飛び降りる。
『?????』
『自殺RTA始まった?』
『終わったな』
地面に叩きつけられる直前、俺はインベントリから初期アイテム《硬パン》を使用した。
本来は空腹回復用のゴミアイテム。だが、このゲームには妙な仕様がある。
“食事モーション中は落下判定が一瞬だけ消える”。
つまり。
ドゴォッ!!
俺は凄まじい勢いで地面へ激突。
しかし、ノーダメージで着地した。
コメント欄が止まる。
「はい、崖ショートカット成功」
『なんで知ってんだよ』
『バグ発見者お前かーーー!!』
『修正されるぞwww』
「界隈ではryuka jumpって言われてますね」
『どの界隈だよーーー!』
『かっけぇかよ』
俺は笑いながら森を駆け抜ける。
VRMMO。
攻略組ですら未知のエリアだらけの超大型ゲーム。
だがRTA走者にとって重要なのは、“想定された攻略”ではない。
“最短で終わる方法”だ。
そして、開始から40分。
本来レベル50推奨のダンジョン《古竜墓地》。
数々の実況者が『死にゲー』として取り扱ってきた。
その所以は、触れただけで即死レベルの強敵だ。
クリアはほぼ不可能とされる。
普通なら。
「左壁走り六歩、ジャンプ、しゃがみ移動」
俺は迷いなく進む。
すると、徘徊していたドラゴン型モンスターがこちらに気づかないまま通り過ぎていく。
『なんで!?』
『敵AI壊れてる?』
「視線判定ですよ。このゲーム、モンスターの首の高さ座標に合わせて視界設定されてるんで、真下が見えてないんです」
『検証勢怖ぇよ』
そのまま俺は最奥へ到達する。
本来、複雑なギミックを解かなければ開かないはずの封印扉。
だが俺は壁に向かって走った。
「ここ、フレーム境界がズレてるんですよね」
障害物と壁の間で前後。
上手いことなったら…
こんなふうに壁抜け成功。
『はい?????』
『運営泣いてるぞ』
『BANされろwww』
残念ながら仕様だ。
公式が「不正ツール未使用なら問題なし」と明言している以上、これはテクニックである。
RTAとは、『開発との対話』なのだ。
やがて、開始から1時間23分が経過。
ついに俺はラスボス《黒皇ヴァルゼイド》の前へ到達していた。
世界初到達。
コメント欄の勢いは完全に壊れている。
『人類最前線で草』
『攻略組が泣いてる』
『こいつだけ別ゲーやってね?』
『待ってリスナーに運営チーム公式垢いるぞ』
だが、問題はここからだった。
ラスボス第二形態。
本来、多人数レイド前提の即死攻撃。
現時点での正規攻略は存在しない。
しかし。
「このゲームのボスAIって、“プレイヤーが避けられない攻撃”を撃つ瞬間だけ、一フレーム硬直するんですよ」
俺は剣を構える。
「つまり――そこが隙」
ボスが咆哮する。
世界が赤く染まる。
即死攻撃発動。
誰も見たことのないエフェクトが周囲に広がる。
その瞬間。
俺はメニュー画面を開いて閉じた。
たったそれだけ。
だが次の瞬間、ラスボスが空中で停止した。
『!?!?!?!?』
『バグった!?』
『今何した!?』
『メモメモ(´ω`*)』
『公式にメモられてる!?』
「メニュー開閉で敵AIのターゲット更新がズレます。で、即死攻撃だけ内部処理優先度が高いから――」
俺は停止したボスへ剣を突き刺す。
「無防備になる」
HPバーが一気に吹き飛んだ。
そして。
《ラスボス《黒皇ヴァルゼイド》討伐》
《ワールドファースト達成》
《クリアタイム:02:31:47》
静寂。
数秒遅れて、コメント欄が爆発した。
『うおおおおおおおおお!!』
『頭おかしい!!!!』
『これもうバグ発見RTAだろ!!』
『さぁーっ(・∀・)』
『運営が青ざめてるぞwww』
俺は椅子にもたれ、息を吐く。
すると運営公式垢から通知が飛んできた。
《緊急メンテナンスのお知らせ》
配信が大爆笑に包まれる。
俺は苦笑した。
「……まあ、RTA走者にとって最大の敵って、いつの時代も修正だからな」




