#2-6 Heel
「今回の作戦は終了。各自後処理に入れ」
「「「「了解」」」」
張り詰めた空気から一気に気が抜ける司令室。龍斗さん達の回収も無事に終わって、2人とも今はメディカルケア。そのあとはデイリーメディカルチェック。優也君はもしかしたらケアだけで終わっちゃうかもしれないけど、柏木先生に診てもらってるなら大丈夫だろう。あの超がつくほどの天才医師ならば。
それにしても優也君の無茶には目を見張る。あの場で団地全体を焼こうなんて普通思わないでしょ。あの団地にいる蟻を、まだいたであろう未確認のを含め一気に焼き払うとすれば最良の一手だが、当然常識のストッパーがかかるはずなのに。それにあそこに住む人たちことだって気にしないタイプじゃないだろう。でもそういう咄嗟の発想力と決断力から彼はリーダーなんだろうな。
ぐっと背中を伸ばす。いやーよくやったわ今日も。って、あ。あれ忘れてた。めんどくさいけど報告は報告。提案もしないと。
「長官。よろしいですか」
「何だ」
「戦闘後近くで発見された男性ですが、岸谷実というジャーナリストだそうです。マイナーですが情報雑誌『truth』の執筆・出版を行っているようで、発見した警官によると写真などを撮っていたようですが、消させますか?」
「……写真か」
「ええ。それと、今後の報道方針について情報統制管理部からの連絡も来ています。今回の被害は深刻なので早急な対応を、とのことです。前回同様、優也君達の存在を隠すようこちらで内容を、」
「いや、待て」
ん?と見ていた画面から顔を上げる。
「報道に制限はかけない。ただし特異生物と特異生物が仲間割れしてるように報道しろ。派手に報道すれば危険度が知れ渡っていいだろう」
「え……と?」
「最近知性と特殊な力を持った特異生物が多く今後もおそらく過激な戦闘となる。その度虚偽報道をするとなると厳しいだろう。なら、事実を誇張し、少し加工して出せば良い。今回ならば、炎の特異生物が蟻の特異生物と交戦し、その後行方がわからないとでもしておけ。炎の特異生物が周囲を彷徨いているかもと思えば、避難命令にも従いやすい」
「承知しました」
なるほど。いい手だ。デスクに戻って早速報道内容案をつくる。あ、そうだ、これは狛華さんにも手伝ってもらおう。いい練習になるだろうし。
「狛華さん、ちょっと」
「話は聞きました。報道内容案ですね。15分ほどで下書きを出しますので確認していただけ ますか」
「……大丈夫。頼むよ」
仕事が速い。もはや怖い。
その間に特殊戦闘部隊オペレーターの報告書と作戦概要とその実際についてまとめたもの作って、被害状況のまとめが上がってくるだろうからそれを処理して長官に確認してもらって、被害者救済案の精査もしないとな。さて、やるか。
10分と少したったころ。大体の仕事が終わってあとは長官の確認だけ。
「狛坂さん。今空いてますか?」
「うん、空いてる。ちょうどよかった」
「今さっき送りました。いかがですか?」
デスクを見ると新規一件の通知。いつの間に。
開くと中には情報管理統制部への報道内容が書かれている。うんうん。
「そうだね。概ねいいんだけど、この表現は良くないかも。もう少し特異生物の恐怖を気付かれずに煽るように──」
数分のディスカッションの後、報道内容が決定される。
「よし、これで送ろうか」
「ありがとうございます。……」
意味深な言い残しに納得いかなそうな顔。あれ?まだ何かあるのかな?
「もしかしてなんかまだある?気になるところ」
「いえそれは全く。でも……」
いつもの明るい表情じゃなく少し暗い表情どうしたんだろう。...…あー、もしかして
「彼らはヒーロー側じゃないですか。人類の味方だって知ってもらえたら、きっと「応援してくれるんじゃないかって?」!」
言葉の先を奪うと驚いた顔。やっぱりみんなそうなるよね。俺もそうだったし。
背もたれにしっかりと寄りかかり体重をかけてふーっと一気に息を吐き出す。狛華さんもこの時期が来たかぁ。コンビとして数週間やってた中だけでもわかるくらい超優秀だけれど、まだ人間の心があるというかなんというか。初々しいな。
そんな俺の胸中を知ってか知らずか、狛華さんは不思議そうな顔をしている。そりゃ、真実全部話せば楽なんだけど、
「真実をありのまま話しても誰も応援なんかしてくれないんだ。だって国が特異生物を使って特異生物を制圧するってこと自体が結構タブーだから。過去のあの事件の時、特異生物にたくさんの人が殺されただろ?それなのに特異生物をうまく使ってますなんて言っても、危ない!って誰も聞く耳を持っちゃくれない」
「確かに。大事故を起こした工場だけど1番使えるからもう一度使います!なんて言っても大反対ですよね。でも、真実を正確に、しっかりと話して伝えれば……」
すると話を聞いていたのか長官が話し始める。
「真実など毛ほどの役にも立たない。世間は正義を褒め称えるよりも不正義を叩く方が気持ちがいいからな。特異生物の制圧に特異生物を使っていることがバレれば私たちは世論の叩きの格好の的となり戦うどころの話ではなくなる。そうなればこの世界は、終わる」
「……確かに」
「奴らを英雄扱いするな。普段人間の姿をし人間のように振る舞っているが、間違いなく特異生物だ。私達は奴らを『運良く言うことを聞く特異生物』とみなして利用しているだけということを忘れるな」
その声は司令部全体に響く。司令部には優也くんはともかく龍斗さんと仲が良い人が多いから、戒めも兼ねてだろうな。何となくだけど弛んでいた空気がすこし張ったような感じがする。
「承知しました。お時間をとらせて申し訳ありません」
「いい。下がれ」
珍しくしょげている狛華さんにあわててフォローを入れる。
「いいのいいの。みんな通る道だからね」
「そうでしたか」
そう。誰もが最初は通る道。自分がなす正義を声に出して周りに知ってもらいたい。正真正銘命をかけて戦う2人が賞賛されてほしい。だけど社会がそれを拒むなら、俺たちはそれ以上に何もできない。自分にも、2人にも申し訳なくなってくる。
でもさ
「まぁ俺たちがいなかったらさ、優也君達のサポートもできないし、情報を管理しなかったら世界は大混乱なわけだし、仕事には胸張っていこ」
「はい。これからもがんばります!」
では失礼します。と後にする少し表情の明るくなった狛華さん。少しくらいは先輩ヅラできたかな?いつの間にか力の入っていた肩がおりまたふぅーと一息ついて、また作業へと戻る。
ヒーローじゃない。
だけどそんな僕らだけに、できることがある。




