#8-14 嵐の中で
「何が!?何で植物がうごいて!?」
偶然出会った少年の手を引いて、いきなり発生した植物の特異生物に見つからないよう隠れながら出口を目指す。話を聞くと、何でも避難の最中に母と逸れてしまって、怖くなってしまって動くに動けなくなってしまったらしい。僕が何とか逃がしてあげないと。
ここはウエスタンエリア。出口に向かうには一度海の方に出て、中央の広場の先のショッピングエリアを抜ければ出口だったはずだ。そんなに遠くはない。
だけど、植物の特異生物に見つからないようにってのがしんどい!あいつら人間を探してるのか?頭を振って探してるみたいだ。
「お母さん……」
不安なのか少年は泣きそうだ。見た感じ6,7歳だろう。まだ小さいのにこんなのに巻き込まれたら一生のトラウマものだ。さっきまで夢のような国だったのを考えると尚更。
「大丈夫。僕が最後まで守るよ」
「……うん」
「名前聞いてもいいかな」
「ゆうと。悠久の悠に人で悠人……ってお母さんに言われた」
「悠人くんか。僕は岸谷実。フリーで記者やっててね。記者のキシヤで覚えてね!」
定番ギャグで決めるとふふっと笑って緊張がほぐれたみたいだ。ぎゅっと手を握り、周りを見渡してささっと動く。見られてないしきづかれてもない。
調子よく海の方まで出て、広場が見えてくる。…広場、なんかめちゃくちゃ植物の特異生物いないか!?まじか、あれを隠れてやり過ごさないと……何とかなるのか?あれ。
とりあえずこのあたりで隠れて、タイミングを見て行こう。
キョロキョロと周りを確認……って
「あれ……!?」
広場の上空に、大きな翼の生えたドラゴンがいる!?な、何だあれ!?え、え、ど、ドラゴンだ!?
いや待て、あのドラゴンはそうだ。あの時の、橘さんから教えてもらったあの3体のうちの1体じゃないか!!それこそさっきまで目の前で戦ってた男性が変身やつ!何であんなところに……!?
悠人くんを物陰に押し込み何をしているのか気になって観察する。どうせ植物の特異生物が邪魔で逃げられないんだし、少しぐらい見ても大丈夫だろう。
するといきなりたくさん息を吸い始めた。何だ?
「───ファイナルドラゴンブレス!」
え
その瞬間、全てが吹き飛ばされ、風は意思を持ったドラゴンのように戸愚呂を巻いて大きな竜巻が発生する。急いで近くの建物に避難するが、その建物ごと地面から引き剥がされ、竜巻の中に巻き込まれた。
息ができない、苦しい、目がぐるぐると回って瓦礫が体中に当たる。痛い、痛い、痛い…!!
数十秒経つと竜巻は収束し、周りからずっと聞こえていた植物の特異生物の鳴き声のようなものは全く聞こえなくなった。僕の鼓膜がやられていなければ、の話だけど。
どこかわからない地面に放り出された僕は何度もゲホゲホゲホッと咳をする。僕、生きてる……!?
「…あ……」
掠れ掠れだが声も出る。視界が少しずつ暗闇に光が差し込む。まだ、生きてるのか。死んだかと思った。
ゆっくりと体を起こそうとすると、自分の体の上に瓦礫が乗っていて身動きが取れない。トタン屋根?の一つが体の上に乗っかっているみたいだな。持ち上げようにも、体勢が悪くうまく力が入らない。あれ、待て、そういえば少年は?
「よっと……へーき?」
「……あ、ありが……!?」
な、な、な!?ドラゴン!?
急に体にかかっていた力が無くなる。誰かが助けてくれたと思ったら、あのドラゴンがトタン屋根を簡単に持ち上げていた。何で、あ、どら、ドラゴンだ!?
「ひっひっひぇぇえやああああ!?食べないでっ!?助けて!!!殺さないでくれえぇぇええ!!」
「食べない食べない。ほら、早く出口に行った行った。この辺のオルガーはもう全部死んだから」
「ひ、」
慌てて瓦礫の中から抜け出し、全力で出口の方へと走り出す。周りはあの渦を巻いたドラゴンのような竜巻でめちゃくちゃの地獄絵図だ。
……あれ?悠人くんは?
出口に向かってがむしゃらに走る足に急ブレーキがかかる。そうだ、悠人くんは?嵐の前までは一緒にいたんだ。近くにいるかもしれない。
周りを探し始める。どこ、どこだ、どこにいるんだ。いや、僕と一緒にいたんだ。僕の近くに、まだ瓦礫で起き上がれていないのかも。
「ん?え!?何してんだよ、早く逃げろって!」
「ひ、ひ、人探しです!」
自分のいた場所に戻り、中を覗きこんだ。
覗き込んでしまった。
「あ……………」
視線の先の瓦礫が幾重にも積み重なったそこには、大きな血痕。
この近くに僕と悠人くん以外人はいなかった。僕は怪我をほとんどしていない。つまり、この血は、この血の持ち主は。
「あ……あぁ……!」
急速に何かを理解していく。やめろ、やめてくれよ。
巻き戻せないのか?テープみたいに、クルっと回して時間を戻せないのか?どうして、何で?
「どうして」
時間は戻らない。
どうして、時間は戻らないんだ。
その場にしゃがみ込む。僕は立ち上がれない。絶望に膝を折られて立ち上がれないんだ、きっと。
「大丈夫かアンタ。後頭部から結構血が……」
後ろから声がかかる。ドラゴンだ。
逃げようとするが恐怖に背を押され、地面で泳ぐように無様な格好となってしまった。
コイツ、コイツが殺した。
あの竜巻で悠人くんを殺したんだ。
「あっ、お前たしか」
「ひっ……」
「思い出した!アンタ岸谷 真だろ。あーもーこんな時まで!取材は後でにしてもらって、今は早く逃げろ」
は?
「………何で」
「え?」
「何で、兄さんの名前を知ってる」
コイツ
コイツ、コイツコイツコイツ
まさか、まさか、僕の兄さんは
「兄さん?」
コイツに殺されたんじゃ無いか?
兄さんの死因は特異生物に襲われたような、大きな切り傷による失血死だった。ちょうどコイツの鋭い鉤爪なら、その傷を作れるだろう。
それに、コイツが兄さんの名前を知ってるのも合点がいく。兄さんが追っていた炎の特異生物だ。コイツは炎の特異生物のそばにいたじゃないか。兄さんは炎の特異生物を追っている最中に、このドラゴンに殺されたんじゃないか?
点と点を無理やり繋げていく。そうだ。今みたいに、悠人くんを殺したみたいに、きっと兄さんも殺されたんだ。
「いや、アンタの兄さんは知らないけど、さっき助けた子供が──」
「っ!!」
「あっ!ちょ!?……行っちゃったよ」
何かを言っていたがグルグル回る頭には届かない。いや、届く必要もない。何を僕は迷っていたんだ。何を血迷っていたんだ僕は!!橘さんの言うとおりじゃないか!!
ヒーローなんてとんでもない。
全ての特異生物は、人類の敵だ。




