#8-13 残酷な真実の中で
ザセルとストームは睨み合う。それを気にせず、ネピアはザセルの隣で一歩前に立ち、優しく穏やかな表情で海美に語りかけた。
「海美、そんな酷い怪我して辛いよね。お姉ちゃんと一緒にいよう?お姉ちゃんが守ってあげる」
「本当にお姉ちゃん、なの……?」
「うんそうそう。怖くないよ。だから」
穏やかな表情から一転し、ニヤッと意地悪くネピアは笑う
「海美のこと殺そうとしたことも、ぜーんぶ水に流して忘れて、仲良くしよ?」
「……殺そうと……?」
声が震えている。
「うん。10年前はごめんね?いやアンタを囮にしないと私がやられちゃうからさ!アンタをプールに落として動けないようにして囮にしたのよ」
「うそだよね?」
「嘘じゃないよ!ごめんごめーん許して?ただ追っ手の気を引いて欲しくてさぁ。だってアンタあの頃まだ小さくてさ、ピーピー泣いてうるさいし、嫌いだったから!ちょうど良いかなって!」
「そんな、嘘だ」
「父親はいつもアンタばっかり良くして、昔からずっ〜〜っと劣等感抱えて生きてきてんのよこっちは。アンタのこと好きなわけないじゃん!死んで欲しかったに決まってるでしょ!?」
「サメジマの血?なにそれ、そんなの知らない!」
「……知らずに自分だけ、なんて恨みたくもなるわね。あーあ、愛海ってばかわいそう。こんな妹、生まれてこなければ良かったのに」
「うそだ、嘘だ!全部嘘だそんなの!」
海美がふらつきながらもネピアに向かって走り拳を振るう。だけど簡単にネピアに受け止められた。
「嘘じゃない嘘じゃな〜い!!お姉ちゃんの言うこと、信じられないの?」
突き飛ばされた海美は尻もちをついてそのまま立ち上がることができず震えている。俺の体は時が止まったように動かなくて、ストームが代わりにしゃがんで背中を摩る。
「真相が知れてよかったね。もうこれで思い残しはないよね!」
「うう、ううぅううう……っ!!」
「お前!」
「ハァ〜!?姉妹のやりとりに口出さないでもらっても良いですかぁ!?」
ケラケラと笑うネピア。本当なら俺もストームみたいに怒っていただろう。
でも海美には悪いが怒りなんて沸かなかった。俺の意識はずっとずっと、ただ1人に向いている。
「優也」
優しい声。大好きな声。
「フレイム、ダメだ耳を貸すな!」
「優也」
「……父さん」
フッと微笑む父さん。その笑顔が大好きだ。
足が無意識に動いて一歩、また一歩、ゆっくりと父さんに近づく。夢のような気分だった。このまま、このまま夢を見てもいいんじゃないか?
覚束ないけれど、歩みは進み続ける。
「頑張ったね、よくここまで」
「…………」
「さぁ一緒に行こう。父さんと一緒に楽しく過ごそう。こんな辛い戦いなんて頑張らなくていい。もういいよ」
足が止まった。
……そうだ。全部投げ出して楽に、昔のように何も考えずただ笑えていたはずの日々に戻れば楽になれる。
囁かれる言葉はどれもどこまでも心地いい。もういいやと全部投げ出してしまえばどれだけ楽になれるのだろう。
「フレイム!!ダメだ!!」
「優也くん。人間はもう貴方を人間扱いしない。きっと扱いも酷いことでしょう。なら、私たちと生きませんか」
「優也」
父さんが腕を広げる。昔のように。
父さんのハグが大好きだ。ちょっと強いけどあったかくて。いつも研究ばかりしている父さんを俺だけが独占できる短いけど大切な時間。大きく少しガサついた手で俺の頭をいっぱい撫でてくれるのが、
本当に大好きだった。
「俺は」
「はい?」
だけど、もう────!
「───俺は戻らない!!!」
Burn up the mutation!
「なっ!?」
狼狽えるザセルの髪を鷲掴みにし、父さんの方へ投げて自分も突っ込んで拳を放つ。
「ファイナルフレイムアタック!!」
瞬間、体の炎が爆ぜる。
「ッグウウゥウウウウ!?」
俺の拳は何層にも重ねられた植物のガードを燃やし、父さんの腹に穴を開け、ザセルの腕を完全に焼き尽くした。
回復なんてさせない
立ちはだかる父さんの体を横へ蹴り飛ばし、ザセルの体に拳を放つ。腕がなく庇えないまま吹っ飛ぶザセルの後ろに猛スピードで回り込み、頭を地面に踏みつける。顎を強く蹴ると顔ごと血の代わりの謎の透明な液体と共にあたりにビチャっと散った。右足の付け根を踏みちぎり逃げられないようにする。
もう一度。もう一度だ。
もう一本のburn up シリンジを取り出す、が、近くの地面から生えた蔦に腕を絡め取られる。
「やっ……てくれますね……!」
「ザセル様!!」
「お前の相手は俺だ!!」
こちらに向かってくるネピアをストームが足止めする。
力任せに蔦を引きちぎる間にザセルは俺から距離を取る。そばには父さん、いや、ネイチがボロボロだが左腕右足を失ったザセルを支えている。仕留め損なったか。Burn upのシリンジは一度使うと自分の細胞ごと燃やしつくす炎と爆発を起こせるが、いかんせん体への負担が大きい。打った後は戦いたくないんだがな
「ふふっ、ふふふ……まさか実の父親でも容赦なく手にかけるとは」
「それは俺の父親じゃない。父親の姿をした何かだ」
「あらあら、そこまでお見通しとは、さすがですね。ですが躊躇いもしないとは」
「父親が敵になっていることぐらい、俺が想定してなかったとでも?」
「でも優也くんの目的はお父様に会うことでしょう。こうなった今、戦う理由などないのでは?」
その体の大きな欠損など知らぬよう堂々とした態度でザセルは笑みを浮かべている。
「私が作ったネイチさんとネピアさんは元の人間を素体に別の動物の細胞を植え付けただけで、見た目や素ぶりに関しては本物と全く同じです。事実、優也くんの大好きなお父様の仕草そのままでしょう」
「だからなんだ。これ以上父さんの体を弄ぶようなら容赦しない。それだけだ!」
一気に2体に近づき絡んでくるザセルの蔦を焼き切って現れたザセルの正面に拳を突く。しかしギリギリ受け止められ拳に細かな植物の根のようなものが伝った。ぐっと引くが離れない。ザセルの顔が近づく。
「残念です。折角優也くん好みの甘い言葉を選んだつもりだったのですが気に入っていただけなかったようですね」
「当たり前だ。父さんは俺が頑張っていることを絶対に否定しない。『もういいよ』なんて絶対に言わない!!!」
「………っ、え…?」
海美がかすかに反応する。
「見た目を騙せたって心まで騙せると思うな!」
腕に熱をかけ茎を焼き千切ってザセルへと拳を伸ばすが父さん──ネイチの分厚い体に阻まれ一度距離をとる。いつの間に変身したのか、あの体の固さはburn upくらいでしか致命傷が与えられないだろう。その太い腕の後ろでザセルが体を再生させながら不気味に笑う。
「ふ、ふふふふ、ふふ。流石は優也くん。モルモットとしても一級品というわけですか」




