#8-12 混乱の中で
「ザセル様ああああああああ!!うえええええん助けてえええええ!!」
そう言って茂みから何かがザセルに飛びつこうとするが、ザセルに簡単に避けられてしまって地面と熱い抱擁をすることになった。何だあれ、シャチと熊のキメラか。報告にあったストームが対応してたやつだな。
「フレイム!」
「ストーム、大丈夫ですか」
「ノープロブレム!ちょうど焼いてもらおうと思ったけど、ザセルもセットか」
後ろから駆け寄って来る変身済みのストーム。ぱっとみた感じは無傷だ。よかった。
『フレイム、ストーム。スパークと連絡が途切れたままだ。何か見えたり聞こえたりしたらモールスで教えろ』
ストームと顔を合わせる。
(ー・ ーーー)
『そうか。では引き続きザセルおよび新特異生物の焼却に集中しろ。特にザセルからはできるだけ情報を抜き取れ』
「ネピアさん。どうされました?」
「あ、あの、あの龍みたいなトカゲ!てか鰐?鳥!?何でも良いけど、あいつが私のこといじめるの!!」
「えぇ〜誘われたからちょっと遊んであげたのに。不同意ってやつ?」
「なるほど。男の風上にも置けないやつですね。もとより優也くん以外はいりません。殺します」
ヒュウ、とストームが調子に乗った。やめろ。
「それにちょうどよかった。ネイチさんもこちらに」
するとどこから落ちてきたのか、上からドスンっと突然何かが落ちてくる。
牛に似た、波線のように曲がった角。2mはありそうな体躯は血のように赤黒く染まっており、ゴリラのように全身の筋肉が発達している。いるだけでものすごい存在感だ。
そして
「海美!!?」
その肩には俵のように担がれた海美。服はボロボロで、垣間見える赤黒い痣と至る所からの出血と顔の大きなアザがあまりに痛々しい。
当然現れたそれは海美をいとも簡単に俺たちの方へ投げ捨てる。
「海美!海美!!しっかりしろ!!」
「ゆ、うや、」
辛うじて意識はある。全身を何度も何度も殴られたようだ。腹も例外じゃ無いのか、口の周りには吐瀉物もついている。慌てて口を開かせ吐かせるが何も出て来ない。吐ききった後で詰まってはいないみたいだ。
そうだ。そのまま冷静な頭でいろ。血を上らせるな。怒りに身を任せるな。
「紹介します。こちらはネイチさん。水牛とゴリラのハーフです!力自慢なんですよ。そしてこちらがネピアさん。シャチとヒグマのハーフで、噛みついても引っ掻いてもすごいんです」
「アンタのお仲間ってわけだ」
「彼らはあくまで私の使徒ですよ。私の仲間は」
ザセルが手のひらを上に向けて俺を指す
「“ギフト”の貴方だけですよ、優也くん」
「はぁ?」
「仲良くしませんか、ね?」
ニコニコと機嫌よく笑っている。さっきからすっと何を言ってるんだ?コイツは。
ストームが苛立ったように吐き捨てる。
「フレイムがお前の?そんなわけないだろ」
「あぁそうそう、話の続きですよ優也くん。私、ちゃんと覚えていましたよ」
「覚えていた?」
「貴方の目的ですよ。貴方は研究所の人間であるお父様に会うこと、でしたね」
「……」
「あら、違いましたか?」
「何の話か分からないな。俺に父親はいない」
「あらあらあら、そんな悲しいこと言わないでください。せっかく友好の証に連れてきたんですから」
「……つれてきた?」
自然と呼吸が荒れる。心臓がうるさい。
どうしても拭いきれない嫌な感覚が頭を離れない。
《連れてきた》
連れてきた?連れてきてって、ここに?確かにさっき研究を手伝ってもらってるって、生きてるから?
父さんがここにいる?
動揺する俺に微笑むザセルの隣にネイチと呼ばれた水牛とゴリラのハーフが立つ。
「ネイチさん、姿を」
「な………まさか……!?」
ストームが絶句する。
ザセルの横で、ネイチがゆっくりとその姿を変える。
あぁ、やっぱり。嫌な予感は的中した。
「っ、あ...…」
そこにいるのは
そこで息をするのは
俺と良く似た髪の横ハネ、細く鋭い瞳に高めの身長。眉間に入った皺も、研究で少し荒れた手も。全部全部、全部知ってる。
何度も会いたいと焦がれていた
「父さん」
確かに、父さんはそこにいる。
「先ほどもお伝えしましたよね。研究を手伝ってもらっていると」
「研究者じゃなくて、被験者側……お前の研究の実験台にしたってことか……!」
「察しのいいトカゲで助かります。その通りですよ。あの日研究所にいた人間には私のモルもとになってもらいました。さてさて、まだプレゼントはありますよ?ネピアさん」
「はーい!」
ネピアはその姿を変える。20代後半ぐらいの女性の姿だ。オレンジ色の花柄のふわっとしたブラウスにジーパンを履いていて、その大きな瞳は海美によく似ている。
「海美〜!?大丈夫〜!?」
「お、おねぇちゃ……」
俺の腕の中で海美が目を見開く。ありえない。そう口は動いていた。龍斗さんは頭を抱える。
「あぁもう、最悪だ……!!」
「お二人の細胞と似た細胞と遺伝子を持った2人をちょうど持っていたので、試しに作ってみたんです。孤虎優也くんには父親である孤虎利人を。鮫島海美には姉である鮫島愛海を」
良かった良かった!そう笑うザセルにさらに海美の顔色が青くなっていく。
「どうですか?気に入っていただけました?これで優也くんのお父さんに会うという目的は果たされましたね!ご友人のお姉様もお会いできたことですし、もう戦う理由はないでしょう。ね、私と仲良くしませんか?」
ザセルは満足気だ。ストームは海美の肩を支え泣きじゃくる背中をさすりながら、俺を心配そうに見ている。
ネピアがヒラヒラと手を振った。
「海美〜!お姉ちゃんだよ!」
「〜っ!!おねえ、ちゃ、」
「優也くんは鮫島海美さんと仲が良さそうでしたから彼女の大切なお姉様もご用意したんです。あぁすみませんが、嵐巻龍斗さん。貴方に似た細胞は見つかりませんでした」
「……俺の家族は研究所にいなかったからね」
「揃えてご用意させていただこうとしたのですが、わかったのは貴方のお名前ぐらいでして。申し訳ありません」
ザセルとストームは睨み合う。それを気にせず、ネピアはザセルの隣で一歩前に立ち、優しく穏やかな表情で海美に語りかける。




