#2-4 ヒーローじゃない
「……ヒーロー、ねぇ」
あーあー今日はやたらご縁の多いこと。
にやっと笑って後ろの相棒の肩をトンと背中で押す。
「だってよ、フレイム」
「笑止千万ですね。知らないようだから教えてやる」
比較的傷の多い右腕を庇いながらフレイムは、──優也は笑う
「俺たちはヒーローどころか、そもそも人間じゃない。この姿を見てもまだ人間だと思ってんのか?頭がお花畑で助かるよ」
「なッ!?」
「あれ、図星?」
「そ、そんなことわかるわい!!でも!お前らの目的は人間達を守ることだろう!!ヒーローみたいなもんじゃねぇか!!」
フン、と鼻で笑った音が聞こえた。やっぱり思う気持ちは変わらないな。顔を見なくたって何が言いたいかわかるよ、優也。
「勘違いしてるとこ悪いんだけど、俺たちが戦うのは人助けだなんだとか、そんな理由じゃないんだよね〜」
「俺たちはSCR。お前達の殲滅が目的であって、人助けの組織じゃない。それに」
傷だらけの腕でリーダーであろう蟻を指差す。
「俺たちはただ、最悪な未来を自分の望む未来に変えるために戦う。それだけだ」
ふと脳裏によぎる腕の中の愛おしい笑顔。
忘れたりなんかしない。絶対に。
トン、と後ろから合図が来る。モールスか。………え、まじ?
「望む未来ィ……?アッハッハッハッキヒイィヒャっハッハッハッ!!そんなもんお前らにはねぇんだよここで死ぬんだから!行け!我同胞達!!」
一斉に襲いかかってくる蟻達。あんまり気乗りしないけど、今はフレイムを信じるしかない!
「いくぞ!!」
グルングルングルンと高速に回転して大きな竜巻を発生させる。今までのとは違って遠慮なしだ!
「「「「「「「グアァァアアア!?」」」」」」」
「っよし!」
出力を絞らないおかげで全ての蟻達を吹っ飛ばせた!!見ると他に隠れていたであろう蟻を含めて50体ぐらいは巻き込めたな。大渦の嵐だ。その鉄の羽でも簡単に飛行できると思うなよ!!
「フレイム全部飛んだぞ!?」
「っ了解、離れてください!」
「は!?お前も巻き込まれてんのかい!」
上から声が聞こえたと思えば、フレイムまで巻き込まれている。飛ばされない策があって言ったんじゃないんかい!でも多分何かやりたいことがあるんだろう。竜巻の中で身動きが取れないのは蟻もフレイムも同じ。竜巻が俺の手から離れた以上止めることもできない。どうするつもりだ、フレイム!
よく見ると竜巻の中には巻き込んだ公園の遊具や団地にあったであろう車や割れた窓ガラスもあり、蟻達はそのダメージをくらっているが、フレイムもかなりのダメージを食らっている。避けようにも竜巻の中じゃ身動きをとれないどころか息だってできないし……!
「バカめェ!!風でご自慢の炎も出せていないではないかァァ!!《風前の灯》とはこのことだな!死ねェェ!!」
竜巻の中だというのに羽をバタバタと動かし数十体の蟻達がフレイムへと少しずつ近づいてくる。対してさっきからフレイムは巻き上がる瓦礫などを避けるのに精一杯だ。
「っ!フレイム避けろ!」
「まずは1匹、終わりだぁァァ!!」
蟻達が顎のガチンガチンと鳴らしフレイムに襲いかかる。しかしフレイムはしめたと言わんばかりににやっと笑った。
「……いいことを教えてやる。今のお前らにぴったりの言葉、《火に飛んで入る夏の虫》ってな!」
そうフレイムが叫ぶと、小さなシリンジを取り出す。あれは!
Burn up the mutation!
「ヌオオオオオオオオオオオオ!!熱い!!何をするつもりだ貴様ァァアアア!!?!?」
フレイムの体は大きな火の塊となっていく。周りの暴風の影響で火が少し散ってしまっているけど、きっと!
「俺は必ず父さんとの未来を取り戻す」
「はァ!?」
「そのためなら、何だってやってやるよ!!」
「優也……!」
「──ファイナルフレイムアタック!!!」
フレイムの炎はすぐそばの蟻達を焼き払い、さらに竜巻の中の瓦礫なども連鎖的に燃やすことによって俺が起こした竜巻は瞬時に炎を纏い、その勢いを増して団地全体を巻き込む!!
ドゴオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!
「うわ熱っ!?」
咄嗟に思いっきり地面を蹴り風のブーストを受けて距離を離す。あっぶな!?俺まで焼け死ぬところだったんだけど!?
一瞬の火柱の後ゴフッという音と共に突然炎の竜巻が晴れる。そこには数十体に及ぶ蟻達はおらず、ただ1人、ボロボロのフレイムだけが空中へと投げ出された。
「フレイム!」
風で体を浮かせ、重力に従って落ちていくフレイムを受け止めてゆっくりと地上へと戻る。
腕の中で動かないフレイム。体は蟻達からの傷だけじゃない。竜巻の中での傷も多く出血も酷い。無茶しすぎだっての!
「フレイム!フレイム!!返事しろ!!」
軽く揺さぶると、ぴくりとフレイムの体が動く
「……いてぇ」
「はぁ……だろーよ。無茶しすぎ」
「でも、うまくいったし。俺の案」
やってやったとしたり顔。案ってのは、多分俺が大きな竜巻を起こしてそれに火をつけることで大多数の敵を一気に焼却するってところだろう。所謂、火災旋風の一つと言ってもいい。ファイアトルネードってやつだ。
普通の火だともちろん暴風にかき消されるけどかき消されないほど強い炎、それこそBurn up solutionを使った獄炎なら竜巻から酸素を奪い取ってさらに大きな炎となり、空気を求めて上へ上へと巻き上がる。山火事とかで風が吹くと大きく燃え上がるような現象と同じだ。何で一気に消えたかはわからないけど。
でもあの土壇場で思いつき実行までもっていくのはさすがとしか言いようがない。
「『最大で』だけ言われても、ここまで無茶するとは思わなんだ。……あ、」
腕の中でゆっくりとフレイムの体が優也の体へと戻っていく。おそらく体細胞があまりのダメージに耐えかねて変身体を保てなくなったのだろう。優也の腕には深い噛み痕、その他諸々の切り傷やら打撲やら。重症だ。普通の人間だったら3回くらいは余裕で死んでる。というか何でまだ意識あるんだよ。変身っつっても結局は生身でよくあるスーパーヒーローのヒーロースーツみたいにダメージが軽減されるとかはないし、痛みで意識なんか吹っ飛んでてもおかしくないはずなのに。
目を瞑り意識を体に集中させて、元の体のイメージを頭に埋め尽くすと変身がゆっくり解けていく。何と服まで元通り。元通りというか、変身の時体の中に取り込んでるだけなんだけど。でもすごいよなぁ。こんなヘンテコな体でも、変身解除後に真っ裸で放り出されることがないことだけはありがたい。
息も絶え絶えに優也が周りを見回す。どうやら変身を許可なく解いたことが気がかりみたいだ。
「まわり、ひと、いませんよね?」
「こんな竜巻起こしといて、いたら大問題だね。寝てていいよ俺が連絡入れるから」
「す、すみま、せ、」
「いいからいいから。な、おやすみ」
頭をポンと撫でればなけなしの意識を手放しぐったりとする優也。抱える腕にさらに重みがかかる。俺たちは特異生物だから再生速度が人間の比じゃないし、明日にはきっとほどんどの傷が塞がっているだろうけど、痛みを感じないわけじゃないから今日明日は動けないだろうなぁ。
眠ってしまった優也を背負い、周りを見渡す。
「……こっちの惨状は、すぐには直らなそうだ」
そう周りを見渡すと周りはまさに地獄を切り取りそのまま貼り付けたかのような惨状。広場は真っ黒な焼け野原に姿を変え燃えるものすら残っていないのか火の手は見られない。団地のマンションの形は残ってるけどヒビと煤だらけで最初に見たようなのどかさはどこにも無い。何かの映画で怪物に街を壊された時もこんな風だったな。
「つくつぐヒーロー様にはなれそうもないね」
そう言い残して、少し離れた場所で迎えの車が来るまで待つ。団地、いや、団地跡を出ようとすると、ふとあることが頭に浮かんだ。
「優也の掴みたい未来、か」
『戦えば、父に会えますか?』
『父さんにまた会えるなら何だってしてやる。命だってかけてやる!!』
『俺を戦わせてください』
「……………」
あの日、止められなかった優也の決意。こんな体になっても、こんな大怪我をしてまでも突き通したい思い。
そりゃわかるよ。あの事件さえなければ、俺たちにはきっと全く違う未来が待ってたはずなのに。お互いの大切な人との夢があったはずなのに。それをいきなりあの事件で全部奪われた。全部。全部だ。大切な人も、普通の体も人としての生き方も尊厳も、全部。死ぬ覚悟で取り戻したい気持ちは痛いほどわかる。
『龍斗!な〜にぼーっとしてるの。早く行こう?』
『一口ちょうだい!…...え?一口が大きいって?気のせいじゃない?』
『愛してるよ、龍斗』
俺だって、取り返したかったよ。
片手で首にかけたネックレスを服の中から取り出す。その先に通した指輪に埋め込まれた青の宝石がキラッと光った。
気持ちは痛いほどわかる。でも、
「死んだら元も子もないってこと、いつになったら分かるかねぇ……」
いつか大事な時に間違えないように、後ろから見守ってやらないと。
「……こちらストーム、狛華ちゃん聞こえる?」
『こちら狛華。特異生物の細胞反応無し。焼却完了です。周囲の被害状況は確認中ですが、おそらく一般人に危害が及んでいることはないかと思われます』
「おっけー。優也は行動不能。俺は割と元気だけど疲れたから早めに迎え寄越して〜あと柏木先生にも一報いれて、優也が意識無しの出血多量って。あ、的戸には何も言わないでね面倒だから」
『了解しました。近くに待機させていたのを行かせるので5分程度です。』
「はーいしくよろ〜」
報告終わり。これで今日の仕事もおわ──
『こちら狛坂、龍斗さん隠れて!』




