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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#2 ヒーローじゃない
6/24

#2-3 砂糖の城

「特異生物が現れた。場所は蟻塚地s-112-621の36番。現場へ急行し、対象を焼却処分せよ。なお住民の避難誘導と周辺の人払いはあと10分程度で完了する。適宜報告を怠るな。SCR特殊戦闘部、出動せよ」


「「了解」」


 黒いジャンバーを羽織り、二の腕に巻く小さなポシェットをつけ、用意された車に乗り込み指定されたポイントまで輸送される。SCR本部は地下にあってその入り口は巧みに隠されており、出るまでにウネウネと何度か角を曲がってたり坂を上がったり下がったりしてようやく外へ出られる。その間俺たちは道のりがわからないよう目隠しをされ、外への出方は教えられない。耳の良い優也に至っては外の音を遮断するヘッドホンまで付いて来る。全くもってご丁寧な扱いだ。


 ガラッと車のドアが開けられる音がして、目隠しを外し車を降りる


「現着。捜索を開始します」


「狛坂〜特異生物の特徴わかる?」


『こちら狛坂。目撃情報によると、対象は蟻のような顎をもっているそうです』


「蟻かぁ。咬まれたら痛そうだなぁ」


「ただでさえちょっと痛いですからね」


「数も多かったりして。ありが10匹で〜?Hey優也!!」


「スミマセン、よくわかりませんでした」


「ありがとうだろぉ!?」


「はいはい馬鹿なことしてないでいきますよ」


 ぐるりとあたりを見渡す。どうやらここは団地のようで、周りに似たようなマンションがいくつも並んでいる。いつもなら子供が遊んでいそうな小さな公園もあり、近くで奥様方が井戸端会議している様子が目に浮かぶようなのどかな雰囲気。ただ今は人っ子1人いやしない。特異生物も見当たらないけど。


「いないね」


「音も特にしません。目撃者がいるってことはパッと目に入るようなサイズだと思うんですけど」


「んじゃ俺上から見てみるから、優也は下で音聞いてて」


「了解です」


 そう言って優也と別れ、適当なマンションの屋上へと階段で上がる。うわ、結構長いぞ。


 こんな時力を使ってひとっ飛び!……というわけにもいかず(無闇に力を使って万が一誰かに見つかったらどうすると以前優也に怒られちゃった)、ひいひいと息をあげながら屋上までの階段を登り切る。なんでエレベーターないんだよ……


「とう、ふぅ、到着……」


「遅いですよ」


「勘弁してくれ……んー、いねぇな」


「龍斗さんの視力でも見えないですか」


 いないなぁ。俺の鷹の変異が入った目なら視界も広いし視力だって常人の数倍はあるのに。それをもってしても見えないってことは


「まじもんの蟻のサイズってこと…?草根をかきわけてって…いや何年かかるんだよ」


 ザザッと耳につけたインカムが鳴る


『こちら狛坂。目撃者への聞き込みなんですが、特異生物は人間よりも一回り大きいサイズぐらいはあったそうです』


「もしかしたら体の大きさを自由に変えられるのかもしれませんね。対応を考えます」


「……この辺全部焼き払う?」


「ここ団地ですよ?第一ここにいるかどうかもわからないのに」


「だよなぁ」


 ぐるっとマンションの屋上を一周して探すも収穫は無し。本当に蟻サイズだとすると相当厄介だ。流石に団地丸ごと焼き尽くす案は常識的に考えて無し。ここが帰る場所の人たちはたくさんいるだろうしね。必要以上の恨みは買いたくない。

 何か他にいい方法は……


「あ」


「どうしました?」


「敵が本当に蟻なら、砂糖とかで誘き寄せられないか?ほら、特異生物は元になった生物の特徴を特化させてるわけだし、砂糖もまだ好きなんじゃ?」


「試してみる価値はあるかもしれないですね」


 特異生物は簡単に言えばいくつかの生物のキメラだ。

 優也はトラをメインにチーター、ジャガー、サイ、ラーテルのキメラ。

 俺はコモドドラゴンをメインに鷹、ハヤブサ、ワニ、ヘビのキメラだと研究でわかっている。


 それぞれの性質をうまく受け継いで優也の耳が良く俺の目が良いように、相手だって特異生物なら元の生物の特徴をある程度は引き継いでいるはずだ。蟻なら甘いものに惹かれるはず。


 司令部に手配を頼んで十数分後、山盛り砂糖が団地の広場の真ん中にドンと鎮座した。周りに普通の蟻がわらわらと集まり始めている。


 いや、なんか、うん。


「言い出しといてあれだけど、国家の秘密組織が人払いしてわざわざやることがこれって。なんだか……シュールだな……」


「これ、作戦終わったらどうするんですか?」


「食べる?」


「龍斗さんがですか」


「優也がだよ」


「糖尿ですか」


「この量食えば誰でもなれそうだな」


「……特異生物が食べきってくれることを期待しましょう」


「ね。じゃ優也は下で隠れて待機。俺は上からどこから来るか見とくわ」


「お願いします」


 そう言って俺は上から周囲をぐるりと見渡す。特に何も変わったところはないし、何かが動いてる様子もない。うーん……やっぱりダメかなぁ。


 まぁよくよく考えて見れば相手が蟻の特徴を残してるからってこんな見え見えの罠にかかるわけないし、突然変異で砂糖に惹かれなくなったとか。考えられる要因はいくらでもある。どうしようかね、これ。


「うーん困ったアリねぇ」


「ここまで見つからないならやっぱりポイントを移動しているんでしょうか。狛華さん、別ポイントの映像確認お願いします」


『半径10km以内、目撃情報から現在に至るまでの映像を解析しましたが特に見られません。また特異生物の細胞反応もサーチしましたがこちらも見つかっていません』


「仕事が早ぇなぁ。ありがとね!……つーことは?」


「ここから動いていない、ということになります」


「街の監視カメラ全てを掻い潜った可能性もあるけど、まぁ無理だろ」


「……もし掻い潜れるとしたら……?」


 そういうと優也は黙り込む。


 SCRの監査システムは東京を中心にいくつも張り巡らされており、これに見つからずどこかへなんてのはまず無理だ。それにいくら蟻サイズになったとしても特異生物はその特殊な細胞のおかげで、人体などに無害なある特定の波長の光で見ると光って見える。イメージとしては特異生物だけが反応するサーモグラフィーみたいなものだ。これすらも突破することは不可能に近い。


「近くにいるっつってもねぇ。この辺の監視システム壊されちゃってて草を分けて蟻を一匹一匹識別して探さないとってなるし、骨が折れるなぁ。どーする優也〜」


「待ってください。何か……」


「!」


 下を見ると優也が耳に手を当ててじっとしている。お!来たか!!


 優也はネコ科の動物に加えてサイなどの陸上動物の変異が入っていて、中でも聴力が常人よりも数十倍だ。元の動物の聴力でさえ超えるその耳で自分を中心に遥か先までの音を拾うことができる。


 呼吸音すら控えて、静かに優也を見守る。


「なんだこの音………金属がぶつかる音が混じったブーンって音。なんかの機械ってよりは、羽音か……?」


「羽音?換気扇とかじゃなくて?」


 通報にあったのは蟻だろ、まさか前回の二足歩行会話可能な特異生物みたいに変な変異起こしてんのか?と辺りを見渡す。けれどその姿はない


「それも一気にこっちに……ってこれ!?」


 バッと優也が焦ったように振り返る。え、何?




「上だ!!」




「っ!?」


 一瞬で視界が陰る。反射で身を捻ればその直後、俺のいた場所は轟音と共に大きくえぐれて小さなクレーターとなっていた。


「……なるほど。アリはアリでも羽がアリってわけ」


「ンッンー!!惜しい!惜しいぞ我!!後少しで人間を屠れたところを!!」


 そのクレーターの中心には大きな蟻のような顎を持ち、体はいくつもの節に分かれていて、巨大化した蟻が人間と同じ腕と足を持ったような化け物─特異生物だ。手足は太く、腕に至っては筋肉が異常に発達している。背中では銀色に輝く羽が重なってカチャカチャと音を鳴らした。


 コイツ、蟻が突然変異しただけじゃないな。二足歩行、会話もできそうだし、体が鉄でできてんのか?他にも何か変異が入ってる。でも考えるのは後。とりあえずは。


「我が名はアリルガム!!『硬化』の能力を持ったこの拳を避けるとは、なかなかやるな人間よ!」


 耳につけたインカムで司令室に連絡を入れる。こめかみに少し汗をかいているのがわかった。


「こちらストーム、戦闘に入ります。変身の許可を」


『こちら司令部、変身を許可する』


「了解」


「だがしかし、今屠れば変わらぬこと!ミスの完璧なカバーも素晴らしいぞ、我!!」


 そう言ってブンッと羽を鳴らして勢いよく俺へ拳を放ってくる


「速っ!?」


「まだまだァ!!」


 向かい風を起こして相手のスピードをできる限り下げても速い!なんとかギリギリで避けてるけど、生身じゃこれ1発でも喰らったらヤベェ!?でも避けるのに精一杯で変身する暇も!


「ここだァ!!!」


「っ!?」


 ものすごいスピードで目の前に迫る拳。やば──────



「ウギャアァアァァアア熱ゥゥウウ!?!?」


「ストーム!!」


「っ!?」


 なけなしの防御にクロスした腕をゆっくりと下げれば、どうやらしたから優也が投擲した高熱の石がコイツの目に当たったらしく、目の部分を抑えてフラフラと後ずさっている。今だ!!


「サンキュー!!」


 そう言って悶えている蟻を思いっきり蹴り飛ばし、バランスを崩したところを殴り飛ばして屋上から落とす!


 それと同時に屋上から飛び、先に地面に衝突した蟻を思いっきり踏みつけ、その勢いで跳ねて大きくバク転し優也の隣に着地した。蟻はフラフラと立ち上がる


「ぐ……ただの人間じゃないな……!?なんだ、なんなんだ貴様らは!!?」


「正義の味方ってやつ?」


「お前を殺すバケモンだよ」


 2人同時にシリンジを取り、ボタンを押してカシャンと現れたシリンジソケットへと嵌め込んでソケットをカチッとなるまで閉じる。



 Flame!Ready for injection!


 Storm!Ready for injection!



 左腕を頭上まで振りかぶって前から右後ろまで大きく反時計回りにまわし、体を半分捻った勢いを乗せ左腕を前へと突き出して叫ぶ



「「change my feature!!」」



 一気にプランジャーを押し込んで、左腕を外側へ一振りすれば辺りに暴風が吹き荒れる!!



 Genes are promoted!



 一つ一つの細胞を一瞬にして全て認知していく感覚と自分の体が全く違うものへ作り変えられていく感覚。


 吹き荒れる嵐が自分を中心に回っていき全能感が体を支配する。いつのまにか体は青く鈍く光る鱗に覆われており、それでも風のように体は軽く感じる。


 腕を横に一薙ぎすれば暴風は晴れ、クリアになった視界には腕で風を耐える蟻の姿。


「フレイム、変身完了」


「ストーム、変身かんりょーう!」


「SCR、戦闘を開始します」


 その瞬間フレイムが燃えた蟻に拳にありったけの熱を込め殴りかかる。蟻は羽をブンッと鳴らし加速してフレイムの拳を避けるとカウンターで剛拳を振るう。これを避け腕を掴み支点にして蟻の頭部へ蹴り上げる。入った!


「グブッッ!!おのれ小賢しい!」


 フレイムを振り払いブンッと空高く飛ぶ。待ってました!


 先に飛び上がっていた俺は飛んでくる蟻の頭を上から踵で思いっきり蹴り落とす。ギャア!!とかいう悲鳴をよそに着地点へと先に回り込み首根っこを掴みフレイムの方へ投げた。


「フレイム!」


「分かってますよ!」


 投げ飛ばされてくる蟻を正面からフレイムが高熱の拳で殴り、団地の壁へドォンッッと土煙を上げながらめり込んだ。どうだ?様子を見るためフレイムの隣に着地する


「ギィィイィィイイ!!」


 少しずつ煙が晴れて蟻の姿が見える。ダメージは入ってるけどまだまだ元気そうだ。さっき『硬化』の能力とかなんとか言ってたし、かなり皮膚が分厚いのかも。


「お前らァ!我の手間を取らせるでない!我はこの後あの山盛り砂糖をいただくんだ!!さっさとやられてしまえェ!!」


「……作戦は成功、らしいですけど」


「あれでほんとに釣れてたんだねぇ」


 言ってみるもんだな。うん。


 すると蟻が両腕を掲げ叫ぶ。


「そう!お宝の山を目指して!なァ同胞達よ!!」


「「!?」」


 やっべ!?


 咄嗟に身を屈め、俺たち目掛け飛んできたであろう何かを避ける。頭上でブンッと虫特有の嫌な羽音がいくつか通り過ぎていく。やばいマジキモい!!


 体を起こすと俺とフレイムの周りを囲むように同じ巨大二足歩行の羽蟻が計10体。カチャンカチャンと羽がぶつかる音とキヒヒヒと不気味に笑う声が不協和音になって団地全体に響いた。


 フレイムと背中を合わせ、攻撃体勢をとる。


「これが本当の《アリがとう》ってやつ?」


「……2対10。1人に対して5体か」


「グフフフフ、『悪者1体をヒーロー5人で倒すシーンがかっこいい』、なんて話を聞いたもんでな。この辺りのガキどもの遊びで聞いたんだァ」


「あっそ、俺たちが悪者ですか!!」


 高く飛び腕に思いっきり力を込めて周囲の蟻達を風で舞い上がらせた鋭い石礫で乱れ切りにする。それに合わせてフレイムが1番近い蟻に一瞬で近づき殴りかかる。


 様子を見るに、乱れ切り効果は今ひとつって感じだ。これだけで押し切るのは正直きついな。


「クソ!鬱陶しいハエめ!!これでも食らえ!!」


「!」


 吹き出された液体を避ける。だが、全てを避けきれていなかったのか足に少し液体がつき、ジュウと音を立てる。酸……蟻酸か何かか。


 グルンと身を捻り上手くかわして地面へ降り立ち、姿勢を屈めて数度回転することで蟻の足元へ竜巻を送る!


「って、あれ?」


「「「「「グオオオオオ我らは飛ばないぞ!!」」」」」


「マジかよ!!」


 あいつら、ご自慢の筋肉パワーで地面に踏ん張りやがる!!それに体が鉄っぽいから重いんだ!


 一体ならさっきみたいに飛ばせそうだけど、こいつら固まってるから飛ばせねぇ。これ以上出力を上げると近くのフレイムも巻き込みかねないし…って!


「っ!」


「フレイム!?」


 足元に感じる熱。視線だけ逸らせば俺の足元で腕を押さえながら倒れ込むフレイムの姿。両腕には大きな噛み跡がいくつもあり、どれも下手すれば腕が千切れてしまうんじゃないかと思うほど傷は深い。


「コイツら、鉄の体で打撃が効かない上に顎の噛む力が強すぎます……!!」


「クッソ、こっちも吹き飛んでもらえなくてお困り中!!」


 風で吹っ飛ばすのは諦めて背中合わせになり、またも囲まれる。でもさっきより状況は悪化、てか最悪!


 俺の風も竜巻も優也の拳も効果的じゃない。お互いの得意分野が効かないのは致命症だ。さっき燃えてたところを見るに火には弱いかもけど、全部を燃やすには数が多い!優也の傷はかなり深いから長引かせたくもない。どうする……!


「さぁ、褒美までもう少しだァ……集まれ同胞達よ!!」


「なっ!?」「まだいんの!?」


 その大きな呼び声に反応するようにまたも10体ほど集まり、周りにうじゃうじゃと集まってくる。マジかよ!


「1匹いたら10匹、10匹いたら30匹ってやつでしたっけ?」


「それ以上いそうだけどね、この感じ。どうする?」


「………」


 ギリ、と歯を食いしばる音が聞こえた。


「ハッハッハッ!!降伏なら今の内だぞ〜!!我は今気分がいいからなァ!」


 やたら上機嫌だな。睨みつけても怯えるどころか小躍りさえ始めている


「ちょっとのことで!ほんの気持ちで!俺たちを虐殺する人間様!!俺たちが反撃すれば簡単にプチッと殺してヒーロー様!!それが我らに屈服するところを見るだけで最高の気分だァァアアアアッハッハッハッ!!!」


 周りの蟻達も同じように笑い始め、団地全体から笑われているような感覚に陥る。耳障りな羽音も相まって嫌な相手だ。


 それにしても、


「……ヒーロー、ねぇ」


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