#6-8 消えた未完成
「ど、どうですか?」
「うん。データは良さそうだね」
3週間後──SCR研究開発部第3研究室
よ、よかった!的戸さんが作った優也さんのburn up solutionと同じように、でも龍斗さんの細胞と適応するように試作していたものが良いデータを出せた。優也さんの時もこんな感じのデータだったし、後は色々な毒性試験とかをやれば本当に実用できるんじゃないか?
目の前のチューブに入ったサンプルと実戦を想定して充填したシリンジが我が子のようにかわいく思えてくる。測定前はお前裏切るなよとか、そんな恨み言じみたことしか口から出てこなかったのに!
「やったじゃん。こんな短期間でここまでいいデータ取れるのはほんとすごいよ」
「いやいやいや!龍斗さんが色々教えてくださったからですよ!自分はまだまだ未熟で…」
「そんな卑下しないでも。この研究のリーダーは来知なんだからね。俺を上手く使うのも来知のお手柄よ」
「龍斗さん………!」
「これでほぼ完成だけど、むしろこれからの小さいミスに気をつけていこう」
「〜っ!!はい!!」
なんて、なんていい人なんだ!!
とにかく優しい!!でも厳しいところはしっかり厳しくて、ちゃんとやるところはやってメリハリがしっかりと付いている。頻繁に声をかけてくれて困ったことがあればすぐに相談にのって解決策も提案してくれる。こんな理想の先輩、大好きになるに決まってるだろ!
男なのに龍斗さんにメロメロになっている。これは惚れるわ仕方ない。女子の気持ちなんて今まで1つもわかったことないけど、これはわかる。
「18時か……ごめん。今日のところは終わりにしようか。ごめんね、優也と海美ちゃんが待ってて」
「いやいやいや!むしろお時間をいただいてありがとうございます!」
「それじゃ片付けて、あ、あとこれだけやっちゃおうかな……あとこれも」
「龍斗さん?」
あ、まずい。この3週間ぐらいで何となくわかった龍斗さんの悪いところ。ブツブツとつぶやいて自分の世界に入ったらなかなか帰ってきてくれないんだ。研究に関しては特に。
「あ、あの龍斗さん!」
「っ!あぁ、どうしたの?」
「優也さんと海美さん待ってるんですよね。片付け自分がやっちゃうんで、早く帰ってあげてください」
「え、いや悪いよ」
「ち、チームリーダーは自分ですから。リーダーの指示ってことで」
わぁ、言うようになったねぇ!と笑う龍斗さんにほっと息をつく。今までのラボじゃこんな口答え許されなかったし、いくらリーダーといえ慣れなくて勇気がでなかったけど、ここまで言えるようになったのはこれも龍斗さんのお人柄のおかげだ。
龍斗さんとクリーンルームを出て着替える。
「ふー疲れたぁ」
「お疲れ様です。あとはやりますから、早く帰ってあげてください」
「うん、ありがとうね。じゃ行っ………」
突然厳しい顔つきになり耳につけたインカムに手を当てて軽く目を伏せる。あれ?どうしたんだ?
「じゃ、行ってくる」
「え、あ、はい。行ってらっしゃいませ?」
そう言い残し龍斗さんは走って帰っていく。何だったのかな。何もないといいけど。
さて、片付けをしないと。安全キャビネットから取り出したサンプルチューブはちゃんと戻したし、掃除もした。……ん?あれ?そういえば、
「シリンジに詰めたのどうした……っけ」




