#6-7 子供のままじゃない
海美が床で腕を上に伸ばし、伸びをしてたはーと声をあげる。
「なんか、今の明るい龍斗さんからじゃ全然想像つかない。昔そんなことがあったなんて。だっていつもニコニコしてさ」
「あぁ、それは多分俺のせい」
「え?優也の?」
こくりと頷きながらペットボトルを元の場所に戻す。
「光莉さんの夢だからって、俺を……子供を助けて、その上心配させないようにってニコニコしてたんだよ。辛い顔一つ見せず」
「夢?」
「困っている子供を助けること。光莉さん、子供の病気の研究してたらしい。その夢を守ってやりたいんじゃないか?」
「はー……だからかぁ」
「何が?」
「ん?いやこっちの話」
ふーんと何を納得されたかわからないが、何となく追求する気にはならなかった。
龍斗さんが事件後、首謀者であり絶対悪とされていた父さんの息子である俺に優しくしてくれたのは俺だからじゃない。俺が子供だったからだ。そこにどれだけの葛藤があったことか。
左手首を握る。
だって、本当は殴ってやりたかっただろ?婚約者の命を奪った奴の息子なんて。でもその葛藤を微塵も見せなかった。それにどれだけの努力が注がれたのか。俺にはわからないけど。
あの時からずっと龍斗さんの中では俺は子供のままで、『守らないといけない対象』のままで。それが龍斗さんの重荷になってしまっていないか。
そんなことを気にしていると知ったら、アンタは笑うのかな。
「そっか、じゃあ優也は龍斗さんを安心させたいんだね」
「……え」
重い思考の海に沈んでいた俺を海美があっさり引き上げる。
「優也は龍斗さんに安心して欲しいんじゃないの?もう大丈夫だよ、心配しなくても平気だよって言いたいんだよね」
さらりと言い当てられた本心がどくん、と音を鳴らす。
海美がその大きな瞳で俺の心を見透かしている。そうだ。俺は子供扱いが嫌だとかじゃなくて、ずっと心配かけさせる自分が嫌で仕方なくて。10年前からずっと龍斗さん1人に背負わせているようで申し訳なかった。ずっと、1人で悩んでて、でもなんで、
「なんで、そんなこと」
「え?うーん。優也ならそう考えそうってだけ。でもその感じ、外しちゃないでしょ」
「………」
心に思うことを言葉に出せず思考の波に拐われる俺を海美が導いていく。何だかむず痒くって目を逸らした。
なんだよ。勝手にわかったような口聞いて。もしかしてこれがオブラートという言葉を知らない直球ストレートの成せる技か?と思うと思わずクスッと笑いが漏れた。何よー!?と海美が重ねて笑い、変な緊張が氷が溶けるように融解していく。
「ふふっ。でもいつかちゃんと、ゆっくりでもいいから伝わるよ」
「いつか」
「うん。いつか必ず、ちゃんと伝わる。それまで私が応援するよ」
「……うん」
「あ〜色々知れてよかった!ねぇ、そろそろ練習再開しよ?」
時間を見ると長針が短針を追い越してしばらく経っている。ちょっと話しすぎたかな。
「あ、龍斗さんにまだ連絡してな──」
その瞬間、下から海美の蹴りが飛んでくる。
顎に伸びるそれを直撃しないよう、蹴りに沿うようにその場でバク宙して避け、距離を空けず体勢を低くし、蹴りの勢いのまま体を起こした海美の足を横に回転して勢いよく払う。急いで体を起こしたせいで不安定な海美の体幹はすぐにぶれてまた床に転がった。頭をぶつけることなく受け身をとれたのは成長だな。
「痛い!なんでよ!」
「連絡してないっつってんだろ。ちょっと待て」
「隙ついたはずなのになんで!クソー!!」
「はいはいガキガキ」
「ガキ扱いすんな!!!」
「お静かに願います、お姉様」
「…………………」




