#6-2 的戸才花という女
「的戸ォォ!!やっぱお前じゃねぇか!!」
突然すぐ隣の部屋から扉が外れて中から悲鳴と怒号と共に小さな女の子が転がりでてきて思わずひゃっ!?と叫んでしまった。確かこの隣って研究開発室の室長さんの部屋だよね?てかこの怒号、え、龍斗さん?龍斗さんの今まで聞いたことのない怒号だ。な、なに?何があったの?
転がり出て来た小さな女の子はぴょこんと立ち上がる。身長は私よりもかなり低くて140あるかないかくらい。大きなタレ目に猫口の幼い顔立ちで髪はローツインに大きなリボンが付いてる。
服は女子高校生の制服のようなシャツ、リボン、スカートに白衣で、その袖は長さが全くあっていなくて余った袖がヨレヨレになってしまっている。
小学生が高校生の制服の上に大人用の白衣を着た感じ。
え、誰……?
的戸と呼ばれた女の子は部屋の中に向かって必死に叫ぶ。
「ぼ、僕ちんのせいじゃないって言ってるじゃん!ね、フレイムくん!」
「そうですよ龍斗さん。確かに的戸さんから聞いた話ですけど、最後は俺が了承したんですから」
「その選択肢すら見せるなって何度言ったら分かるんだよ!!優也がそんな選択肢見せられたら選んじゃうに決まってんだろバカ!!それに的戸はデータが欲しいだけで身の安全は補償してねぇんだろどうせ!」
「え、よく知ってますね」
「的戸ォ!!」
「ひんぎゃあー!?フレイムくん黙って!!」
なんとも騒がしい様子だ。部屋から出てきて、私の目の前で的戸と呼ばれる女の子の白衣を掴んで怒鳴る龍斗さん。なになにどうしちゃったわけ!?
おそるおそる後ろから龍斗さんに話しかける。
「あ、あの、龍斗さん?」
「あぁ!?……て、え、海美ちゃん!?」
その言葉に反応したのか部屋から優也が顔を覗かせる。
「海美?何してんだこんなところで」
「え、いやあの、ここに2人がいるって聞いて遊びに来たんだけど……お邪魔?」
「そんなことない。部屋入るか?」
「う、うん……」
優也に促され部屋に入ると中は学校の校長室みたいだ。適当な椅子に腰掛けるとそのフワッフワな座り心地に驚く。何これ!これが校長先生の座っていた椅子……!?そう興奮していると優也がお茶が入った紙コップを手渡してくれて、そのまま優也は私の隣に座る。
優也はいつのまにか移動して目の前のソファで取っ組み合う龍斗さんと的戸さんが見えてないの?ってぐらいふつーの顔してズズっと自分のお茶啜ってるけど、私はそこまでできない。てか慣れてないし!
「ね、優也。龍斗さんどうしちゃったの?」
「あぁ、いつもあんなんだよ的戸さんとは」
「その的戸さんって何者なの?てか子供!?」
そうか、そういえば会ったことなかったか?と優也が湯呑みを置いて横にあった棚から書類を取り出す。履歴書?みたいなやつだ
「的戸才花32歳。研究開発室の室長で、特異生物に関する研究のリーダー。龍斗さんの研究所時代の同期だ。あの人がミューシスとか作ったんだよ」
「さんじゅうに!?……ま、まぁ、人は見かけに寄らないってね。優也も20とは思えないぐらい見た目子供っぽいし。てかすごいなぁこれ作った人なんだ!」
「なるほどな。午後の訓練覚えとけよ」
「そうそうそう!僕ちんすごいでしょお!?あだっ」
龍斗さんが的戸さんの頭をごちんと打つ。
「ただし性格に難しかないけどね。コイツは倫理っていうブレーキがない。データにしか目が行かない非人道的研究も進んでやるマッドサイエンティストだよ。現に昨日のburn upだって優也に2本も使えるようにしやがってこの!」
「ひ〜!?フレイムくん助けてぇ」
「龍斗さん落ち着いて。今度は相談しますから。多分」
「多分て」
話は昨日優也がburn upっていうのを2本使ったことについてっぽい。そのburn upってやつがまだイマイチわからないんだよなぁ。多分必殺技的な奴なんだろけど。プロもいるみたいだし、せっかくだから聞いちゃおうかな。
「あの的戸さん。聞いてもいいですか?」
「ん?なんでもござれよスパークちゃん!」
「burn upって何の話ですか?前々からよくわかってなかったんですけど……」
優也と龍斗さんがえ?と目を丸くして驚いている。ごめんって!聞くタイミングがなかったんだって!
的戸さんは得意げに鼻をならして語り始める。
「ふふん教えてあげよう。burn upってのはね、burn up the mutationの略で、直訳すると【変異を焼き切れ】って意味。これを使ってフレイム君の熱のリミッターを無理やり外し、敵へ向かって超高温の熱を放出する時に周りの空気を吸収することで圧力を……まぁ簡単に言うと『敵に向かって大爆発!』ってとこ?」
「熱のリミッター?優也って手から火出して燃やしてるんじゃなくて?」
「いいや、フレイムくんはあくまで『触れた対象もしくはごく近くの対象に対して自身の熱を一瞬で伝達し発火させる』だけだ。火が出てるわけじゃないよ」
「burn upでは俺の耐えうる限界を超えた高熱を標的に移して一気に爆発まで持っていってるんだ」
へぇ、そうだったんだ。てっきり炎をだして燃やしてるもんだと。そう感心していると龍斗さんがため息をつく。
「その分優也の体にも大きな負担がかかる。なんせ限界を超える熱を体にこめて自分も発火してるからね。だーかーらー?1日1回にしようって話だったよな〜?的戸?」
「だって2回やったらどうなるか知りたくて!」
「知りたくて!じゃない!」
また龍斗さんがペシっと的戸さんの頭を叩いた。それに反抗するように的戸さんが喰らいつく。見た目相応子供っぽいけど32歳の女性なんだよね……?
いつもは面白おじさんの龍斗さんがこんな怒った顔なのは珍しいよりもちょっと怖いな、なんて思ったり。
最近気付いたけど、龍斗さんは優也に危険が降りかかると怖い顔をするよなぁ。私の知らない10年に育まれた絆なのかな。その割には優也から龍斗さんに対するアレがなくて色々と容赦ないけど。
てか、burn upってそういうことだったんだ!必殺技なのはわかってたけど、私にもできないかな!
「ねぇねぇ的戸さん!私もそういう必殺技欲しいな」
おぉ!!と盛り上がる的戸さんをペシっと龍斗さんが叩く。なんかちょっと察して来たけど、優也が龍斗さんに対してすぐ手が出るのってこういう龍斗さんを見てきたからじゃない?
すると龍斗さんは私の怪訝そうな視線に気がついたのか気まずそうに手を口元へ移動させコホンとわざとらしく咳払いをした。
「いや、こういう必殺技ってのは優也の特別な細胞が必要でね。海美ちゃん、『高熱を瞬時に対象に移す動物』って何か思いつく?」
「えっと、なんだろ」
「正解は……いないんだ。能力に関して俺や海美ちゃんには元の動物が存在するんだけどさ、優也にはそれっぽいのがいないの。見た目は虎から引っ張って来てるけどね」
「確かに」
私は鮫とかナマズとか色々な魚類、龍斗さんは前に聞いた話だと爬虫類系と鳥類。今までのどれも元の生物の力を増幅させたものが全部だ。その点優也の力は何に由来したものかわからない。
優也をじぃっと見つめると鬱陶しそうに何だよと返ってきた。はーこの仏頂面がねぇ本当に?何なら幻のモンスターだったりするわけ?
「ま、僕ちんからすれば2人もびっくり動物に変わり無いけどね。風を操る動物も、過剰放電する動物もいないわけだし」
「でもま、burn up solutionはその特殊な細胞を利用したものだから俺たちのは」 「作れるよ?」 「作れないんだよね……え?」




