#6-1 迷う足先
「以上だ。下がれ」
「はーい………」
6月某日──SCR本部司令室にて
トボトボと司令室の中央通路を1人で歩く。司令室の外に出て、適当に廊下の角を曲がった。いつもなら隣のブレイクスペースに行くけど、普段両隣にいる男達のうち、ちっちゃいのは研究開発室にお呼ばれしておっきいのは診療室で朝の診療が長引いてる。私はといえば朝から長官のお叱りを受けたところだ。1人でここにいるのもなー、と小休憩室を通り過ぎた。
今さっきまで怒られていたのは昨日のショッピングモールで人間がオルガーにされたところで動けなかったことについて。さっきまで生きていたはずの人がオルガーにされるのを見て殺すことができなかったから。私にブレーキをかけたのは怖いとかそういう感情じゃなくて、でも似た名前のない似た気持ち。
『酷い決断を迫られることだってある。それこそ、この学校の人間ごと特異生物を焼却しろ、とか』
「優也が言っていた酷い決断っていうのはこういうことなのかな」
私は思った通り決断できなかった。その分優也に負担がかかった。そんな自己嫌悪で潰されそうになって早数時間。1人でいると気が狂いそう。
『特異生物にされた人間は人間じゃない!!それぐらい分かってんだろ!!』
『で、でも、でも!!』
『甘ったれんな!目の前の敵に集中しろ!!!』
優也に本気で怒られた。確かに甘ったれた覚悟じゃ何も掴めない。自分を優先して動けなかった情けなさに頭を抱えてしまう。もっと強くならないと。
でもどうやって?優也はこういうの何度もやって来たのかな。だから慣れてるように見えたの?
『バケモノ!!父さんを返せ、返せよ!!』
──あの時何を思ったの?
「海美ちゃん」
「わっ!?びっくりした!狛華さん!どうしたの?」
トントンッと肩を叩かれ驚いて振り返るとそこには狛華さんがいた。今日も清楚が服を着て歩いているように綺麗だ。
「何だか悲しそうな顔で歩いていたから気になってしまって。どうかされましたか?」
「あぁうん。さっき怒られちゃって」
「そうでしたか。他のお二人は?」
「優也は研究開発室にお呼ばれしてて、龍斗さんは診療室でお医者さんと話してるのが長引いてるって」
「龍斗さんなら先ほど廊下で見かけましたよ。あの方向的におそらく優也さんのいる研究開発室に向かわれたのかと」
「あ、そうなの?じゃそこ行こうかな、ありがと狛華さん!」
バイバーイ!と元気よく手を振って早足で歩く。こういう気分が沈む時はあまり1人でいるとさらに気分が沈んじゃう。今はうるさい2人といたいんだ。前に歩きだすと足先が地面に引っかかったのかコケてしまった。もう!前途多難すぎ!!ブーツの底が分厚くて慣れないの!……情けないなぁ。
「えーと、研究開発室、研究……」
しょんぼりしつつなんとか廊下の壁にかけられた本部の案内図を見つけて、目的地の名前を探すと頭が傾く。いや、研究開発部ってだけで5フロアあるのどういうこと!?よく見ると解析室とか資料室とか多いな。えっと、研究開発室、研究……
「あっ!研究開発室!だけど、1から5のうちどれ……?」
やっと見つけた研究開発室の文字の末尾に1〜5の番号がついた部屋がずらりと地図に並んでいた。いやどれ?多すぎ!あーもう!さっき狛華さんに聞けば良かった!
「うん。とりあえずこの辺いけば分かるでしょ」
能天気に歩き出す。階段を登ってまっすぐ行って、大体司令室から10分くらい経った頃に地図の目的地へと辿り着いた。
えーと、何番に入ろうかな。適当に入っても大丈夫でしょ!じゃ1番で!
コンコンコン、とノックをする。しかし返事はない。あれ?留守かな?別の部屋なのかも。
隣の研究開発室2をコンコンコン、とノックをする。しかし返事はない。ここもダメか。
続けて3,4とノックする。これも返事はない。え?そんなことある?
最後に研究開発室5を同じようにノックする。あれ、また返事が──
バタンッッ
「あぎゃあああああああい!?」
「的戸ォォ!!やっぱお前じゃねぇか!!」




