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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#5 One day after the rain
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#5-5 冷たい雨が降る

『こちら狛坂。反対方向の出口で謎の生命体との戦闘中の模様!ナビゲートするので至急合流を!!』


「謎の……?了解、すぐに向かいます」


「了解!速く行かないと!」


 なんだよ、謎の生命体って!オルガーじゃないなら新たな特異生物か!?


 そう言ってまた走りだそうとする。けれど先ほどの全力ダッシュと怪我のせいで体がグラつく。それにさっきまでの戦闘の疲れもあるし雨で熱が奪われて無駄に体力を消費してしまっているみたいだ。時折呼吸を整えつつショッピングモールの外側を回っていく。


 走る最中で少しずつ耳を掠める、何か鞭のようなものがしなる音と聞き慣れた風の音。だけど、雨の音が邪魔でよく聞こえない


『その角を右に曲がってください』


「フレイム!」


「言われなくとも頑張ってるわ……!」


 そう言いながら急いで角を曲がる。目の前に広がる広大な駐車場。そして、


「ストーム!!」


 視線の先にはうつ伏せに伏せるストームの姿。体には切り傷が多く呼吸も荒れてる。駆け寄る俺の声に反応したのか顔を上げてこちらへ叫んだ。


「フレイム、こっちに来るな!!」


「な……?」


 その時、



 コツ、コツと降りしきる雨の中、ヒールの音が響く。



 音の方向は崩壊したモールの方からだった。音の主は降りしきる雨など気にすることなくストームへと近づいていく。


 まず目に惹くのは長い髪の毛のように幾つもの植物の細い茎が頭から生え、右側頭部には大きな紫色の花が咲いているところ。目元は黒い茎で覆われており首には棘のついたチョーカーをつけている。


 身に纏う黒を基調としたショートドレスはスカートの部分が葉のようで、先端に向かって緑となっている。肩から手にかけて茎が伝い、それに沿って小さく紫色の花が咲く。


 足は左足が真っ黒で右足は網タイツのように茎が這っている。両足とも緑の高いヒールでコツコツと音を鳴らしていた。


「!?」


「あら、お仲間ですか?」


「フレイム、スパーク!逃げろ!!」


 声は数人の老若男女が同時に喋ったかのように聞こえ、ノイズが混じって聞いているだけでも煩わしい。逃げろってなんだよ。ストームのこと、助けない訳ないだろ!


 そう足に力を込めて一気に飛び出す。拳に熱を込めて殴りかかる!


「よせ、敵う相手じゃない!!」


 ガシッ!!


「っ!?」


「オルガー達を焼いたのはあなたですね?」


 殴りかかったはずの拳をいとも簡単に受け止められ、顔をみると目がないはずなのに睨まれたと感じる威圧感でおもわず息を飲み込んだ。


 すると掴まれた拳を引っ張られ腕を掴まれたと思えば腹を思いっきり蹴られ、その勢いで突き放されたあと、相手の腕が鞭のような茎に変化し瞬く間に4回ほどはたかれる


「ガハッ……!?」


「フレイム!」


 地面を子がったところに触手のようにうねる蔓が叩きつけられる。水たまりが跳ね、コンクリートが崩壊して地面がのぞいた。間一髪転がって避けきったけれど、直撃していたら?そう考えてさぁっと体温が引いた。


 駆け寄ったスパークの肩をかりて何とか立つ。速い。強い。今までの特異生物とは比にならないぐらいに強い!なんだ、何なんだこいつ!


「弱いですね。人違いでしたか」


「な、何の話よ!」


「こちらの話です。“ギフト”────彼ではなさそうですね」


「はぁ……!?」


「となるとあなたたちはただ邪魔なだけ。ならば死んでいただきましょうか。ねぇ?」


 それはニコリと微笑んだ。



「SCRのみなさん?」



「!!」「何で知って……!?」「!?」


 ガツンと頭を殴られたような衝撃が走る。何で正体がバレてる。コイツはまさか、


「お前は……ザセルだな?」


「あら、よくご存知で。そう、私はザセル」


 ショートドレスの端を掴み、反対の腕は胸に当てて恭しく礼をする。口は弧を描いたまま笑みを浮かべていた。


「この地球の救世主です。お見知りおきを」


「救世主?」


 少し下がって相手の出方を伺う。想像以上に強いし会話まで出来る知性を持った未知の特異生物だ。そう緊張する俺に対し、ザセルは眉を下げ立ったまま頬杖をつき困ったような様子で語り始めた。


「現在、地球の支配者となっている種族は人間です。ですが、勝手に地球の力を奪い、邪魔だと言って生物を虐殺し、あげくには人間同士で争い環境を破壊するなんとも醜い生物です。こんなものに寄生される地球が可哀想でなりません。ただし、ただ人間を虐殺するのも、人間とやっていることが同じになってしまう。そこで、」


 ぱっと顔を上げニコリと微笑む。目は見えないのに口元の動きで何となく感情を察することができる。


「そこで、人間に進化を促すことにしたのです」


「進化?」


「かつて鳥が地上の恐怖から逃れるよう翼を得たように、人間に恐怖を植え付け進化を促すのです。他の生物と共存できるように、食事を取らなくていい、争いの意思もない、まさに植物になればいいのですよ」


「人間が植物に?はっ、本気か?お前」


 あまりに馬鹿げた計画だ。人間に恐怖を植え付け植物に進化させる?無理な話だ。


 しかし鼻で笑う俺にザセルは機嫌を損ねることはなかった。というより、その通りだと言わんばかりにこくりと頷いている。


「貴方のおっしゃる通りです。人間をどれだけ恐怖に陥れたとて、植物にはならない。だから種をまくことにしたのです」


「種?」


「えぇ。種として、捉えた人間に私の細胞を埋め込み、オルガーや特異生物に変異させることにしました。そしてその作り出したオルガーや特異生物は他の人間を襲い、種を──私の細胞を植え込む。そうして無理やり進化させていく。さらにそれを広げることで恐怖を煽り、人類全体に進化を促すことにしたのです。恐怖を煽れば進化も促されやすい。そうして救済は連鎖する。素晴らしいでしょう?殺さずに遂行する全ての生物の救済が」


「なるほどね、実際に人間に特異細胞を埋め込み進化させるのと同時に、恐怖も煽ることで進化を促しているってわけだ。いいの?大事そ〜〜なそのご計画をこんな大々的に発表しちゃって、さ?」


「えぇ。というか、私の理想に共感していただけるのであれば、お手伝いして欲しいぐらいですから」


「恐怖を煽れば本当に進化するとでも?」


「生物の適応力とは素晴らしいものですよ?地を這いつくばっていたかの爬虫類も、自分が翼を得るとは思っていなかったでしょうね。しかし貴方の意見も一理あります。もし進化しなければ、全てを変異させるしかありませんね。まぁ、手はもちろんありますが」


 口元は微笑みながら恐ろしい事を言う。龍斗さんの煽りにも乗らないし、どんな絵空事を浮かべているのかと思えば最終手段として人類の撲滅を考えている。しかもそれを救済だと心の底から思っている。純粋悪、ってやつか。


 隣でワナワナと震えるスパークが叫ぶ


「救済って、本気で言ってるの……!?色んな人が特異生物に傷つけられて、悲しい目に遭って!変異させられた人間の命は数日ともたないんだよ!?あなたがやってる事は救済じゃない!!それこそ虐殺だよ!!」


「いえ、持たざる者が淘汰されているだけです。事実、無理やり変異させた人間が使徒になっているケースもありますよ?その使徒をあなた方も見ているはずでしょう。蟻の変異細胞を埋め込んだ使徒を」


 蟻……あの団地での事件のやつか!あれは人間を元に作られていたのか。だから蟻に似つかない四肢を持っていた。人間の体をベースにしたから!


 話を聞く限りこいつがボスで間違いない。生物に別の生物の細胞をむりやり埋め込んで特異生物に変異させる。10年前の事件と同じ──



 目を見開く。ヒュッと喉に息が飛び込んだ。



 同じだ



「それに貴方達だって同じでしょう。10年前、あの冬の日。私が人間の貴方達を変異させたのをお忘れですか?」




 ドクン、と心臓が強く脈絡打つ


 雨音が聞こえない。


 コイツが、ザセルが俺たちを?



「あの時は負荷に耐えられず死んだ失敗作だと思いましたが、まさか成功していたとは。まぁ私の細胞の支配を跳ね除けている以上異端な失敗作と言わざるを得ませんがね」



 ドクンドクン、と心臓が強く脈絡打つ


 父さんはコイツに?



『優也逃げろ!!』



 あの日から何度も繰り返す赤い記憶。


 燃え盛る炎の中焼けていく父さんの姿。父さんに伸ばす腕は短く届かない。



「高尚な存在に変えてやったというのに、まさか人間に味方するなんて理解不能です。失敗作はキチンと処分しなくてはね」



 わなわなと怒りで体が震える。あまりの怒りに言葉が出てこない。肩を貸してくれているスパークも歯を食いしばり睨みつけていた。


 そんな俺たちの様子なんていざ知らず、ザセルは呑気に続ける。


「黙ってしまってどうされたのでしょうか。もしかして本当にお忘れですか?なら、」


 ザセルが指を指す。その方向には10名くらいの人間、全員手に茎が絡みついており、口も塞がれてしまっている


「なっ!?何で!?」


「私が連れて来た彼らを変異させてしまいましょう。それでお分かりかと」


 パチンとザセルが指を鳴らすと彼らに絡みついた茎が伸びて彼らに突き刺さる。その瞬間人々は苦しみ始め体が緑へと変わっていき、しまいには体全体が植物へと変化していく。その姿は正しく、


「オルガー……」


「信じていただけました?」


『フレイム!スパーク!新生したオルガーを焼却処分、ストームを救出せよ!!』


 耳元で長官からの鋭い指令が下る。スパークがそれに対して動揺した様子で返す。


「えっでも、でも!あれは、あれはさっきまで人間で」


『あれはすでに手遅れだ全て焼却しろ!!』


「そ、そんな、そんなの、」


 無理だ。こんな状態のスパークじゃ。それにこんなの子供がやることじゃない。


 スパークから離れて襲いかかるオルガーを殴りつけて燃やしていく。数は多くない。すぐに片す!


「ゆ、優也だめだよ!だってそれ元人間なんだよ……!?私たちと同じかもしれないんだよ!?」


「ユウヤ?」


 ぴくりとザセルが反応した


「特異生物にされた人間は人間じゃない!!それぐらい分かってんだろ!!」


「で、でも、でも!!」


「甘ったれんな!目の前の敵に集中しろ!!!」


 燃えるオルガーをザセルへ向かって豪速球で投げる。ザセルは体を動かすことすらなく少し体を捻るだけで避けられた。コイツ……どこまで舐めやがって!


 さらに拳に熱を込めて放つ。受け止められても何度も何度も放つ。燃えない!コイツ、俺と同じように耐熱細胞か!?拳を止められても蹴りを頭へ向かって放つ。また避けられた!


 負けじと放つ拳をを触手のような茎で絡め取られ封じられ顔を近づけられて止まる。引っ張り抜こうにも動かない。


「貴方、お名前を聞いても?」


「名前?」


「ええ、良ければお聞かせください」


「……俺は、」


 茎を焼き切りなんとか右腕だけを引っこ抜いて同時に足に隠し埋め込んでいたシリンジを抜き取り左腕に無理やり差し込んむ。


 実験だ。



 Burn up the mutation!



 体が炎に包まれていく。逃げようとするザセルの体に飛びついて離さない。


「なっ!?」


「俺の名はフレイム。よく覚えとけ、お前を殺すバケモンだよ」


「クッ!?離しなさい!!」


「ファイナルフレイムアタック!!」


 体の炎を弾けさせ爆発が起こる。今日2度目のBurn upだ。自らの体すらを焼き切る熱を見に宿す攻撃を連続でやれば流石に体に応える。膝をついて息を整えた。


「はぁ、はぁ、っは、……そりゃ、簡単にいくもんじゃないか」


 苦笑いでショッピングモールの屋上へ視線を動かすと屋上のヘリに立つザセルの姿。やっぱり避けられてたか。手応えが薄かったのも納得だけど、でも無傷ってわけじゃない。体の至る所が焼け爛れている。燃えないわけじゃなくて、やっぱり火力さえ上げれば燃えるみたいだな。だったら何度でも打ち込むだけだ。


「今の熱……なるほど。覚醒前の可能性ですか」


「あぁ!?」


「少し調べなければなりませんね。ここは一度退きましょう」


「おい!待て!!」


 そう言ってザセルは踵を返す。クソ、ここから行っても恐らく逃げられた後だ。意味がない。あとは司令部に任せよう。


 気力だけで立っていたのか、膝を折りその場に倒れそうになる。まだ……そうだ、ストームは!


 視線をストームの方に動かすとスパークがストームの肩を支えてこちらへと駆け寄ってくる。ストームはショッピングモールから脱出する時にできた傷に加えてザセルにやられた切り傷や鞭で叩かれたような腫れもある。とりあえず柏木先生に診てもらわないと。


「フレイム、無事か?」


「ええなんとか。2度目打って、結構キテますけどね」


「また何て無茶……とりあえず撤収する。迎えが反対側に来てるからさっさと帰ろう」


「フレイム、肩貸すよ」


「あぁ、助かる」


 フラフラと立ち上がってスパークの肩を借りる。これ以上ダメージ受けたらしんどいな。


 冷たい雨はそんな俺たちの様子なんて気にも止めず、ザァザァと振り続けて俺たちの熱を奪って行った。



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