#4-6 足を阻むのは何のせい?
「……相性バッチリ。うん。そうだよね!」
そう言って近くの車の方へ歩きながら変身を解いていく。あー疲れた疲れた。1時だよ1時!午後じゃなくて午前!夜中に駆り出されるの久しぶりで、もう眠くてたまらない。
ふわぁとあくびをするとくぁ……と優也にうつった。戦闘後の気の抜けた感じが司令室まで伝わってないといいけど。あとで長官から睨まれなくないしね。
「ねぇ、優也」
すると突然後ろで海美ちゃんが立ち止まった。振り向くと俯いた海美ちゃん。どうしたんだ?優也が何かを察したように前に出る。あー、なるほど
「そういえば、何か俺に言いたかったことがあるんだったな」
こくりと海美ちゃんが頷く。
「相性バッチリ、なら仲直りしたいの」
「………」
「優也の大事な家族のこと、悪く言ってごめんなさい。そういう言葉がどれだけ人を傷つけるのか知ってるのに、気が付かなかった」
さっきまでの明るい様子とは打って変わって、すごく反省したような神妙な面持ちで頭を下げる海美ちゃん。やっぱり優しくて、しっかりした子だ。18歳とは思えないくらい。
「本当のこと知らなかったから仕方ないなんてそんなの思えないし、そんな理由で許さないでほしい。本当にごめんなさい」
優也が頭を下げる海美ちゃんの前に立つ。変な緊張で口の中が乾くが、すぐに杞憂だとわかった。
「……別に」
「わっ!?」
突然片手で頭をわしゃしゃと乱暴に撫でる優也。なになになに!?と驚く海美ちゃんに優也がふふっと笑っていた。
「別にもう気にしてない。口に出さないくせに態度に出した俺もごめん。怖かったな」
「わ、ちょ、髪の毛ボサボサ!!もー!!」
「ははっ、悪い悪い」
ケラケラと笑いながら両手でさらに頭をわしゃしゃしてくる優也にやめろー!と海美ちゃんが叫ぶ。それでも逃げずに笑ってるところを見ると満更でもないのかな?
ストン、と心に引っかかっていた錘が取れる。何か気道に詰まっていたものが落ちて、ゆっくりと息ができるような感じ。
「良かった。海美ちゃんが来てくれて」
海美ちゃんは優也の地雷踏むのが上手い。地雷を踏めばもちろん優也は傷つく。それを配慮して今まで過ごしていたけれど、案外もっと優也の心へ踏み込んで行ったほうが良いのかもしれない。
そんなこと出来る子は周りにいないからちょうどいいのかもね、多分。
二人の肩に手をポン、と置く。
「さて、わだかまりも解けたところで!そろそろ戻ろうか」
「わだかまりって……了解です」
「あ!ねぇねぇ色々と終わったことだし、3人で食堂いこ!」
「え、この時間開いてないんじゃないかな……」
「あそこ常に軽食とかあったじゃん勝手に取っていけるやつ!おにぎりとサラダとかも!あれ食べたい〜戦いでお腹すいた!」
あー確かに。あったなそんなの。夜勤の人用のやつかな。ていうかよく見てるなぁ。そういえば今日の夜お茶溢す前に何か見てたけど、もしかしてあれ見てて気を取られて溢したのか?
いいね、行こうか。というと海美ちゃんがやったー!と喜ぶ。でも……
「……俺パス」
「優也!待って聞いて!」
引き止められたことに少し不快感を示す優也。それを真剣な眼差しで見つめる海美ちゃん。
「わかってるよ。優也が食堂行きたくない事情くらい」
「……」
気まずそうに視線を逸らす優也。食堂は人が集まりやすいからか昔は心無い言葉も多く、優也は心病んで人間不信で近づくことすらなくなった場所だ。優也は左手首を握りしめている。
優也の仕草は俺が教えた、心を落ち着かせるためのおまじない。
今の時間なら夜勤の人以外いないと思うけど、そもそもあの場所自体が優也には辛い。それは多分海美ちゃんもわかってる。
「確かに仕方のない事情だと思う。でも、優也のために、優也の未来のためにも!大事なことだから。聞いて」
「………」
優也は複雑な顔だ。チラッと助け舟を求めるように俺を見てくる。この手の話題は地雷でしかないからね。でも俺だって優也にいつまで経っても人間不信でいて欲しくない気持ちは同じだ。優也の未来のためにと話す海美ちゃんを止めるつもりはない。聞いてあげて、と肩をすくめるとため息をして海美ちゃんに向き直った。
なんだかそういう予感がする。この子なら今まで停滞していた何かをガラッと変えてしまうような予感が。俺じゃできない、優也の心に噛みついていくような期待。
海美ちゃんが意を決したように口を開く。さて、どんな言葉が飛び出すのか。私がいる!とか、みんなで食べれば美味しい!とか、そんなところかな。優也の中の壁を乗り越えさせるための海美ちゃんらしい勇気の言葉なんだろうな、きっと──
「ご飯についてくるサラダ、苦手でも食べなきゃでしょ!」
「……ん?」「え?」
「確かにしょうがないよ!好き嫌いって昔から治らないことはあるけど、だからって野菜食べないと体に悪いじゃん!!サラダ避けるために食堂ごと避けるのはよくないよ!」
「は?いや別に、俺は」
「わかるよ?でもまずは葉物系から、美味しいドレッシングかけて慣れていこ!実を食べる系はハードル高いし……」
「龍斗さん何話したんですか笑ってないで話してください」
「でもきゅうりとかほぼ水だし!」
「俺は別に野菜嫌いじゃない昔あそこでトラウマがあって!!」
「私もトマト苦手だし!!一緒にがんばろ!!」
ぎゃいぎゃい反抗する優也の手を笑いながら取って車へと走る確信犯。きっと正面から行っても10年で凝り固まった心は開かない。こういうすっとぼけの方がさぞ効果的だろう。なんて天才なんだ。いやもしかして天然?どっちでもいいや、もうほんと最高だね海美ちゃん!
海美ちゃんが優也の腕を引っ張って車の方へ走っていく。すると地面に這う根っこに足を取られたのか、大きく体がよろけた。慌てて優也が掴まれていた腕を強く引っ張ったおかげで転ぶことはなく、海美ちゃんの照れた笑顔に優也は呆れる他なさそうだ。
「……おまじないもお役御免になる日が近いかな」
先を走る2人へ走って追いつき肩を組み、車へと乗り込んだ。




