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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#4 アンビバレンス
23/34

#4-2 コトラ事件

「優也はさ、食堂でご飯食べないのよ」


 受け取り口で定食セットのサラダを受け取る。定食に限らず、何かしらの料理を注文すると必ずついてくるセットだ。キャベツにコーンにきゅうりにプチトマト。今日のドレッシングはシーザードレッシングにしようかな。美味しそうだ。


 隣でえぇ?と海美ちゃんが悪態をつく。


「せっかく仲直りの印に誘ったのに断った理由がそれ?」


「まー優也にも事情があってね。気を悪くしないで」


 2人でざわざわとしている夜ご飯時の食堂の端っこの席に座る。やばやば、と海美ちゃんが焦っていてどうしたの?と声をかけると、受け取り口の近くにあった給茶器からとったお茶が少しこぼれてしまったらしい。こういうやつって器がちょっと小さくて溢れそうなくらい入ることあるよね。わかる。


 拭き終わり2人揃っていただきます、と声を合わせる。


 今日は鮭の揚げ焼き。外側のカリッとした食感と内側のふわふわな鮭の身がたまらない。

 うちの食堂はとても美味しい上にメニューも日替わりで、10年くらいいる俺でもほとんどメニューが被った日がないと思うくらいだ。噂じゃ有名なシェフが月替わりで付いているらしい。


 落ち着いたところで話を続ける。


「んで、事情ってなに?なんでこんな美味しいのにたべないの?」


「んー簡単に言えば、居心地が悪い。もうご飯とか吐き出しちゃうくらいね」


「居心地?なんふぇ?」


「口に入れながら話さないの〜」


 もごごとうめく海美ちゃんを軽く笑う。

 あぁ、懐かしいな。小さい頃の優也もこんな感じだった。


「過去の事件……コトラ事件は、優也のお父さん、孤虎利人教授が持つ研究室が事件の発端になった。孤虎教授がそのバイオテロの犯人、それも主犯だと疑われたんだ」



 俺たちの運命を捻じ曲げた過去の事件、通称コトラ事件。



 それは都内にある特殊遺伝子細胞総合研究所で起きたバイオテロ。



 そしてそれは、優也の父親である孤虎コトラ 利人リヒト教授が主犯であるバイオテロだと考えられていた。


「でも、事件後の調査や生き残った関係者の聴取で孤虎教授が無実であることが証明された。けれど世間に広まっていない。多分真犯人が見つかるまでは報道されないよう圧力がかかっているんだろうね」


「孤虎の汚名が晴れてないってことだよね。てか、なんでそんなに疑われちゃったの?証拠とか?」


「孤虎教授は細胞の研究をしてて、バイオテロに使われた突然変異細胞も孤虎教授の取り扱うテーマの一つにあったんだよ。それが1番のきっかけ」


「それだけで優也のお父さんが犯人って……ひどいとかの前に、バカなの?」


 どストレートな物言いに口に含んでいた水を吹き出しそうになる。確かに。本当にそれな?


「でも状況証拠はあった。実は事件の起きた研究所の細胞培養室……細胞を育てる部屋って言えば伝わるかな?そこに入れる研究者は限られていた。事件の日の使用記録にあったのは孤虎教授のカードキーだけだった」


「そんなの盗んじゃえばいくらでも」


「ところがどっこい、カードキーは研究室の人しか使えないようそれぞれの研究室の中で厳重に管理されていた。あの日実はちょっとした記念パーティの日でね、その日は外部の人も入ってきたからより厳重に管理していたはずだよ」


「じゃあ孤虎研究室のお父さん以外の誰かがやったんだ!」


「それも違うかな。あの日のパーティに孤虎研究室の人たちはみんな出席してて、途中席を立ったのは孤虎教授だけだった」


「じ、じゃあ細胞が勝手に変異したとか!記録は孤虎かもだけどそれは別の話で、こう、わーっと!」


「それもなし。突然変異した細胞を動物が取り込み特異生物になったことが1番の原因だ。細胞培養室ってのは細胞を育てる場所であってマウスがいるわけない。だから、誰かが部屋の中にマウスを持ち込み悪意を持って事件を起こしたんだ」


「……………」


 ジトーと俺を見つめる海美ちゃん。まぁまぁ、俺が言いたいのは孤虎教授が疑われても仕方なかったってこと。そう宥めて挽回を図る。


「でもね、優也が孤虎教授は事件が起きた時自分といたって言うんだ。実は俺もそれを見てるし、生き残って証言してくれた人やかろうじて残っていた監視カメラの映像でも優也を追いかけて細胞培養室とは真反対の方向に走るところも確認できた。結論、事件が起きたとされる時間に孤虎教授は細胞培養室にいられなかった、って推測されてる」


「その教授って何してたの?優也追いかけて」


「詳しいことは俺にもわからない。けどとにかく孤虎教授の冤罪は晴らされた。恐らく本当の犯人が潜んでいるはず……だけど見つからない以上無実は公表されないだろうね」


「孤虎研究室の人たちはみんなアリバイがあるんだもんね。じゃあ誰が……」


「アリバイは完璧。今でも一応捜査しているみたいだけど新しい証拠もないし特異生物の対応の片手間で進捗はほぼゼロ。あの事件で亡くなった人もいるし、もしその中に犯人いたらもう迷宮入りかな」


 サクッと残っていた一切れを口に運ぶ。端っこまでしっかりと味が染みてて程よい油感がいい。これは真似しようにも難しいな。さすがプロ。


「それでなんでコトラ事件なんて名前」


 プロの味に唸っていると海美ちゃんは疑問が晴れないもどかしそうな様子だ。追加でちょっと付け加えとこうかな?


「当時ここまで大規模なバイオテロは初めてで大混乱だったんだ。その混乱で孤虎の名前が悪く大きく広まっちゃってね。詳しく知らない人達が面白おかしく騒ぎ立てたり、それがさらに変に広まったり。だから『コトラ事件』なんて呼び方をされるようになった」


「それで……私もSCRで話聞かなかったら知らなかった。だって、もう世間じゃ孤虎は悪者だから」


 そもそも孤虎教授がこんな研究をしていなければ悪用されることもなかっただろうというどこかお門違いな批判までされて、未だに《孤虎》の名前に嫌悪を示す人はかなりいる。それに、


 周りに聞かれないよう口に手を当ててコソッと海美ちゃんに伝える。


「昔はね、SCRの人間でも孤虎って名前に嫌悪感を抱く人が多かったんだ。10年前の悪夢を思い出すから嫌いだったり、首謀者ってイメージが払拭されてなかったり。孤虎教授の研究に救われた人が多くいるのだってお構いなしだ」


「えぇ……ちゃんと孤虎教授が無実だって聞けば、ちゃんとわかってくれたりしなかったの?」


「残念ながら一度ついた印象はなかなか消えないし、無実だって確実な証拠もない。それに実際孤虎教授の責任もあるからね。いくら孤虎教授が直接の犯人じゃなくとも、事件の記録にあるのが孤虎研究室なら孤虎教授の責任だ。それに先入観を持ってる人が『実は孤虎教授が首謀者じゃありませんでした』とか聞いても、『本当か?』って信じてもらえないんだよ」


「……そういう人もたくさんいるんだね、この世の中にも、ここにも」


 世間で悪いことを働いたと思われる人が結局無実だったとしても、『そう勘違いされる奴が悪い』『俺は間違っていない』『そんなの信じない』のオンパレード。


 それに無実だって頭では分かってても置き場のないやるせない怒りを誰かにぶつけたくて、信じる気持ちと嫌悪する気持ち、表裏の攻防の末に結局その無実の人に怒りをぶつけてしまう人もいる。やるせ無い世の中で、孤虎教授はその犠牲者だ。


「そういう人達の声を鋭敏な耳は逃さなかった。なかなかに厄介だったんだよ。まぁここ数年は人の入れ替えもあって孤虎を嫌ってる人はあまりいないんだけど、優也にとっては嫌な過去なんだ」


「あぁ、居心地悪いってそういう……孤虎教授は何も悪いことしてないのに」


「……そうね」


 思い起こされる事件後の事情聴取というラベルを貼った優也に自分の父親が犯人だと言わせるだけのための場。


 何を言っても聞き入れてもらえず言葉は捻じ曲げられ、優也の父親の無実を叫ぶ必死の思いは届くことはなかった。今だからわかるけど、警察も一応の犯人を早急に挙げなければと必死だったのだろう。 


 そうして父親の無実を叫ぶ幼い優也に浴びせられたのは大人の心無い言葉。父親を庇っている。父親に洗脳されている。アイツの子供だから助かったんじゃないか。化け物め。なんてそんな言葉に、優也は──


「あ痛っ」


 考え込んでいたら口の中を噛んでしまった。いてぇ〜こういうのって口内炎みたいになって長引いちゃうんだよなぁ。あー痛い。


 大丈夫?と心配してくれる海美ちゃんに大丈夫よありがとうと返す。


「責任があるとはえ直接の真犯人ってわけじゃ無いし、変に悪く言われるのは優也には辛いだろうね。」


「……悪いことしちゃったなぁ。謝りたいんだけど、聞いてくれなさそうだし」


 前の高校での任務で優也の苗字を聞いて海美ちゃんが悪人じゃないか!と驚いてしまった。悪気がないことは直ぐに伝えたし本人にもすぐに誤解を簡単に説明して謝っていたが、優也にとっては昔自分を虐げてきた人間と同じように見えてしまったのだろう。嫌悪感たっぷりの顔と握り込んだ左手首が言葉よりも物語っていた。


「まぁまぁ。ぱっと聞いて口に出ちゃうのも仕方ない。優也もそれをよくわかってるよ。頭ではね」


「でも」


「んーじゃあ今度人が少ない時間に3人でご飯でも食べよう、ね?周りに人が少なければ優也も食べられるかもしれないし」


「……うん。そうだよね、きっと」


 悲しそうな表情を浮かべる海美ちゃん。前に見たはつらつとした元気は見る影もない。優しい子なんだな、と感じながらぽんと頭を撫でてやる。


「大丈夫。きっと仲直りできるから」


「うん。そうだよね。あーあ、私もあの事件の当事者で、あることないこと言われる辛さとか色々知ってるはずなのになって。自分にも悲しくなっちゃったよ」


「……当事者?」


 被害者じゃなくて?と聞くとうん、と返ってくる


「だって私も事件の時にあの研究所にいたからね」


 うんうん。あの研究所に………


「……え?」



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