#4-1 機嫌の悪さは誰のせい?
「そこまで!」
5月某日──SCR本部、戦闘訓練室にて
「はぁ、はぁ、ちょ、優也強すぎ……」
「お疲れ海美ちゃん。今日は終わりにしような。はい水、よく飲んで」
「龍斗さんありがと……ふぅ……」
今日はもう18時。業務終了の時間だ。疲れたぁ!と床に座り込む海美ちゃんの声で戦闘の訓練で張り詰めていた空気が緩む。
海美ちゃんはよっぽど喉が乾いていたのか座り込んでごくごくごく、と一気に水を飲み干した。対して海美ちゃんを相手していた優也は少し息を切らした程度で、タオルで汗を拭いている。
斗或高校での事件から3週間後、色々な手続きや鮫島家への説明と交渉を経てついにSCRとなった海美ちゃん。その後はうちの研究員による怒涛の検査祭りで色々な能力を持っていることもわかった。
例えば殴る蹴るなどの攻撃は、打撃に加えて瞬時にその体の部位が鮫の頭部に変形し相手に噛み付くという特異な能力があることがわかった。それに加え、電気ウナギのように体に溜め込んだ電気を放出し辺りに電撃を放つこともできれば、背中から尻尾まで背骨上に連なる細かい棘にはエイのような猛毒もあるらしい。俺たちと同じように、単種類ではなく色々な魚類のキメラだそうだ
その能力を考えるとどうしても近接戦になりやすい。今まで前衛は優也の近接戦、俺は後衛でサポートの役割がほとんどだったから、同じ近接戦担当として優也が海美ちゃんに格闘訓練をしているところだ。2人には色々な意味で仲良くしてもらわないと、
……なんだけど、
「も、優也強すぎ!ちょっとは、はぁ、加減とかないの!?」
「全力で来いって言ったのはそっちだ」
「そう、そうだけど……!は、はやい!ずるい!」
「特異生物に俺のチーターみたいな俊敏さを持ってるやつがいてもその言い訳するのか?」
「うっ……」
「こら優也、意地悪しないよ。海美ちゃんももう18時だしご飯食べよう?」
まぁ、このザマでありまして。
フン、と機嫌を損ねた優也は俺たちの横をスタスタと通り過ぎ、タオルで汗をざっくり拭きながらシャワー室の方向へ歩いていく。不機嫌でいつもの猫目が普段より鋭い。あっ!と海美ちゃんが慌てて立ち上がった。
「優也!この後一緒に食堂でご飯食べない?」
あ〜〜〜〜〜
「……悪いけど行かない。2人で食べれば?」
低い声でそう言い残して優也は歩いていく。いやほんと態度が悪い。それもあの学校の事件があってからは特に海美ちゃんに対して冷たいのだ。仕方のないような、大人気ないような。今の食堂の話は優也の地雷を踏み抜いたから仕方ないよりかな。
去っていく優也の後ろ姿を見送りながら海美ちゃんがゆっくりと立ち上がるものの優也にボコボコにやられたせいでフラフラだ。慌てて肩を支える。
「わ、ありがとう龍斗さん」
「うん。ゆっくり歩こうね」
「優也ってやっぱすごいね。前のヒルの時もそうだったけど体が軽いっていうか、重力あるの?みたいな動き」
「そうだね。男にしちゃ小柄だし、小回りきかせながら相手の急所を的確に打つって感じだね」
「いたた……突然目の前から消えた!?って思ったらいきなり後ろから叩かれるし。首の後ろが痛いよ」
「あれまぁ」
でも見ている感じ優也も優也で少し手加減をしてあげてたんだけどね。その証拠に、海美ちゃんはあんだけバカスカ殴られているのに見る限り顔は避けられていて骨は折れてもない。俺の時は「すぐ回復するんだからいいでしょ」とか言って容赦無く折るくせに。心の機微には鈍感だけど、こういうとこは器用なんだよなぁ。
「ま、アイツは10年前からずっと訓練と実践を重ねたプロだし、つい先月までただの女子高生だった海美ちゃんが勝てるはずもないよ」
「そんなぁ」
「でもでも、運動神経は結構いいみたいだから自信無くさないでね」
目に見えて落ちる海美ちゃんの肩を支える
「……まだ怒ってるかな、あの日のこと」
「あ〜さっきのは追加の一撃決めちゃったからね。ご飯食べながらその話もするから、早くシャワー浴びといで」
ポン、と頭を撫でてやる。それでも不安げに瞳は揺れていた。




